神楽と過ごす日々は、穏やかに流れていった。窓外からやってくる風が、夏の薫りを運んでくる頃になると、ふたりで過ごす日々にも一定のリズムが生まれるようになっていた。言い換えるとするならば、ふたりで作り上げていった日常の繰り返しだ。しかし、特別な出来事のない日々の中でも、神楽は毎日のように新たな発見をし、好奇心旺盛な疑問を自分に投げかけてきた。そして、疑うことを知らない神楽は、自分の答える内容をスポンジのように何でも吸収した。
夜、寝る時間になると、神楽はその日の出来事を自分に話しかけてくるようになった。神楽がはじめて見たことや知ったこと、疑問に思ったことなど、神楽が寝るまで銀時は話に付き合った。
神楽は眠くなると、小さな身体を丸くして、自分の腕の中に転がり込んでくる。実にわかりやすい合図を前に、銀時は神楽の小さな背を抱いて横になる。小さな温もりを抱いて寝ていると、自然と心が落ち着いた。
一週間に一度くらいの割合で、神楽は夜中に目を覚ました。悪夢にうなされて泣きながら起きることもあったが、昼寝のしすぎで朝になる前に目が覚めてしまうことの方が多かった。眠れず不安な顔をする神楽に、銀時は高い高いをしてやった。静かな夜にふたりでささやかな遊びに戯れていると、眠れぬ夜の孤独や恐怖を、神楽は忘れられるようだった。
しだいに神楽の言葉だけではなく表情や声音にも注意を向けるようになり、夜、神楽を寝かしつけるための方法を得たように、神楽の考えていることは漠然と理解できるようになっていった。しかし、見当すらつかないものというのは、どうしても出てきてしまう。
それは日に日に顕著になっていった。いつからだろうか。神楽はよく自分の後ろをついて回るようになっていた。家の中で部屋を行き来しているときに、ふと視線を感じて後ろを振り向くと、神楽がちょこんと佇んでいたりする。最初の頃は、自分に何か用があってそうしているのだと思っていた。ところが、後ろを振り返って、「どした?」と問いかけると、神楽は慌てた様子で、何も言わずに逃げて行ってしまう。逃げたあとを目で追いかけると、完全に自分から逃げてしまったわけではなく、神楽は顔を半分覗かせてこちらを見ていた。
自分の行動を見張っているのだろうか。警戒しているのだろうか。見ず知らずの人間が相手ならばそう考えたかもしれないが、相手は神楽だ。夜、いつも自分の腕の中で安心しきった顔で眠る子どもが、今更懐疑心を持つはずがない。考えれば考えるほどわからなくなってゆくが、神楽は神楽なりに考えていることがあるのだろうと、銀時は静かに見守ることを決めた。
神楽のこの不思議な行動にも慣れてきた頃。神楽がこの家で過ごすようになって二ヶ月が経過した日、星海坊主が約束通りに地球へとやって来た。
「パピー!」
玄関の扉を開き、星海坊主を出迎えた銀時が神楽の名を呼ぶと、神楽は玄関へと一目散に駆けてきた。「神楽ちゃん!」と両手を広げた星海坊主に、神楽が飛びつく。
再会を喜び合う親子を見つめていると、自然と顔が綻んだ。と同時に、神楽の視界から自分が消えていることに、銀時はほんの少しの寂しさを覚えた。
星海坊主を部屋に通しお茶を淹れるが、またすぐにここを発たなければならないのだと星海坊主は言った。ソファに座った星海坊主は、膝の上に神楽を乗せて、この二ヶ月のことをきいてきた。神楽は星海坊主の買ってきた土産の饅頭に夢中で、自分達の話は聞いていない。銀時は起こったことをありのまま話し、「神楽はいい子にしているよ」という言葉で締めくくった。安堵の笑みを浮かべる星海坊主に、銀時も胸を撫で下ろす。
銀時は湯呑を傾けた。喉を潤しながら、他に伝えておかなければならないことはなかっただろうかと考える。そこでふと、ここずっと心に留めていたことが銀時の脳裏に浮かび上がった。
「……あ」
無意識に声を上げてしまい、星海坊主の表情が険しくなる。
「なんだ?」
眉間に皺を寄せる星海坊主に、銀時は緊張した。空気が張り詰めてゆく中、星海坊主に話すべきかどうか迷い、息を呑む。星海坊主は視線だけで、「話してみろよ」と語りかけてきた。
父親ならば、神楽のこの行動の意図がわかるかもしれない。この機会を逃すべきではないのだろうと、銀時は口を開いた。
「……実は最近、神楽がよく俺の後ろをついて回るようになったんだよ」
自分が背後を振り返ると逃げて行ってしまう神楽の不思議な行動も、銀時は正直に話した。
星海坊主の眉間から、皺がなくなってゆく。星海坊主は呟くように言った。驚きの入り混じった声は、しだいに笑みを含んだものへと変わっていった。
「神楽は……随分とお前に懐いてるんだな」
「…………」
意外な返事に、銀時は星海坊主を凝視する。星海坊主は視線を落として、過去を噛みしめる声で言った。
「昔の話だが、俺が家に帰る度に、神楽は同じことをしてたんだよ。片時も俺から離れようとしなかった」
「…………」
「神楽は、お前と離れたくないんだろうよ」
実の親に対してしていたことを、神楽が自分にもしている、その事実は、神楽との距離の縮まりを銀時に明示した。
神楽にとって自分がどんな存在であるのか。自分が考えている以上に、神楽の心の中で自分が占めている割合は大きくなっているのかもしれない。星海坊主の膝の上から降りて饅頭を頬張りはじめた神楽を、銀時は目を細めて見つめた。
星海坊主は、「ただ、俺のときは神楽は逃げたりしなかったけどな」と気になる一言を残して、立ち上がった。もう発たなければならない時間になってしまったのだろう。星海坊主の視線は壁掛けの時計に向けられている。
「そろそろ時間だ。じゃあな、神楽。……銀時、頼んだぞ」
「ああ」
神楽が口の中に含んでいた饅頭を急いで飲み込むのが見えた。
「……パピー、次はいつ会えるアルか?」
「次はいつになるかわからねーが……必ず会いに来るからな、神楽ちゃん」
星海坊主を見上げる神楽の瞳が、大きく揺れる。
見送りはいらないと言って、星海坊主は万事屋を出て行った。ソファの上に残された神楽は、食べかけの饅頭を両手で持ったまま、下を向いている。先程から一言も声を発していない神楽の表情は、子どもの心の内を銀時に語った。銀時は神楽の隣に座り、神楽の頭を撫でた。
神楽の手元が濡れてゆく。いつ帰って来るかわからない父親の帰りを待つ不安は、どれほどのものだろう。この小さな子どもにとっては、身に余るほど大きいものに違いない。だが、泣いて縋り、行かないでほしいと懇願することを許された立場でありながら、この四歳の子どもは我慢することを知っていた。
「……神楽。よく、頑張ったな」
「……ッ」
頭を撫でていた掌を、背中に回す。神楽の嗚咽が止むまで、銀時は背中をポンポンと優しく叩き続けた。
その日の夜、銀時はよく眠れなかった。神楽が自分の後ろをついて回るのは、神楽が自分から離れたくないからなのだと星海坊主は言っていた。しかし、離れたくないと思っているのは、神楽だけではない。神楽が後ろをついてくるのを確認している自分も、神楽に離れてほしくないと思っているのではないかと、銀時は思いはじめていた。
寝ている神楽の背中を抱いていた手を、銀時は離す。小さな温もりに触れていないと落ち着かない手を見つめて、銀時は拳を握った。
翌日は、昼過ぎから仕事の依頼が入っていた。何時に終わるのかわからない仕事を引き受けるのは、神楽と生活するようになってはじめてのことだった。いつものように神楽をお登勢にあずけ、なるべく早く帰れるようにと願いながら、依頼主の元へとバイクを走らせた。
仕事を終えて帰路につくと、時刻は午後八時を回っていた。何時に帰れるかわからないことは、お登勢には伝えてある。もしものときは夕食も準備するとお登勢は言ってくれていた。朝と夜は一緒に食べるという約束は守れなくなってしまうが、神楽を空腹のまま待たせるわけにはいかなかった。
一階のスナックの扉を開くと、酒の匂いが鼻を掠める。客で賑わうスナックを見渡していると、何かが足にぶつかった。視線を下ろすと、見慣れた桃色のお団子頭がある。
「神楽?」
「銀ちゃん! おかえりアル!」
自分の足にしがみついたまま、神楽が大きな声で言った。
「随分とアンタに懐いてるんだねェ……」
カウンターからのお登勢の声に、昨日も同じ言葉を聞いたなと思いながら顔を上げる。すると、腹を空かせたような音が神楽から聞こえ、銀時は驚いた。
「神楽。お前、飯は?」
「…………」
何も言わない神楽の代わりに、料理の盛られた皿をカウンターに並べながらお登勢が言う。
「朝と夜は神楽と一緒に食べるって約束したらしいね。アンタの分も用意してあるから、早く神楽と一緒に食べておやりよ」
お登勢の口振りからするに、約束を守ると言って夕食を口にしない神楽を幾度も説得したのだろう。しかし神楽は、空腹であるのにも関わらず、自分との約束を優先した。
「……銀ちゃん、一緒に食べようヨ」
大音量で腹の音を響かせて自分を見上げてきた神楽に、銀時は破顔する。そして、小さく温かな手に導かれながら、急に泣きたい気持ちになった。神楽が自分に向けている心はまっすぐで透き通った色をしている。こんなにも純粋な想いを受け取ったことは、これまでに一度もない。
「……ああ」
声が震える。心配そうに見上げてきた神楽に何でもないよと答える代わりに、桃色の頭に手を乗せた。
遅い夕食を終え、お登勢に礼を言ってから、銀時は神楽と一緒に万事屋へと戻った。テレビをつけてソファの上に神楽を残し、風呂を沸かす準備をはじめる。浴槽を磨いていると、背後によく知った子どもの気配を感じた。思わず笑みが込み上げる。銀時は後ろを振り返らずに言った。
「何してるんだ? 神楽」
慌ただしい足音が聞こえ、いつものように神楽が自分から逃げて行ったのがわかったが、気配は完全には消えていない。神楽は、まだすぐ近くにいるようだった。
「……見てるだけ、アル」
風呂場にかろうじて届くほどの小さな声だったが、珍しいことに神楽から返事があった。
「それなら、逃げなくたっていいだろ?」
星海坊主の言葉を思い出しながら、離れたくないのであれば、逃げずに自分の側にいればいいのにと、銀時は思ったことを口にする。
しばらくの間、蛇口から流れる水の音だけが際立つ、静寂があった。神楽はどう答えるべきか迷っているようだった。そうして迷った末に決心がついたのだろう、神楽は大きな声で言い放つ。
「だって……だって……銀ちゃんに見つかると、なんか恥ずかしいネ!」
銀時は目を見開き、後ろを振り返った。駆けてゆく神楽の小さな背中が見える。神楽の声が頭の中で反響し、走り去る音が耳に残った。
四歳の子どもは、恥じらいという感情を知っていたのだろうか。想像していた以上に複雑な感情を、神楽はその胸に抱えているのかもしれない。
排水溝に流れ込んでゆく水を見つめながら、神楽の考えていることがわからなくなってゆくのを銀時は感じた。
神楽と一緒に風呂に入り、布団の上に寝転がってからも、銀時はずっと神楽のことを考えていた。いつものように自分の腕の中で穏やかな寝息を立てて眠っている神楽を見ていると、日に日に成長してゆく子どもの軌跡を目の前で見ているような気分になる。
眠気は訪れず、ますます目が冴えてゆくが、明日は仕事もないため、どんなに夜更かししようとも問題はない。明日は久しぶりに神楽と一緒に外に遊びに出かけようかと考えながら、銀時は神楽の小さな背中を抱いて、静かな夜のしじまに身をとかした。
夜中何度も目を覚まし、起き上がろうと決めた頃には、朝ではなく昼に近い時間となっていた。朝食なのか昼食なのか曖昧な食事をとり、神楽を外に連れ出す。
銀時は神楽を片腕で抱きかかえ、神楽に陽が当たらないよう番傘を差した。久しぶりの外出に神楽は上機嫌だった。最初の行先は、駄菓子屋だ。
「銀ちゃん! お菓子屋さんアル!」
駄菓子屋が近づくと、神楽は興奮した声を上げた。店の前で神楽を下ろすと、神楽はすぐに店の中へと入っていき、目的の品を持ってくる。神楽の小さな手には、酢昆布と書かれた箱が握られている。「たまには別のモンを買ったらどうだ?」と提案したが、神楽は首を左右に振った。
支払いを済ませて神楽に酢昆布を手渡すと、「アリガト! 銀ちゃん!」と神楽は嬉しそうに笑う。こちらがつられて笑ってしまいそうになるほどに、酢昆布を手にしたときの神楽はいつも、眩しい笑顔を向けてくれる。
次の行先は公園にすることにした。平日の昼間ということもあり、子どもを連れた主婦の姿が多く見られたが、幸い木陰には人がいなかった。大木が抱擁する広い木陰は、陽の光を浴びることのできない神楽にとっての遊び場にもなる。
木陰に入ると、心地よい風に、欠伸が込み上げてきた。木陰で寝転ぶのもたまにはいいかもしれないと、芝生になっている場所に銀時は仰向けに寝転がる。神楽を手招きすると、番傘を折りたたんで近づいてくるのが見えた。昨夜熟睡できていなかったためか、重くなった目蓋がすぐに下りてくる。隣で神楽が寝転ぶのがわかり、銀時は目を閉じたまま神楽を引き寄せた。自分から離れないようにと、いつもより力強く神楽の背を抱いた。
「銀ちゃん、銀ちゃん」
自分の名を呼ぶ神楽の声に、手離していた意識を手繰り寄せる。薄く目を開けると、目の前に神楽の顔があった。しかし、自分の知っている四歳の子どもの神楽ではない。わずかに記憶を巻き戻し、声も子どものそれではなかったことに銀時は気がついた。
前にも似たようなことがあった。眠れない神楽を高い高いしてやったとき、「銀ちゃん、大好きアル」と告げてきた神楽の声が、表情が、大人びていたことを思い出す。
今、自分は夢を見ているのだと銀時は思うことにした。天の見せる幻影は、いつか自分が出会うかもしれない神楽の姿であるのか、自分の脳裏が描き出した想像上のものであるのか、銀時にはよくわからない。だが、目の前にいるのが、見たことのない女であるのにも関わらず、銀時はその女が神楽であるとわかった。何年先の姿であるかはわからないが、子どもと大人の狭間で揺れている年頃の、神楽の姿だった。
大人びた神楽の表情に、胸から込み上げてくる感情がある。銀時は腕を上げ、神楽の頬を掌で包み込んだ。夢であり幻でもある世界で、自分の手は確かな意志を持っていた。
神楽は目を閉じて自分のその手を受け入れた。眩しい光が神楽の背後から射し込み、目を開けていられなくなるまで、銀時は神楽の頬を撫で続けた。
決まった時間が来たら爆発する時計仕掛けの爆弾のように、いつの日にかこの感情をおさえられなくなるという予感を銀時の胸の底に火種ごと残して、その不思議な空間は立ち去った。
次に目を開いたとき、そこには自分のよく知る神楽の顔があった。先程の時間をなぞるように、銀時は腕を上げた。神楽の頬を掌で包み込もうとしたが、子どもの小さな頬に自分の掌は大きすぎて、銀時は指の背で神楽の頬を撫でる。くすぐったいと笑う神楽に笑みを返し、銀時は起き上がった。
空を仰げば、陽が傾いている。銀時は神楽を抱き上げて、家路に着いた。途中で冷蔵庫の中に何もなかったことを思い出し、スーパーに寄る。その帰り道で、スーツ姿の男が小さな男の子に肩車をしてやっているのが見えた。その隣では、若い女が微笑している。微笑ましい親子の様子は、周りの目をひいていた。神楽の視線もそちらに向けられるが、そのまま戻ってこようとしない。神楽は肩車をしてもらっている子どもを羨ましそうに眺めていた。
銀時は一度上下に神楽を揺らして、自分へと目を向けさせた。
「神楽。……アレ。してやろうか?」
「ウン!」
神楽は目を輝かせて頷く。銀時は自分の持っていた番傘を神楽にあずけた。細い腰を両手で抱き上げて、神楽の身体を肩の上に乗せる。夕陽を背にした自分達の描く影が、地面で寄り添う。
「気分はどうだ?」
「最高アル!」
自分の頭の上に乗せられた神楽の小さな掌の感触をくすぐったく思いながら、周囲の視線がこちらに集まってくるのを感じて、銀時は微笑む。頭上から聞こえてくる神楽の声に相槌を打ちつつ商店街を進むと、自分達に向けられた多くの視線の中から見知った顔を見つけた。
一ヶ月程前に請け負った仕事の依頼主だ。その日に着ていた作業着ではなく、淡い色をした着物を着て、髪を結い上げているから、一瞬誰なのかわからなかった。
「アラ。万事屋さん」
「……あ。先日はどうも」
銀時は小さく会釈をする。
「お子さん、いらっしゃったんですね」
「いやいや、ちょっと知人からあずかってるんですよ」
すれ違いざまに軽く会話を交わして再び歩きはじめると、自分が会話をしている間、大人しくしていた神楽が頭上から問いかけてきた。
「……銀ちゃん、今の女の人は?」
「前の仕事の依頼主だよ」
「お仕事の人、アルか……」
拗ねたような声をした神楽に、銀時はからかい半分で問う。
「どした、神楽。いっちょまえに嫉妬か?」
「嫉妬? 銀ちゃん、嫉妬って何アルか?」
四歳の子どもにはまだ早すぎたようだ。どうやって意味を伝えればよいのかを考えて、神楽にもわかりやすいように銀時は言い直す。
「銀さんが女の人と一緒にいたら、嫌だなって思うことだよ」
神楽は自分の頭に顔を埋めて、小さな声で言った。
「銀ちゃんが女の人と一緒にいたら……イヤアル」
まるで誰にも渡したくないとでも言わんばかりに密着してくる神楽に、銀時は立ち止まる。
「嘘だろ……」
信じられない気持ちで、銀時は呟いた。嫉妬という感情を露わにした、たった四歳の子どもの言葉が、銀時の思考を固めてゆく。
「銀ちゃん、抱っこ……してほしいアル」
神楽の声が聞こえてようやく銀時は我に返った。
「ん? ああ、わかった。傘、ちゃんと持ってろよ」
「……ウン」
一度地面に降ろし、神楽を片腕で抱き上げる。神楽から番傘を受け取り、夕陽の光が入らないようにそれを差して歩きはじめると、神楽は自分の胸に頬を摺り寄せ、こちらを見上げて安心したように笑った。
「こっちの方がいいのか?」
神楽は首を上下に振って言った。
「こっちの方が、銀ちゃんの顔がよく見えるネ」
「お前、どこでそんな口説き文句覚えてきたんだよ」
「口説き文句?」
「……い、いや、何でもねーよ」
子どもに対して、嫉妬という言葉だけではなく、口説き文句という言葉も口にしてしまった自分自身に、銀時は驚かざるをえなかった。
自分達にはふさわしくない言葉だと銀時は思った。そして、自分達にふさわしい言葉、関係とは一体何であるのかを考えた。
神楽から向けられる、保護者に対してではない感情が、銀時を混乱させてゆく。
神楽にとって、自分はどんな存在なのだろう。
その問は、これから幾度も銀時の中で問いかけ続けられることとなった。
to be continued...?
