「…さんって何歳だっけ?」
 ふとそうやって唐突に聞いてみた。隣でベースギターの調律をしていたさんは、不思議そうに答える。
「二十四だよ?」
「何で仕事しないでバンドやろうって思ったの?」
 もう一回唐突に聞いてみた。あたしとさんの関係は浅い。友達がバンドをやっていて、たまたまライブに誘われたバンドがさん達だった。友達に紹介して貰って、ただ、それだけの関係。
「何でって言われてもなあ。やりたかったから、かな」
 ベースの音が鳴り響く。あたしはバンドとか興味なかったけど、さんと喋るようになって教えて貰って、こうやってバンドに一生懸命になれる人ってかっこいいなあと思うようになった。
「高校の時に友達に誘われてバンドやってみたら、すげえ面白いなって思って。文化祭の時に先生に必死で頼み込んでライブやって、すっごい反響貰ったんだよ。それまでこうゆう世界には全然興味なかったからな」
「凄いじゃん!それって凄いことだよ」
「だろ?その時の感動とか快感とか、忘れらんねえよ」
 そうやって笑った顔が子供のようで、ふと羨ましくなった。夢を持ってるっていいなあ。
「でもさあ、プロになっちゃうと簡単に恋できなくなるよね」
「そ?そうでもないと思うけど」
「そうかな」
「アイドルだった別だけど。俺は普通のバンド目指してるから。有名になるぞー」
 調律が終わったらしく、一回ギイーンとベースを掻き鳴らす。空気が震えて、その向こうにさんの笑顔が見えた。

ちゃんって今まで何人と付き合ったことあんの?」
 いきなりすっごい笑顔で尋ねられた。何でそんなにも笑顔なの?
「…気になる?」
「うん、とっても」
「一人でーす」
「え、嘘…マジで!?」
「何その驚きよう。しかもすぐ別れちゃったし!」
 そういうと呆気にとられたようにポカーンと口を開けていた。そんなに驚かれたら逆に悲しくなる。十六にもなって一人とか、いいじゃん別に!友達にはコケにされたけど、いいじゃん!
「…したらさ、あのー」
「何?」
「俺、ちゃんの高校から文化祭で歌ってくれませんかーって来てんだけどさ」
「えっ!本当!?来て来て!みんなにさんの生歌声聴かせたい!」
 さんはベースを座っていたソファの上に置いて、あたしのことをその真っ黒な瞳でじっと見つめた。
「俺さ、ちゃんのこと好きなんだよね」
「…はっ!?嘘でしょ?」
「嘘じゃないって」
 さんはその真剣な顔のまま口元だけニヤリと笑ってみせた。ドキッと心臓が高鳴る。
「文化祭のライブで、俺、マジで告白するから、待ってて」
「みんなの前で!?」
「で、ステージにご招待。駄目か?俺すっげやりてーんだけど」
「……うん、分かった。いいよ、待ってる」
 よっしゃ、じゃあ音合わせしてくると席を立ったさんの後姿を、あたしはずっとずっと見ていた。遠い遠い存在だったのに、少し近くにいるように思えた。
「…待ってるよ、さん」

 その後本当にステージ上からさんの告白を聞いた。本当にステージに招待されてしまった。ステージから見るみんなの顔が輝いていて、さんはいつもここで歌ってるんだと思ったら、その場所にあたしが立っているのが奇跡に思えて仕方がなかった。
「次の曲!I LOVE !」
「ええっ!いつの間にそんな曲作ったの!?」
 幸せってこういうことをいうんだなって、初めて気付いたよ。
His love song for me.