きっと、いつまで経っても満たされないんだろうな。あたしの心は、大きくて、深いから。あなたの小さな行動にさえ、嬉しくなったり、傷ついたりする心だから。

「なあなあ、
「え、なになに?」

 二人とも顔を近づけて話している。あたしとと、は結構仲がいいほう。最近と仲が良くなったと思ったのにな。…の方から、離れてっちゃった。

「でさ……っつーんだよ。ありえなくね?」
「えー、マジ?」
「で、で………」
「うわ、何それー?」

 塾の待合室、床に座って内緒話。顔、近すぎないかなあ?

「…はあ」

 途中やりだった塾の宿題、やる気が起きない。周りでは塾の宿題をやる人、お菓子の交換をする人、塾の先生と話している人。

(…目当てで塾に入ったなんて…今更言えないよなあ……)

「お、。宿題終わったか?」
「あ、虎さん。全然終わってませーん」
「あ――、今日お前居残りだ。うわ、頑張れよー」

 虎さんは塾の先生。名前が虎谷だから、なーんてありきたりな名前の付け方。

「お前最近元気ないなー、塾が嫌なの?」
「あ―――、ま…ね」
「いろいろあるってか、一人で溜め込むな。あんまり頑張りすぎるなよ」

 と言っても、塾やめようかな、とか思ってるあたし。こんなを見てるのも、飽き飽きして来たし。二人でいるところも…見たくないし。


ー。おい、って。――!!」
「はっ!?あ、あ、あ、
「何ぼーっとしてんだよー」

 「いや、ちょっとね」あやふやに誤魔化そうとしてみたら、「ふーん」とはあたしをじろじろと見る。

「………あーあ、何であんな奴がいいのかね」
「へ?何か言った?」
「別にー、なーんも言ってませんよ、なーんも」
「何よそれー!」

 は笑ってあたしの手を握り締めて、言った。

「抜けない?」
「え…」
「どうせ宿題やってないんだろ?も見たくないんだろ?」
「…何で、知って…」
のことなら何でも知ってる。抜けよ」

 ゆっくりと首を縦に振る。はあたしの手を引いて、待合室の向こう側に見える入り口に歩を進めた。手は暖かい。ぎゅっと握り締めた手から、「大丈夫だよ」その言葉だけが伝わるようで。涙が出そう。

、お前どこ行くんだよ。あー!何ちゃっかりの手握ってんのっ!?」
に会いたくない、ってが言うから」
「…は?何だよそれ……」
「俺ら、抜けるわ」

 塾のドアが閉まり、あたしたちは手を握ったまま走り出す。知らず知らずの内に零れ落ちる涙が、あたしの心を洗い流してくれたらいいのに。

「…
、何であんな奴がいいんだよ?」
「…だって」
「何で俺じゃ駄目なんだよ」

 が突然止まり、あたしはの胸に思わず飛び込んだ。優しく背中に手が回り、心地の良い体温が伝わる。

は…傷つけたくないから」
「お前の方が傷ついてんじゃねーか!」
「………」
「俺は、そんなお前見たくねーんだよ。笑ってる顔が見たいんだよ」

 「その笑顔を作ってくれるのがなら、いくらでも応援してやったのに」と苦しそうには言った。

「あいつ…笑顔どころか、苦しい表情ばっか…に……」
「…ごめ…、ごめんね、……」
「何でだ?何で大切なものばかり手に入らないんだ?何で大切なものばかり傷付いて、壊れるんだよ?」
「……
「何で傷付けるのはいつも親友なんだよ…」

 何で、人間は無力なんだ?何でそれでも人間は人間を好きになるんだ?満たされない心と満たされない心は、必然的に惹かれあう。そんな、存在。
満たされない心