俺は中学生のころの記憶がない。何かの拍子で飛んだのだと、母親から聞かされているのだけど。
「君?」
「あ?」
「やっぱり、君だ!」
「…………?」
「どうしたの?」と聞き返してくる彼女。こちらとしては君が「どうしたの?」だ。
サッカーの練習試合、俺たちは隣の街の高校と対戦することになり、見事に勝利した。午後からは第二試合があり、それまで昼食、兼休憩時間だ。
「あーっ、もしかして私のこと忘れちゃったんでしょー?」
「あ、いや。お前…誰?」
「誰?誰って、だよ? 。何、本当に忘れたの?」
「忘れたっつか、記憶ねーんだよね…」
そう言うとという奴は罰が悪そうな顔をした。そして一言、「ごめん」と謝る。いやいや、謝られても困るのはこっちなんだけどさ?
「は?や、謝られても…」
「…多分ね、記憶ないの私のせいだよ。三階から落ちたから」
「落ちた…?あんたがか?俺は何の関係があんの?」
「……私は落ちてないの。落ちたのは君だよ」
「それだったらお前は何の関係があんの?」と問い返す。三階から落ちたのは俺?でも何であんたが謝るんだ?
「私が落ちそうになったの。掃除中に…中庭を掃除してる友達に手なんか振るから…」
「それで何で俺が落ちたんだ?」
「君は、助けてくれたんだよ。って叫んでくれた」
その子の表情は相変わらず申し訳なさそうな顔だった。自分のせいで他人の記憶を奪ってしまった。俺だったらそれだけでも立ち直れそうにない気がするのに。
「おーい、、!あ、もいるじゃんっ!」
「、お前落ちるぞー」
「落ちないよー、だって私だもん。ちょっと、こっちだよー!……きゃっ!」
「!!?」
とにベランダから身を乗り出して手を振っていた。君に「危ない」と注意されたのに、「大丈夫」だと言い張って。そして運悪く体を支えていた手が滑り、転落しそうになる。そこで私を助けてくれたのは君だった。怒りながら大きな手で体を支えてくれ、私を引き上げてくれたのに、自分の方が体勢を崩して落ちた。
下は中庭で、運良く木の上に落ち、草の上に落ちた。病院に行って三日後目を覚ました君は、既に記憶はなくなっていた。そして、入院、リハビリ…卒業式にも出れないまま…当たり前か。
「これが、二年前の中三のときにあったこと。勉強は覚えていたから、幸運だったよね」
そう言ってその子――は笑った。
「注意されたのにね、危ないって…。私、何で聞かなかったんだろ」
「俺さ、お前のこと好きだったんだな」
「…え?」
「だって、自分を犠牲にして落ちるくらいだろ?どんだけ好きだったって話だよ」
「私、知らなかった…」と小さく呟いた、。それは知るわけがない、多分心の奥底にあった気持ちだと思うから。
「俺さ、どこかから落ちる夢…たまに見るんだ。そのことだったんだな」
「ごめんね、私のせいで…」
「いいや。俺は別にあんたのせいだと思ってねーから。そんなに気にすんな」
「…うん」
君のせいだと思ってないから。むしろ好きな人のために体を張れた、自分に誇りを持てる。
「あ、え――っと…」
「どうしたの?」
「beloved-personってメアドにある?」
「……ある。今も使ってる…」
「…お前も俺のこと好きだったろ?」
「過去形にしないで。今でも好きよ、だから声かけたんじゃない」
ちょっとずつ、ちょっとずつ思い出せばいいんだ。と一緒にいれば、何かが思い出されていくに違いないと思えるから。
「じゃ、記憶を取り戻す手始めに、メアド教えろよ」
「強制?」
「教えろ。これ命令」
「わー、相変わらず口悪いなあ」
前の携帯には記憶があるときの友達から頻繁にかかってきて、対応できなかったから変えた。赤外線通信で、ケー番とメアドをゲット。
「君、試合頑張ってね」
「君はやめろ。って呼んで」
「じゃ、。絶対勝ってね」
「強制?」
「勝て。これ命令」
「俺の言葉使うなよー」とを小突く。やっぱり懐かしい感じがする。凄く落ち着いて、凄く安心できて、とても居心地がいい。
「私のこともって呼んでよ」
「分ーかってるって、!」
「良し!」
「私お弁当作ってきたの」と鞄から可愛らしい包みを取り出した。俺のために作って来たのだと、微笑む。
「俺さ、記憶戻ったらに告白するから」
「うん」
「それまで待ってろよ」
「うん」
「まずはたこさんウインナーいきまーすっ!」
「ありがたくいただいてください!」
そして俺は第2試合、試合の勝利と一本のハットトリックをにプレゼントした。
記憶