「あ!何でスイカ食っとんの!?」
 受験生、七月の終わり、最後の夏休み。部活動の合間をぬって、顧問の先生はスイカを家から持って来てくれた。
「何やて、美術部だけ!ズルいやん」
「そんなんやったらも食えばいいし」
「いいの!?」
「いいよ」
「やった!ありがとー、俺スイカでーら好き」

 赤いスイカの汁が、地面に落ちる。三日間冷蔵庫の中にあったスイカは、やっぱり凄く冷たかった。二年生が少し離れた場所で種飛ばし大会をしている。一年生ゼロ人、二年生は七人、三年生は私一人だけ。
 は野球部三年生レギュラー、一番ピッチャー、部長。私の、大好きな人。
ってさ、スイカ好き?」
「え?」
 もう食べてしまったが、私のスイカを見て物欲しそうに言う。食べるの、早すぎやろ。
「嫌や、あげへんよ。これうちのやもん」
「何や、けちー」
「まだ机の上に残っとるやん」
のが欲しいんやて」
 「へ?」と驚いた顔をすると、「種ついとる」と口の横を指でぬぐう。のその目が何か真面目で、急に恥ずかしくなって赤くなる。
「や…、やめ」
、でーら可愛い」
「なっ!ななななな…」
「なあ、ちょっとだけでいいで。、ちょうだい?」
「い…嫌や。何でうちのがいいんやて、まだあるやんか」
「嫌や」
 そう言って私の手首を掴んで、持っていたスイカを無理矢理食べようとする。
「あ、あかんって!これうちのやもんっ」
「知っとる」
 パク、と一口。大口開けては食いついていた。あーあ…私のスイカ…。
「あーあ、何で食べるんやて」
「…ま、そこは男としてやってみたかったんやて。ほら、間接チュー」
「かんせ……っ」
 何でそんな恥ずかしい単語をすらっと言えるの?私なんか…一生かかっても言えないよ。告白だって、できないのに。
「何や、俺がの初の間接チューもらったんか?」
「バ、バカッ!アホッ!そんなんはね、好きな人とするもんやろ!」
「へ?」
「へ?やないわ!う、うちが…どんだけ緊張したと思っとんの…」
 駄目や、泣きそう。こっちは心臓破裂しそうやったのに、そんなにへらっと言って。緊張した私が、何だ、ばかみたいだ。
「…こっちだって緊張したわ!ドキドキやったんやで、俺」
「…、も?」
「おう。言ったやん、男としてやってみたかったって。好きな女の子としたかったの、俺は」
「好きな……え、うち?」
 「お前しらかおらへんやろ」なんて、顔を赤くして言う。野球のマウンド上にいるあんたとは、大違いやわ。
は?俺のこと好きなんやねーの?」
「…うん」
「………あれっ、うん?その続きはねーの?」
「ない」
 むっ、とふくれっ面をはした。体つきとか、顔とか、声とかはもう大人みたいなんやけど、そういうところだけはまだ子供っぽい。
「俺頑張ったのに」
「だって…恥ずかしいやん」
「ちえ、言って欲しかったのになー」
「うるさいやい」
 赤いスイカの汁が、ぽたりと落ちる。地面が吸い込んで、黒くにじむ。
「なあ」
「んー?」
「…好きやで」
「……うるさいやい」
「スイカより好きやで」
「…分かっとるわ、そんくらい」
 暑い夏が、もうすぐ終わる。
ウォーターメロン