「ねえ、。先輩って知ってる?」
「先輩?知ってるけど…」
「あの先輩かっこよくない!?」
「―――あ、そうなの?顔あんまハッキリ見たことないから…」
「そっかァ」
そうやって友達に言われる度にドキリとする。あたしは一応その「先輩」の彼女なんだけど、先輩がかっこよすぎるもんだから隠してる。だって「何でアイツ?」とかって呼び出されたくないからね。
一緒に帰るのも我慢して、こうやって帰ったフリして先輩の家に直行するのが、当たり前の日常になりつつある。だけど今日はに「先輩かっこいいよね!」と一日中言われ続けて、はっきり言ってあたしの精神は壊れそうだ。
「で?それでは落ち込んでんのか?」
「……うん」
「―――ハハッ!馬鹿じゃねェの?」
「お前馬鹿だろ」と先輩は笑ってくる。落ち込むって、それは。真面目な話、彼女は自分だと言ってしまった方が楽になるかもしれない。だけどあたしなんかが言っても「嘘でしょ」と言われるのがオチで、友達にも言えないでいるこの状況。
「気にすんなっつのに」
「だってさァー」
「俺がそんな奴ら相手にすると思ってんのか?」
そう言って先輩は笑いながらあたしの頭をぐしゃぐしゃとやった。どうやって返事しよう。返事に、困る。
「…本気で思ってんのかよ?オイ、」
「―――可愛い子だったら…、不安、かも」
「お、嫉妬か?嫌だねェ」
「べ、別にそんなんじゃないよ!」
先輩はあたしの額に自分の額をくっつけて、「心配すんな、馬鹿」と囁いた。不思議だね。先輩がそう言ってくれるだけで、あたしの不安なんて一気に吹っ飛んでしまう、魔法の言葉。
「…だって先輩かっこいいし」
「関係ねェだろ。自分で自分の姿なんか見えるか」
顔だけじゃない。性格だって、ホラ、こんなにもかっこいい。
「…可愛いし」
「?誰だよ」
「あたしの友達」
「ああ、俺のことかっこいいって言い続けてたって奴か」
「―――うん」
ふう、と呆れたような溜息が聞こえた。そして額を離してまた先輩は深く溜息をつく。
「バァカ」
「…馬鹿じゃない」
「馬鹿だよ」
先輩の大きな掌に頬を包まれた。
「俺のことがそんなに信じらんねェわけ?」
「そんなんじゃない…けど」
「けど?」
「――――っあ―――!もういい!もういいの!」
何だ、これ。すっごく恥ずかしい!掌から逃げようとしたけどまた頬を捕まえられた。そして無理矢理顔を先輩の方へ向けさせられる。ニヤリ、と先輩が笑った。
「ええ?何?どういうこと?僕、馬鹿だから分かんなァい」
「―――バーカ!先輩のバーカ!」
おどけたようにわざと可愛い子ぶって、満面の笑みで先輩は問う。あたしの反論なんか全然効かなくて、その目で真っ直ぐ見られたら身動きが取れなくなる。
「メ、メドゥサ!」
「へェー、俺の目が人を石するって?言ってくれんじゃん」
「もうやめて!もういいの!先輩には関係ないの!」
「関係ない?馬鹿か、お前」
本日何回目の「馬鹿」発言?今度こそ頬をガシッと捕まえられて、本当の意味で身動きがとれなくなった。
「俺はお前の彼氏なんだ、言えよ」
だからね、先輩。先輩のそう言う所が、
「―――好きだから、心配…なの!」
一瞬驚いたように目を見開いて、すぐ凄く嬉しそうに笑った先輩の顔と、強く強くその後に抱き締められた感覚は、一生忘れられないよ。
カレカノの事情