「、ちょっとこっち来い」
珍しくがあたしを呼ぶ。それも手招きして。何だか嫌なことが起こりそうな予感…がする。
「五目並べやるぞ」
「えー、だって負けるもん。フィーリングじゃ勝てんもん」
「口答えなし。はい、やるべー」
「えーっ」
黒板とチョークを使って書き始める、掃除の時間。先生が来ないかが心配。第一手があたしだった。
「んじゃ、ここ」
「ん。じゃ、負けたら好きな人教えろよ」
にやっと口の端で笑っている、の顔。やっぱりね…、何かあると思ったよ。
「は――っ!!?やだっ!」
「俺の好きな人も教えるから」
「えええっ、やだ、やめるっ!」
「もう始まってますから」
坦々として手馴れたような手付きで、チョークで丸を書いていく。あたしは覚束ない手つきで、その丸を防いでいく。
「途中棄権なし?」
「なし」
「え――!!」
勉強はあまりできないくせに、いつもあたしに期末の点数負けてるのにそれでも勝負を挑んでくる。なのに、五目並べみたいな、頭脳戦は得意な。生徒会長にだって、この学年で一番頭のいい子にだって勝った、。あたしに勝負挑まないでよ、絶対負けるじゃん。もう勝負見えてるよ?
「あ」
「俺の勝ちー」
「んな―――!!」
負けた。何だか嬉しそうな顔であたしを見てくる。
「はい、教えろ」
「やだ」
「好きな人」と聞いてくる。いつも命令口調で、強がりで、負けん気が強くて、負けず嫌い。でもちょっとした事で落ち込んだり、いじけたり、泣きそうな顔になったり。
「教えろって」
あなたが好きなの。「好きな人、教えろ」って言ってくる、あなたが好きなのに。言えないよ、言えるわけないじゃない。もし言って、この関係が崩れることが怖いの。あなたと喋れなくなることが、怖いの。
「言わなかったら罰ゲームね」
「ええ――っ」
やっぱり嬉しそうな彼。
「…ま、強烈なの用意しとくから」
そんな顔を残して彼は消えた。忘れてくれないかなあ?勉強みたいに、三歩歩いたら忘れる鶏のように。
「おい、」
「んー?」
「読めよ」
そう手渡された一通の手紙…と言うか、ルーズリーフ。分からないまま、授業中だったからペンケースの中に入れておいた。
「見んのかよ」
「だって、授業中だし」
「あ、そ」
そっけない態度、何だか重要な手紙なのかなあ?ルーズリーフを開けると、一行の、くんの字、で。
『好きな人教えろ。つか、ヒントちょうだい。クラスでもいいし』
はあ、と小さく溜息。この人、自分だっていまだに気がついてないわけね…。もう、嬉しいのやら悲しいのやら、呆れてきて笑えてきちゃうよ、ねえ。
『ヒント?そんなの無理に決まってんじゃん、ばか』
そう書いて手紙を回す。席は結構近いから、回すのには苦にならない。
「あ、何。そんなこと言うんだ?」
口の端を上げて笑うもんだから、「何さ」と反論。
「いやいや、何にも」
「変なのー」
「おい」
「何ー?」
「はい」
またさっきのルーズリーフが回ってきた。「書いてあるのは何だろう?」、もう分かってるのに。嬉しい反面、これ以上何か言ったら、ポロッと言っちゃいそうで、怖い。
『クラスだよ、クラス。ABCのどれ?それくらい教えろ、あほ』
『じゃ…Aだけ外す。BかCね!』
ちなみに、あたしはC組だったりする。これ以上、ヒントは言いたくないなあ。
『BかC?じゃ、Bのだろ。吐けよ、協力してやるから』
『違いますー。別に協力してもらわんでも…つか、絶対協力できないし』
『は?何それ、協力できんとか、意味不明ー。もう言えって』
『嫌ですー絶対分からないから』
絶対分からないよ、だって本人だもん。授業終了のチャイムが鳴った。
「おい、」
「あーい」
「てめー、ちゃんと答えろよなー」
「無理っす」
「あんだとー?」
こう言う関係って結構面白い。だからあえて崩そうとはしないよ。付きあわなくったって、今が楽しいから。
「…告白はしんの?」
「しないよ」
「馬鹿だなー、すればいいのに」
「嫌だよ、フラれるもん」
「そんなん分かんねーだろ」と言う。分かるよ、だってあんたは「YES」って言ってくれるの?
「電話で告ったら?」
「何でさ」
「いや、直接が無理なら。俺明日暇だし。告るんなら電話して来いよ」
「えー」
「報告な、報告。それか『これから告りますー』的なコメント」
明日、暇?電話して来い?そんなの、無理だよ。絶対告らなきゃいけないみたいじゃない!
「絶対な。これで何もなかったんならマジ張り倒す」
家に帰ってから、電話と睨めっこ。の電話番号は、ずっとずっと前に知ってた。好きな人の情報くらい、知りたいものなんてないでしょ?
「……はあ」
…無理に決まってんのに。電話を握り締めて正座してるあたし、最後の1つの番号が、押せない。暇なんだよね、あんたが出てくれるんだよね?待ってんだよね?本当だよね??
「…よし」
プルル、と電話特有の耳の奥で音が震えた。暫くして、「はい」、とあなたの声が。すぐに分かったよ。
「…あのさ」
「おう、何だ。告る気になったのか?で、誰が好きなんだって?」
「……やっぱ、無理だ」
「は?…この小心者め、見てるこっちが痛いんだぜ?」
好き、って、たった2文字じゃん。何で言えないんだ、あたし!何で、たった2文字じゃん。しかも電話じゃない、顔なんて見えないよ。
「……な、俺は応援したいんだぜ?」
「…何で?なんか、最近めっちゃ必死」
「………ま、そりゃー。…笑った顔見たいし」
「…誰の?うちの好きな人の?」
「てめーだ、馬鹿」
少し怒気が含んだ声が、電話越しに聞こえた。あたしの笑った顔が見たい…笑って欲しいの?何か言おうとしても、何を言って良いのか分からない。「何で?」と問いただすのか、「マジで?」とふざけたように言うのか、「好き」とはっきり言ってしまうのか。
「……」
「俺はさ、。こんな嫌な奴だし、俺のこと嫌ってる奴も多いと思うし」
「そんなことないよ」
少なくとも、あたしは。
「サンキューな。でも、今まで恋が実ったことないし。だからさ、」
「うん?」
「せめて好きな奴には幸せになってもらいたいっつーか…。フラれて欲しくないっつーか」
「…え、それって」
「俺は、お前が好きなんだって、本当は、面と向かって言いたかったんだけど…俺、そんな勇気ないし」
と、普段のらしからぬことを言う。情けないな、と思いながらも嬉しいのは当たり前。
「」
「…何」
「情けないね。見てるこっちが痛くなってくるよ」
「るさい。恥ずかしいんだ、こっちは!」
「好き」
「は」
「?」とクエスチョンマークが後から付いてくる。それから「嘘だ、マジで」とまさに情けない奴。
「だから言わなかったの!言えるわけないじゃない、好きな人に向かって好きな人教えるなんて」
「告ってるみたいだな」
「そうだよ、だから逃げて逃げてー、頑張ってたわけですよ」
「そっか」
電話の向こうから笑い声が聞こえる。顔は見えないけど、どうやって笑ってるか想像できるよ。顔も、多分ああやって笑ってるんだろうなあ、って。
「」
「ん?」
「明日一緒に学校行こ」
「…いーよ」
「じゃ、公園の前に七時半で」
手を繋いで行った学校。噂が広がっても、嫌だ何て思わなかったよ。、逆に嬉しかったよ。あんたと恋人同士になれたって、改めて思うことができたから。また、五目並べやろう?今度は、あたしが勝ってやるんだから。
「好きな人、教えろ」