「ゆーびきりげんまん、うそついたらはりせんぼん、のーます」
「「ゆびきった!!」」
幼いころの約束、私は今でも覚えてるから。
「指切拳万、嘘ついたら針千本飲ーます!」
「指切った!」
私の癖は、約束事をするときには必ず指切りをすること。約束を破られるのが、嫌だから。ただ、それだけのこと。だけどあたしにとっては大切なこと。一種の願懸けみたいな。
「で、。あの人どうなったの?」
「……あの人?……あー、もういいよ」
のことよ、とは小声で言った。あー、と私は曖昧に返し、もういいよ、と苦笑する。もう、いいんだ。
「もういいって…だって!」
「いいの。約束したって、昔のことだし」
もう、忘れてると思う。
「ね、大きくなったらくんの『およめさん』なるね」
「うん、いいよ。ぼく、すっげーかっこよくなってまってるからさ!」
「ほんとう?じゃ、はきれーになってるね」
「うん!ぼく、ちゃんの『おむこさん』になれるようにがんばる」
昔の、幼い幼い記憶。まだ漢字だって簡単な字しかかけないし、平仮名だってうろ覚えだったとき。
「がおおきくなるまで、ぜったいかのじょつくっちゃ、だめだよ!」
「だいじょーぶ!ちゃんがいちばんだから」
「やくそくね」
「うん、やくそくだよ」
だけど一生懸命だった。が好きで、好きで。誰にもあげなくなかった。
「ゆーびきりげんまん、うそついたらはりせんぼん、のーます」
「「ゆびきった!!」」
指切だってした、約束だよ、ちゃんと確認だってした。
なのに…
「ねえ、くーん。今彼女いるー?」
「いないよ、先輩」
「じゃあさー、私と付き合わない?今フリーなんだあ」
「もちろん、いいですよ」
こんなにも簡単に、あっさりと受け止めてしまう。ここ、教室だよ?私もも、ここにいるんだよ?私達の約束、どこいったの?あの言葉は、嘘だったの?忘れたなんて、哀しすぎるよ。知らないなんて、空しすぎるよ。
「じゃ、またね。くん」
「またね、先輩」
悔しいよ。私は可愛く、綺麗なるために頑張ってて、ちゃんとそれなりに努力してきたのに。あなたは約束通りかっこよくなったよ?でもかっこよくなりすぎて、私との約束を忘れるくらいなら、かっこよくならないで欲しかった。
なんか…
「…らいだ」
「?」
「『およめさん』なるね」
「なんか、大っっ嫌いだ!!!」
「まってる。かっこよくなってまってるから」
もう、何が何だか分からなかった。自分で何をしたのか、何を言ったのか、今何をしてるのか。
引き戸が勢い良く閉められた、私の力で。階段がぎしぎしと軋んでいた、私は走ってた。右手が痛かった、心が痛かった。
を叩いてしまった。
「ちゃんがいちばんだから」
の言葉が、巡る。純粋で、ただ一途だったあのころ。今の私は、嫉妬と憎悪で汚れていた。汚れてしまったの。もう、あなたに触れることすら許されないよ…。
「どうしたんだ、の奴?」
「が告白受けたからじゃね?さん、のこと好きだって噂だし」
「え、マジで!?うわ、俺勝てる気しねーや」
「…お前狙ってたの?そんなナリで?」
クラス中がざわめきに包まれた。その中にの姿はない、を追って行ったから。
「君が何かしたの?それともちゃんが?…ってちゃんそんなキャラじゃないしねー。でも君がってわけでもない…し?はは…」
「…は、悪くない。…悪くないよ」
そうだ、は悪くないんだ。
「悪いのは、俺だ。約束…守れなかった…」
「約束?お前らそんなことしてたの?」
「俺が破ったんだ。…あいつが約束破られるの嫌いだってこと、知ってたのに」
君に触れられないのは、俺のほう。汚れてしまったのは、俺のほうなんだよ?
「はは…情けねーや。好きな奴もろくに守れなくて、傷つけてばっかで…」
自分の無力さが、何より嫌いなのに。こんな自分が、一番嫌いなのに。
「なのに、自分ばかり得してやがる…」
卑怯だよ。なあ、神様…。
約束