「先輩、おはようございますッ!」
「おう、おはよ」
 朝、いつも会う。黒く短く切り過ぎた髪の毛、寝癖で後ろが少しはねてる。その頭を掻きながら寝惚け眼で登校する姿。周りから見れば少しだらしのない格好も、先輩には酷くお似合いで。派手なインナーは駄目だろう、何度言ったら分かるんだと執拗に聞いてくる先生の話を、半分聞きながらしてはいはい分かりました、次からは気をつけますと、その気のない返事を繰り返す所も先輩らしいと思ってしまう。そんな先輩が、好き。
「先輩、またインナー赤じゃないですか?先生に怒られちゃいますよー」
「別にいいんだよ。俺は俺のしたいようにやる」
 先輩はふわァと大きな欠伸を漏らした。登校時間ギリギリ、遅刻しない程度の曖昧時間。その時に先輩を見付けてしまって以来、私も同じようにギリギリに登校するようになった。五分前行動がモットーの私にとって、凄く珍しいこと。それほど先輩が、好き。

「先輩ってかっこいいですよね」
「何で?」
「俺のしたいようにやるって、かっこいいじゃないですか!私なんて、友達に合わせるのが精一杯ですよ」
「あーまァいいんじゃない?それでが良ければ」
 今度は眠そうに目を擦っている。自由に生きたい。私が常に思うこと、欲しがってるもの。それを先輩は最初から持ってる。自由気儘に、雲が流れるようにふわふわと。だからそこに惹かれたのかもしれない。
「まァ頑張れ」
「はいッ」
「そうすれば、好きな奴も振り向いてくれんだろ」
「え?」
 朝しか会ったことがない。だから、こんな先輩の眠そうじゃない目を見るのは初めてで、全身の細胞が犇めき合ってる。体の芯が熱くなった。
「俺が好きなんだろ?」
 はっきりそう断言した。もし間違ってたらどうするんだろうと思ったけど、間違ってないから何も言えない。間違ってたら多分、先輩なら何も言わないんだろうな。
「…知って、たんですか?」
「バレバレなんだよ、アホ」
「アホ!?」
「お前隠すってことしてねェだろ」
 また大きな欠伸を漏らした。あの真剣な眼差しは一瞬の出来事だった。クラスの人は、こんな先輩のことをいつも見てんのかな?いいな、先輩と同じクラスになりたかった。
 あれ、てことは?
「…振り向いてくれるんですか?」
「あん?あ――…」
「コラァ!お前は毎日毎日言ってるだろ!」
「あ、先生。おはよーっす」
 校門に差し掛かった所で、やっぱり先輩は先生に捕まった。ちょうど同じ時に予鈴のチャイムがなる。見上げた時計は八時半を指していた。
、先行ってな。遅刻する」
「あ、はい」
「じゃ、また明日な」
 手を振った先輩に、私も小さく手を振って背を向けた。教室へと走り出す。背後から言い合う声が聞こえた。
「返事…聞けなかったなァ…」
 また明日なと手を振った先輩を思い出して、ふと笑みが零れた。頑張ったら、いつか振り向いてくれるのかな。振り向かせたいな。
rosy