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有紀の気持ち・狂介の気持ち 1

実験屋◆ukZVKLHcCE氏

sideY

「あ〜・・・つまんないな〜」
学校の帰り道、いつもなら狂介と二人で帰る道を今日は僕一人で
歩いていた。

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事の起こりは三日前、文化祭の出し物を決めるに当たって。
「劇?」
「そう。何か研究して発表したりするより面白いだろ?」
と発言した委員長の提案でうちのクラスは劇をすることに、
題目はスターウォー・・・
「「「「スターウォー●!!!!????」」」」
クラスの誰もがわが耳を疑った。題目を決める際に決まった
実行委員達が言うには
「ホラ、見に行ってない人のためにさ〜」
「海賊版はいけないじゃん。」
「俺達で再現すれば問題ナッシング!!」
何でこんな人達を実行委員に選んだんだろ。すっごく頭が痛くなったよ。


「で、山崎には主役のア●キンをやってもらうんでヨロシク。」
「なぬ!?」
狂介は食べていたうまい棒めんたい味を吹き出した(←みんなは授業中に食べ物食べちゃダメだよ)
「なんで俺がそんなメンドイ事せにゃならんのだ?」
「ホラ、山崎は身長も190近くあるし、体格もガッシリしてるし・・・」
「ふざけるな・・・殺すぞ・・・」
狂介は実行委員の喉を片手で掴むとそのまま持ち上げる。
「グッ・・何より・・その怪力・・・グフ」
実行委員はそのままオチた。
そう、狂介は強い。高校に入学して間もない頃に
新入生いじめをしていた上級生を先輩の面目丸潰れにするほどに叩きのめしっちゃったの。
そのせいで不良グループが目をつけて20人がかりで狂介をリンチしようとした事が
あったんだけど狂介は
「・・・少ねぇな・・・」
言うや否や狂介はその20人をものの10分で負かしてちゃって・・・。
その後も何回かちょっかい出してくる人達を相手にしてたけど
結果はみんな同じ。


校内では狂介を怖がる人もいるけど同じクラスのみんなや
狂介を知っている人は狂介はいい奴だって知ってるから孤立してるわけでもない。
本人曰く「素晴らしき低たらくで退廃的な学校生活」なんだって。
その人柄でクラスの中心になる事も多い。しかもモテる・・・←これは気に食わない

「悪りぃな有紀。劇の練習するから先に帰っててくれ。」
「え〜。」
結局主役を引き受けた狂介は放課後にそっと耳打ちしてきた。
「怒るなよ。埋め合わせは帰ったら・・・・な?」
ナントカの騎士の格好をした狂介は申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
いつもと違う格好にときめいたりしたけど、やっぱり不服。・・・でも。
「うん・・・分かった。狂介の部屋にいるから。」
ここはガマン。ワガママ言って狂介に嫌われたくないもん。



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「でも、つまんない。」
僕は照明係でまだ舞台設営してないからしばらくはヒマ。
他のみんなに迷惑になるから残らないで帰ってるけど・・・・
「狂介・・・。」
女だって事を教えてから狂介はすごく優しくなった。前は優しく無かったって
言うわけじゃなくて、その・・・大切にしてくれて・・・。
たまに怖いくらいにイジメてくる時もあるけど、後で必ず謝るし、
ギュッて抱きしめてくれるし、いっぱいキスしてくれるし・・・。


・・・・気持ちよくしてくれるし。


最近僕は欲張りになったかもしれない。女の子はモチロン男の子が
狂介と話をしているのにも嫉妬するようになった。
教室にいなくても玄関や空いてる教室で待ってれば良かったのに
一人で帰るって事はそんな光景見たくないし、近くで感じたくないって
思ってるから・・・。
無論そんな気が狂介には無いことは分かってる。でも・・・・・

狂介には僕だけを見ていてほしい。

でも、そんなこと狂介が知ったら・・・
「・・・・軽蔑されるよね。」
ワガママ、自分勝手な女って思われると思う。そう思うと怖くなった
男だって騙してた僕を嫌わないでくれた。好きだって、愛してるって
言ってくれた。そんな優しい狂介に振り向いてもらえなくなったら・・・。
「はぁー・・・」
足取りに比例して僕の気持ちも重くなった。


「オイ南!!」
「え?」
急に誰かに呼び止められた。
考え事をしていたせいでそんなに近くまで接近されていたことに
気付かなかった。
「アンタは・・・・升沢さん?」
升沢啓。僕たちの2こ上で性格はかなり悪い。ウワサじゃ女の子に乱暴したり
クスリを売ってるなんてものもある。そのほとんどが90%本当っぽい。
「今一人か?」
「そうですけど・・・。」
升沢さんの手にはチタンの警棒が握られていた。
「山崎の野郎に、ダチが誰だかわかんねー位ボコられた姿を拝ませてやる。」
・・・そうだ!!この人は狂介を憎んでいる。狂介に負けて
その騒ぎの責任で退学になっていた。


「ヘッ。悪く思うなよ。これも全部山崎のせいだ。」
升沢さんは警棒を大きく振りかぶって殴りつけてきた。
「くっ・・・。」
それをよけて、回り込み脇腹を思い切り殴る。男の振りしてるんだもん。これくらいは・・・
「ぐぅ・・・このクソガキィ!!」
「あぁ!!」
僕のパンチはあまり効いていなかったらしい。体勢を立て直し回し蹴りをしてきた。
何とかガードしたものの衝撃は大きく、そのまま地面に倒れこんだ。
(やっぱり、男の子には勝てない・・。)
悔しかった・・・何も出来ない自分が。
「ふざけやがって!!」
升沢さんは僕の髪を鷲?みにすると近くの路地裏へと連れ込んだ。
「離せよ!!」
「うるせえ!!」
バキィィィ!!
顔を思い切り殴られ、僕は壁に叩き付けられた。


「うっ・・・。」
目眩と痛みで完全に力が抜けてしまった。立ち上がることも出来ない。
「ヘッ・・へへ・・手間かけさせやがって・・・」
下卑た笑いを浮かべながら近づいてくる升沢さん。
「ヒッ・・・・」
恐怖に身体が震えて動けない。
(もうダメ。怖いよぉ・・・助けて狂介!!)
「喰らえ!!」
自分に向けられる攻撃に目をつぶった

その時!!

「・・・・何してるんだ?」


sideK

「ワリィ、俺もう帰るわ。」
「え?オ、オイ山崎!!」
監督の静止も聞かずに教室を飛び出た。

・・・・いやな予感がする。

朝から妙な胸騒ぎがした。なんかすっげぇ良くないことが起こりそうで。
有紀にあってその胸騒ぎはもっと大きくなった。
(有紀になにか起こるかも・・・。)
昔から嫌な予感だけは外した事が無かった。誰かがケンカ売ってくるわ、
全員サービスの懸賞を貰えないわ・・・・今回も間違い無く何か起こる。


しかし、放課後まで何事も無かったので
(今日は気にしすぎたか?)
と、俺は緊張の糸を緩めてしまった。これが失敗だった。
とりあえず有紀を先に帰した。学校で何か起こると思っていたから
先に帰してしまえば安心と・・・。
しかし。
(狂介!!)
有紀が助けを求める声がした。聞き間違いじゃない。


「クソッ!!」
自分に悪態をつきながら学校を出る。先に帰すんじゃなかった。
終わるまで待っててもらえば・・・クソッ・・クソッ・・。


家が隣なので俺と有紀の帰宅路は同じだ。しかし、いくら走っても
有紀には追いつけない。もう追いついてもいいはずなのに・・・。

「・・・・あれは。」

道に何かが落ちていた。



「有紀のカバン・・・・有紀!!」
(何があったんだ!!何がいったい!!クソッ・・クソッ!!)
当り散らしたい衝動を抑え、有紀を探した。
「どこだ・・・どこだ・・・どこにいる。」



「へへへ。」
「!!」
汚い笑い声が聞こえた。この声には聞き覚えがあった。
「有紀!!」
俺はその声の先に向かった。



「・・・・何してるんだ?」
「や・・山崎!!」
最悪の光景だ・・・。アイツたしか、俺が退学に追い込んだ升沢だ。
あの野郎が有紀を傷つけて・・・・状況は一瞬で把握した。
「・・・どいてろ。」
俺は升沢を突き飛ばした。大して力入れてないのに、軟弱だな。
そんな事はどうでもいい。
「有紀・・・大丈夫か!?」
「き・・狂介?」
有紀の返事は弱々しかった。頭をぶつけたのか意識が朦朧としているようだった。
そして何より・・・。
「・・・殴られたのか。」
有紀の頬は軽く腫れ、口の端からは血が流れていた。
「・・・・ゴメンな・・・有紀。」
俺はハンカチを取り出し血をぬぐった。
「狂介・・・きてくれたんだ。」
「当たり前だ。・・・本当にゴメン。」
俺は有紀を抱きしめた。

(・・・・俺は有紀を泣かせることしか出来ないのか?)


自分の無力、そして有紀を傷つけたという罪悪感が襲い掛かる。
「へっ・・何ホモってやがる。」
升沢が起き上がり警棒片手に構えをとる。
ガッ!!!!
「な・・何!?」
俺は壁を殴りつける。拳はほぼ壁にめり込んでいた。
「狂介・・・?」
「すぐに終わるから・・・。」
有紀の頭を撫でる。それに安心したのか有紀の身体から
震えが消えていった。


「・・・お前・・・覚悟はいいな?」
「ケッ、素手で何が出来る?こっちには・・・」
言い切る前に升沢の身体は吹っ飛んでいた。
「ギャ!!」
醜い声を上げ倒れる升沢。だがこの程度で許す気は無い。
「お前にあるのは、この棒きれか?」
升沢の警棒を拾い上げる。
「何しやがる!!か・・返せ・・なっ!!」
力を込めて曲げてみる。簡単に四つ折までは曲げることが出来た。
チタンってのは柔らかい金属みたいだ。
「そ・・そん・・・な・・・・バ・・な」
「『そんなバナナ』に興味は無い。」
升沢の右腕を思い切り踏みつける。
「ギャァァァ!!」
”何か”が砕ける鈍い音と共に升沢が叫ぶ。・・・・下品な男だ。
次は・・・左腕。


・・・右足。
・・・左足。
四肢を踏みつけるだけで汚い声叫ぶ升沢。
骨?・・・あぁ、骨折れてるんだ・・・まぁ関係ないな。
「が・・は・・」
「・・・・トドメだ。」
俺は升沢の喉元を右手で掴み歩く。
「何を・・・する気だ・・はな・・離せ!!」
「すぐ離してやる・・・ちょっと待て。」
歩いて20秒もしない所にドブ川があった。水面まで10m・・・ココがいいだろ。
「離してほしいって言ってたよなぁ。」
「ヒッ・・・や・・やめ・・」
「オラァァァ!!!」
水面目掛け升沢を思い切り叩き付けた。
ザッパァァァン!!!!!!
升沢は水中に消えた・・・・・まぁ、いいか。


「有紀、終わったぞ。」
有紀を抱き上げ歩き始める。さっさと帰ろう。
こんな場所にいるのは有紀に良くない。
「狂介、アリガトウ・・・。」
「・・・・いや。悪いのは俺だ。」
そうだ全て俺の責任だ・・・。俺は・・・・・なんて事を。
「狂介・・・・・」
頭を打ったからか、有紀はそう呟くとそのまま眠ってしまった。

「俺は・・・・俺は・・・・。」


sideY
「ん・・・ここは?」
気が付くと僕の部屋にいた。そうか、あのまま気を失って・・・・そうだ!!
「狂介!?」
狂介を探そうと起き上がろうとしたら・・・。
「イタタタタ。」
頭に激痛が走った。どうやら打ったところがコブになっているみたい。
「・・・最悪。」
手元にあった鏡を見ると、殴られた場所が軽く腫れてるし。
(こんな顔じゃ狂介に見せれないじゃないか!!)
そのまま布団にもぐりこんで丸くなる。次第に目に涙が溜まっちゃう。もしかして、
(こんな顔だから呆れられちゃったの?どうしよう・・・・どうしよう・・・・。)
何を考えても出てくるのは悪いことばかり。大声で泣きたくなったその時。


「有紀。起きてるか・・・?」
狂介が来てくれた。とってもうれしい。
けど、泣き顔なんて見せたらまた狂介を心配させちゃう。
(ゴメンね狂介。)
僕はそのまま狸寝入りをした。
「・・・」
寝ているのを確認する様で狂介は僕の頭に触れてきた。
狂介の手から感じるぬくもりが気持ちよかった。このままずっと触れていてほしい。
「俺は最低だな・・・。」
(えっ!?)
狂介の告白に自分の耳を疑った。
「・・・俺はお前を泣かせてばかりだ・・・・」
(何言ってるの狂介?)
「俺はお前を不幸にしかしない・・・。」
(違う!!そんなこと無いよ。)
「俺は怪我しようが、死のうがいいんだ。・・・・でも有紀が傷つくのは・・・・」
(ダメ!!死んじゃやだよ。)


「もう・・会わない方が良いかもな・・・」
(そんな・・・)
「有紀・・・お前は俺なんかよりもっといい男と幸せになれ。」
狂介の手が僕から離れていく。そうしたら物凄く身体が寒くなった。
こんなの耐えられないよ。
「・・・じゃあな。」
狂介が出て行っちゃう。そうしたらもう狂介に見てもらえない、
触ってもらえない・・・・そんなのイヤ!!


「狂介!!」
狂介にしがみついた。
「!!・・・・有紀?」
狂介は驚いたように僕を見る。
「イヤだ・・・イヤだよぉ・・・」
もう泣くしか出来なかった。狂介がいなくなる位だったら
泣き落としでも何でもしてやる。
狂介が・・・
狂介が・・・
「ヒッ・・・・ヒック・・・・狂介ぇ!!」
「有紀・・・・。」
「イヤだ・・・イヤだ・・・行かないでよぉ狂介・・・」
「有紀・・でも俺は・・・」

「じゃあ僕死ぬ!!」


「な・・何言って・・・」
「狂介がいてくれないなら死んだほうがいい!!」
「バカ!!命は大切にしろ」
「じゃあ一緒にいて!!」
「有紀・・・・」
「狂介がいないと僕死じゃうんだよ?そのくらい僕にとって狂介は大切なの・・・」
これは僕の本当の気持ち。狂介がいてくれないと・・・・僕は・・・
「僕の事、こんなにしちゃたんだから・・・責任とってよ!!」
本当はこんな言い方はしたくなかった。でも、狂介を無くす事には代えられない。
悪女でも尻軽でも何とでも言われてやる。

「・・・・・」
狂介は僕に振り向いて何も言わない。
やっぱり僕に愛想尽かしたのかな?・・・・怖い。
「有紀。」
狂介が僕の肩に手を乗せてきた。
「俺は・・これからも・・・有紀を泣かせるかもしれない。」
「狂介・・・。」
「傷つけるかもしれないし、悲しませるかもしれない。」
「そんな事ないよ。」

「それでも良いなら・・・・俺と・・・付き合ってください。」



時間が止まったような気がした。

「狂介。」
涙が溢れて止まらなかった。
「考えてみればさ、ちゃんと言ってなかったからな。付き合うって。」
「狂介!!」
僕は狂介に抱きついた。
「何があっても・・・俺は有紀を守るよ。」
そう言うと狂介は僕の目じりに溜まった涙を拭ってくれた。
そんな狂介の優しさに触れて僕は何で狂介を好きになったか
ちゃんと理解できた気がした。


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