「お腹減ったー」
「ドンマイ」
 あたしの隣の席の男の子。この学年になって四月から、ずっと隣同士、ずっと一緒。
「眠いー」
「寝れば?」
「…冷たいー」
「どうも」
「別に褒めてないよ」
 とっつきにくいって言うか、絡みづらいって言うか…。いや、別に絡みづらくはないと思うんだけど、読めない。そんな雰囲気。…他の女子とかとは普通に喋ってるくせに。
君さー」
「苗字で呼んで」
「え…何で?」
「いや…俺、自分の名前が嫌いなだけだから」
「ふーん…そうなんだ」
 あたしはっていう響き、好きなんだけどな…何でだろう?
君さー、結構クールだよね」
「マジで?そんなこと、初めて言われた」
「そうかな…結構さばさばしてる。さっぱり系」
「爽やか?」
「爽やかかどうかは分からないけど」
「何だよー。そこは爽やかって言ってくれよー」
 あたしに初めて見せてくれた笑顔。それはいつも友達といるような笑顔じゃなくって、少し照れを含んだ子供みたいな笑顔。
「笑ってたほうがいいと思うよ」
「じゃ、が言うなら」
って呼んで。あたし、名前で呼ばれるほうが好き」
「じゃ、で」
 苗字より、名前の方が距離が縮まった感じがするから。でも、男子であたしのことを名前で呼ぶの、君が初めてかもしれない。
「じゃ、俺のことはって呼んで」
「え…いいの?」
「いいよ。そのかわり、お前だけだからな」
「名前で呼ぶの?」
「うん。他の男子も女子も、みんな苗字で呼ぶから」
「いいの?あたしなんかが最初で」
 そうしたらくしゃくしゃ、ってあたしの髪の毛をかき回して、「ばーか」と笑った。
「あたしなんか、って言うなよ。お前だからいいんだよ」
「あたしだから?」
「お前にだけ名前で呼ばれりゃいいの。俺はそれだけで幸せ」
「あたし…だけ?」
「お前の声だけで俺の名前呼んで欲しいの。他の奴なんかに呼んでもらいたくねー」
 あたし、だけ。特別な意味を持った言葉みたいで、あたしだけが君の…君の特別みたいで。
「じゃ、あたしは君にしか玲奈って呼ばせない」
「呼んでる奴いるじゃん」
「女の子ね。男子で呼ぶ人なんていないもん」
「…そっか」
 君は口に手を当てて俯いた。
…俺、マジ嬉しい」
 今はその言葉だけで充分だよ。
となり