「あー…野球やりてー!」
 昼休み、がやがやと煩い教室で二人で勉強タイム。校庭からは下級生の子達の声や、遊びでやってる野球のボールをノックする音が聞こえる。それまでは静かに集中していただったけど、とうとう集中力が切れてしまったみたい。いきなり大声を出した。
「野球やりてー野球やりてーやきゅーやきゅー!!」
「欲求不満?」
「ピンポーン!あー!!野球っ!!」
 ガンガンと膝で机の下を叩いてた。あたし達は受験生。もうすぐ入試を控えてる。
「なんっで受験勉強なんてしなきゃいけねんだよ!」
「推薦で落ちたあんたが悪い」
「お前だって落ちたじゃねーか!」
「馬鹿っ!倍率が七倍じゃ落ちるっつーの!」
 はこの三年間、ずっと野球ばかりやってたから勉強が全然できてない。一年生の数学ですらまともにできないという、究極の馬鹿。頭のどこかがすっぽ抜けてんじゃない?
はどこだっけ?高校」
「北校」
「ぐわ!超頭いいし、ハイレベルー」
 机に項垂れるを横目に、あたしは参考書に目をやった。頭いいとか言われてるけどあたしは結構ギリギリなんだよね…。落ちる可能性もあるし、落ちたら私立に行かなきゃいけないからキツイキツイ。
は?」
「同じキタコウでも北工」
「あ、工業なんだ?」
 北工は野球も強いし、それなりに就職先も進学先も安定してる。
「だったら頑張らなきゃ駄目でしょ!」
「これでも頑張ってんだ、これでも!」
「はいはい、じゃあ次行くよー」
「よっしゃ来やがれ、この数学野郎!」
 そう言っては腕捲りをして数学の問題に挑んだ。に数学は鬼門だったりする。それでなくても勉強自体が鬼門だったりするから、教えてる側としては性質が悪過ぎて敵わない。できることあるの?教えてくださいって感じ。

「………っあー!無理ー本当無理ー」
「諦めんのが早い!まだ一回の表ですよ」
「俺にとっちゃもう延長だよ」
 ぐだぐだ何だかんだ言ってるけど、あたしに勉強教えてと毎日のように来る。あたしも勉強の復習になるから寧ろ嬉しい具合だし、それにだから余計に嬉しい。
 キーンコーンカーンコーン…
「あ、昼休み終わっちゃった」
「げ、はえーよ」
「アンタが勉強しないからでしょ!」
「まあいいや。放課後暇?」
「うん」
 そっか、と言って席を立つ。
「んじゃ、また勉強教えてくださいねー」
「はいはーい」
 こうやって二人でいる時間が嬉しくて、このまま受験が終わらなければいいのにって思う。
 でもやっぱり勉強は嫌いだから、受験が終わってもこの関係が続きますようにって、思うんだよ。
ふたりのじかん