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小ネタのつもりが長くなったよ(2)

10_12氏

 私は、動けなくなった。
 奴の力に押さえつけられているからではなく……奴の瞳に射すくめられて、だ。
「抵抗、しないのか?」
 その瞳は、本気だった。本気で私の身体を欲している目だった。
 いつだって、こいつは優しかった。いつも私を気遣ってくれて、私が女であると
わかってからも、男であろうとする事を手助けしてくれて……それが、ありがたくもあり
……そして、寂しくもあった。
 ――どうして、寂しかったんだろう?――
 そんな事を、ふと私は考えた。今この瞬間に至るまで、全く考えた事が
なかった事を、今、この瞬間だから、考えてしまった。
「……ははっ……そうか、そういう事か」
「……なにがおかしいんだよ」
 奴は怪訝そうに眉をひそめる。まあ、こんな状況なのに、押さえつけている
女が笑みを浮かべて一人頷いているのだから、無理も無いか。
 だから、私はそれを告げる事にした。
 今この瞬間になって、ようやく気づいた――自分の気持ちを。
「いや、何……ずっと前から、答えは決まっていたんだな、と思ってな」
「……答え?」
「ああ、そうだ。僕が……いや……私が……私という女が、お前という
 男を欲していたのだ、という答えだ」
「な……何言ってんだ?」
「言葉通りさ……私は、お前が好きだ」
「っ……」
「だから抵抗はしない。例え、お前が私の身体目当てで今事に及んでるのだとしても、
 お前になら……お前にだからこそ……私は、抱かれたいと……そう思った」
「……お前なぁ」
 不意に、呆れたような笑みを漏らして、奴は力を緩めた。
「一応、俺の方が本当の男なんだから……面目くらい保たせてくれよ」
「え……?」
 上半身を起こすと、奴は正座をしていた。
「な、なんだ……?」
 私が戸惑っていると、奴はそのまま手をベッドにつき、頭を下げた。
 ようするに、土下座した。
「……すまなかった。いきなり、乱暴な事して」
「え、いや……それは、別に、謝る必要は……」
「いや、謝らせてくれ。だって、もう少しで俺はとんでもない事をしていた
 所だったんだから」
「だから、別に私にとってはとんでもない事でもなんでも……」
「だって……俺も、お前の事、好きだから」
 ………………。何という事だ。言葉が出ない。
 ………………えっと……その……どうしよう? どうすれば?
「けど、お前は男としてやっていこうとしてたわけで……だから、こういう事、
 言われても迷惑だろうなと思ってて……」
「め、迷惑だなんて……そんな……」
「なのに、お前……あんな、クマさんパンツなんか履いて……」
 ……あのパンツか。
「今まで何とか我慢してたんだけど、あれで『お前って女なんだよなぁ』と
 思っちまって……それで我慢できなくなって……それで、あんな事を……
 だから、すまなかった!」
「………………要するに」
「ん?」
「私たちは……ずっと、両想いだったのか?」
 今までの話を総合すると、そういう事になる。
 だとすれば……。
「……えっと……そういう事に、なるな?」
 だとすれば……!
「だとすれば……何も問題は無いという事だ!」
「うわっ、ちょっ……!?」
 そう言って、私は奴に抱きついた。
 というか――押し倒した。


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