ある日の午後
昔、遊戯は言った事がある。
「海馬くんってさ、友達いないよね」
「そういうお前は顔に似合わずきつい事を言うよな」
「えー、海馬くんほどじゃないと思うけどなあ」
「…本当にいい性格をしている」
疲れきった口調がおかしくて笑った。すると相手に憮然とした表情で睨まれる。その反応がおかしくて、さらに笑いがこみ上げてくる。それでしばらく笑い続けて咳き込んだら、ため息が聞こえてきた。
「そんなに笑わなくてもいいだろう」
「だって海馬くんってすごい反応が分かりやすいんだもん」
「…そうか?」
「そうだよ。海馬くんって自分の事よく分かってないよね。そこが可愛いんだけどさ」
「寝言は寝て言え」
海馬はたまにもう一人の自分でない(自分にはどうやらもう一人の自分がいて、彼が海馬のライバルであるらしい事を最近知った)今の自分を拉致と称して屋敷に連れてくる。といっても勝手にお茶に付き合うだけ。デュエルはしようと言われなかったし、なんだかバランスが崩れそうで、自分からしようとも言えなかった。したら最後、二度と会えなくなりそうで。思えばあの時すでに気がついていたのかもしれない。もう一人の自分と海馬との確執に。でも、そう感じながら願いを持たずにはいられなかった。
その願いも叶わず、彼の人は病院のベッドに横たわっている。その頬に触れて呟いた。
「一度だけでいいからキミとデュエルがしたいって…」
もうその言葉が届くことはないかもしれないけれど。
「ねえ、海馬くん。もしキミが目を覚ましたら」
ボクとデュエルをしてくれる?
何故それほどの実力があるのに大会に出ないのか、海馬は気まぐれに聞いてみた。すると遊戯はにっこりとヤツ特有の笑顔で言った。
「ボク決めてたんだ、デュエルの大会に出るならあの人と一緒にって」
だって友達が欲しいって願いだって、絶対無理だって思ってたんだ。でも叶ったから。だから願い事が無駄じゃないって分かったし。と、嬉しそうな口調。
「願い事?そんなものは非ィ科学的だ」
願ったところで何になる?そんな非生産的なものをする暇があったら前に進むほうが早い。
そう吐き捨てると遊戯は海馬くんらしいね、と苦笑した。いつもより語調がいささか強くなったのは遊戯があまりにも幸せそうに「あの人」と言ったからでは決して、ない。
「で、その願いとやらは叶ったのか?」
「うん!だから別に今は大会で出てもいいんだけど。どうせなら一緒がいいからさ、あんまり大会に出ない人だから」
遊戯が何故かこちらに笑いかける、その笑顔に何故か苛々して、自然と口調も荒立ったものになった。
「フン。良かったな、どっかの凡骨とデュエルが出来て」
「何言ってるの?」
ボクがデュエルしたかったのって海馬くんだよ、と。
当然のように告げられた言葉に目を丸くする。急に笑いがこみ上げてきた。
「…海馬くん?どうしたの?」
訝しげな視線も気にせずひとしきり肩を震わせる。実に愉快だった。さっきまでの不機嫌が嘘の様に。自分は案外安上がりな人間だったらしい。
「なんか機嫌いいね」
「…ああ。久々に気分が良い」
「そっか」
なんか分かんないけど良かった、と彼は笑った。さっきよりも嬉しそうに。
相方と一緒のペーパーだったのですが、二人とも「非ィ科学的」使ってて吹いた(待)。