ずっと、ずっと、貴方だけを見てきた。
部活中なのに声をかけてしまった。なのにいいよと笑ってくれた。いきなり告白したの、びっくりしたでしょ?ごめんなさい。苦笑いしてる先輩を見たくなくて、顔を伏せた。
「悪ィ」
俯いていた顔を上げると、そこには顔の前で両手を合わせて、さっきまでの私と同じように俯いている先輩がいた。恐る恐る先輩が顔を上げる。目が合った。気まずそうに視線を逸らされる。
「んとさ、気持ちは嬉しいんだけどさ」
先輩は右手で口を覆った。明後日の方向を向いている。また徐に口を開いた。
「俺、さんのことそんなに知ってる訳じゃないし」
優しいな、と思う。知ってる訳がない、一学年下の異性のことなんてさ。興味すらなかったでしょう?私の名前だって、今日初めて聞いたんでしょう?本当は全然知らなかったんでしょう?
「だから、って、ちょッ、待っ」
やっとこっちを向いてくれた。そう思ったら先輩の顔は、私を見た瞬間ぎょっとした表情に変わった。
「ええ!?ちょ、何泣いてんの?」
「え?」
「え?じゃないよ。タオル、タオル」
先輩が首にかけていたタオルで、涙を拭いてくれた。その時に初めて、自分が泣いていたってことに気が付いた。背の小さい私だから、先輩は少し屈んでくれている。きゅんと胸の奥が痛んだ。
こんなにも、好きなのに。
「汗臭くって、ごめんな」
「だ、い丈夫です」
涙が止まった。近付いていてくれていた先輩が少し離れる。もっと出ていて良かったのにな、涙。
「あとさ、俺、今彼女いるんだ。だから、ごめんな」
それは気付いていた。気付いてたけど、考えないふりをしてた。だって、たまに一緒に帰る所を見るんだよ。先輩のこと。
「あ、私は大丈夫です。どうかお幸せに」
「ああ、ありがとう」
気まずそうな顔じゃなくて、本気で嬉しそうな顔。ああ、私は先輩には勝てないな。そう思わざるを得なかった。悔しいな、当たり前か。
「時間取ってしまってごめんなさい。部活、頑張って下さいね」
「ありがとう」
はにかんで笑った先輩を見て、踵を返した。一歩、二歩と歩いた所で、クンと手を引っ張られる。振り返ると少し照れた先輩がいた。
「気持ちは、嬉しかったから」
「?」
「嬉しかったから。だから、泣くなよ?」
またきゅんと胸の奥が痛くなった。
「気を付けて」
小さくお礼を言った。聞こえてたかな?先輩が見えなくなった所で、走り去るように帰った。
「傷付けたかな」
気まずそうな笑顔。目の前で泣いてしまった。だけど、込み上げる涙は零れるばかり。好きで好きでたまらないのに、あの人の彼女に、負けたんだ。
「だから、泣くなよ?」
言った傍から泣いてしまってごめんなさい。だけど今日ぐらいは泣いてもいいでしょ?一生で一番、好きになった人を想って。
大好きでした、先輩。
霞む瞳