Index(X) / Menu(M) / / Next(N)

保守代わり277の続き

10_189氏

「ふふふ……苦節一週間、遂に完成したまともなチョコレート……
 だというのに……だというのに!」
「……すまんって……ゲホッ、ゲホッ」
「まったく、せっかくのイベントだと言うのに、どうしてこうも間が
 悪いんだい、 君は?」
「うぅ……病身にお前の口撃は堪える……」
「とにかく、さっさと治してくれよ」
「おう」
「はぁ……」
「なんだよ、ため息なんかついて」
「いやね……せっかく、僕達はクリスマスにこういう関係になった
 のに、なかなか上手い具合にイベントを楽しめないな、と思ってね」
「正月はお前の方が風邪ひいてたんだよなー」
「……あれはすまなかったと思っている。せっかく初詣に誘って
 もらったのに……」
「ひょっとしてだが、前日に浮かれすぎて、何着て行こうか
 散々悩んで、とっかえひっかえしてる内に寒さにやられて
 風邪ひいた……とかそういう事だったりする?」
「……そ、そんなわけ、ないじゃないか。まあ、確かに、その、
 なんだ……振袖を着ていく為に悪戦苦闘をしてはいたけれど
 風邪の直接の原因は姉がひいていたのを伝染されたからで
 あって、着付けの練習を暖房の効いていない部屋でやってた
 せいで見事に風邪を引いたとかそういう事実は一切無いからね」
「……」
「……どうして、そんな事を?」
「いや、だって、お前のその手」
「こ、これは……」
「絆創膏で隠してるけど、傷だらけだよな? チョコ作るのに
 そうなっちゃうって事は、お前って結構ドジなところあるのかなぁ、
 って思ってさ」
「こ……これはちょっと昨日大根をおろす時に卸金でザザーッと」
「やめれ。グロい話やめれ。っていうか昨日お前さっきシチュー食べた
 って言ってたじゃんか。シチューに大根おろしってシュールだな」
「うちではそれが普通だ!」


「……見栄張らなくていんだぜ。俺安心してんだから」
「あん、しん?」
「男の格好してる時のお前ってさ、何かこう隙がなくて、なんでも
 こなす凄い奴、みたいな所があるじゃん。実際勉強も運動も
 男顔負けだし」
「……それは……たまたま、だよ」
「たまたまにしろ、何にしろ……ちょっとだけ、お前が俺の彼女で
 ある事に、自信なくしちゃう時があるのは、ホントの事なんだよ」
「……」
「あはは、何言ってんだろうな、俺。熱に浮かされてんのかな?」
「……僕の事、嫌いになった?」
「とんでもない!」
「そ、即答!?」
「お前にも……ほほえましい所があるんだな、って思って安心して、
 それで、あーっと……その、な……可愛いな、って思って……
 前より……もっと好きになった、かな? あは……はは……」
「……」
「駄目だ! 俺まだ熱ある! だから寝る! おやすみっ!」
「恥ずかしくなって布団で顔を隠すようなハメになるなら、
 最初から言わなきゃいいのに」
「……うるせー」
「でも……ありがとう」
「へ?」
「とりあえずね、ここにチョコ持って来てるんだけど……」
「あ、うん……置いといてくれたら、治ってから食べるぜ」
「僕は生憎わがままでね……今すぐ食べてもらって、
 それで感想を聞きたかったりするんだ」
「……あー、そっかー。でもなー、ちょっと今の腹具合だと……」
「溶けたチョコなら大丈夫だろ?」
「……大丈夫、なのか? よくわからんが……まあ、それなら……」
「良かった。じゃあ……もぐもぐ」
「……ちょっと待て、まさか」
「くひうふひへはへはへへあへふ」
「そ、それは……ちょっとどころじゃなく恥ずい!?」
「らいひょうふひゃよ……ひゃへもひへひはい」
「誰も見てないって、そういう問題じゃ……んむぅっ!?」
「ん……」
「……」
「……」
「ぷは」
「……甘い、な」
「どっちが?」
「……チョコも、お前の唇も」
「風邪、ばっちり治してくれよ」
「お前のチョコでばっちり治るさ。ありがとな」
「どういたしまして。じゃあ、僕は帰るね」
「え……もっといればいいのに」
「生憎と、階下で音がした。タイムオーバーだね」
「……ちぇっ」
「じゃあ、風邪が治り次第、学校でね」
「おお。また学校で」


後日談

「……お前、やっぱりドジっ娘だろ」
「そ、そんなことは……ゲホッ、ゲホッ……ないよ」
「説得力ねえ!?」
「伝染したら治るって説は、本当だったんだねぇ……」
「ったく……早く治してくれよ」
「うん……治すから、是非僕にも例のアレを」
「そしたら俺がまた風邪ひくだろうがっ! ……いや、そりゃ、
 したくないわけじゃないけどっていうかしたいっつうかむしろ
 俺としてはその先をそろそろ何を口走ってるんだ俺はっ!?
 お前もそういうキャラじゃないだろ!? まだ熱あるんじゃねえかっ!?」
「ふふ……ばれたか。さっきから頭がボーっとして仕方が無い。
「寝とけよ。ホントに」
「仕方が無いな、我慢して、玉子酒と葱で治そう」
「渋い治し方だな」
「効くものだよ、民間療法は」
「ま、とにかく早く治す為に、しっかり寝とけ。……俺は、理性が
 しっかりしている今の内に帰っとくから」
「ん。わかった……まあ、別に、寝込みを襲ってもらってもいいんだけどね」
「襲えるかっ! やっぱり熱あるな、お前」
「あはは……あう、頭がガンガンしてきた……」
「ほら、冷え冷えクール貼ってやるから、寝とけ寝とけ」
「ん……ああ、気持ちいな、これ……」
「まったく……」
「………………」
「……寝た、か?」
「………………」
「……寝顔……可愛いなぁ、ホント……」
「………………」
「よ、よし、じゃあ変な気起こさない内に帰るか」
「………………」
「あ、そうだ……チョコ、ありがとな。おいしかったぞ」
「………………」
「じゃ、また学校でな」

おわり


Index(X) / Menu(M) / / Next(N)