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遠井家の人々 1

名無しのアヒル氏

ここは遠井城という遠井家の居城である。城主遠井真琴とその一人息子絢夫が暮らしているが最近城主の真琴の様子がおかしい。

「一体どうしたんだろう。健康が取り柄の父様が今日も体調が思わしくないなんて・・。」
そう絢夫は三人の従者に話し掛ける。絢夫は明るく人なつっこい印象が特徴の可愛らしい少年である。
その父真琴はそんな息子に似ても似つかず、可愛い名前もまた似合ってない見るからに健康で逞しい男性である。
見た目通り豪胆で、毎朝の乾布摩擦と武術の鍛錬は毎日欠かさない、身も心も逞しい男である。
そんな真琴がここ数日熱っぽく布団から出ることが出来ないでいる。40何年間生きてきて、風邪一つ引いたことないと自慢してたのに。
しかも医者に見せても原因が不明であった。
「きっと大丈夫ですよ。あの真琴様が病気なんかに負けませんよ。」
そういって従者の一人、春希が慰める。控えめで利発な性格で繊細な容姿をしている。
「大丈夫など状況も掴めぬのに軽々しく口にするものではないぞ。」
「そんな言い方ないだろ!!夕顔丸!!兄貴は絢様を慰めようとしてんのに!!!」
夏希が怒りの声を上げる。夏希は春彦の双子の弟である。容姿は兄に瓜二つの優男だが
負けん気が強い性格で雰囲気はかなり違っていた。その夏希が怒った相手、夕顔丸は春希、夏希兄弟とは違い、
半年程前遠井家に仕え始めた。辛辣な口を利く上、素性を話さない。楽観的な性格の真琴と絢夫はそんなこと気にしないが
夏希はことあるごとに夕顔丸につっかかていた。
「・・慰めたところで病気が治るわけでもあるまい。」
「てめぇ!!!」
夏希が夕顔丸に掴みかかろうとしたところ
「夏希!!やめるんだ!!」 「やめなよ!!」
春希と絢夫が同時に制止の声を上げる。その二つの声に夏希の動きが止まる。
「春希も絢様もなんでこんな奴かばうんだよ!!」
「今、喧嘩する様な状況じゃないだろ。」
春希が諭す。その説得に夏希が引き下がる。
「ちっ、春希と絢様に感謝するんだな、夕顔丸。」
「別に貴様と喧嘩したところで負ける気はしない。ま、面倒ごとは避けられただけよいが。」
夏希はその言葉に再び怒りを覚えたが仕方なく抑えている。
「・・・一応言い過ぎたとは言っておこう。」
『なら余計なこと言うな!!』 夏希は内心怒声を上げた。
その状況に少し困りつつも絢夫は父の心配をした。
「父上・・。」


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