怯えている蝶々のあとを、傷痕だらけの両足が辿る
オレンジが植わった庭に、微睡むようにして雨を振りまく翳りが君を見つけた
紅茶色の町の水面を撫でていった羽根や飛行船も、まだ気づかないうちに
秋には死んでしまうのだと言う、蝶も、羽も、船も、わたしも

転々と椅子を移動させる、運行は留まることを知らない
スピネルを目に嵌めこまれた少女が、鍵と天球儀を落としていったのを見ていた
ささやかな日差しと打ち捨てられたネモフィラの鉢植えに、さようならを告げに
ここまで歩いてきたのだと言う、籠の森を、収穫祭を、岬を、墓所を越えて

ちぎれた嵐の断片と歌を、箪笥のなかに閉じ込めている
コバルトの窓を開け放せば、卑屈な運指で雨樋を流れくる即興曲が見えてくる
碧い時間を写真機のなかに抱えこんで耳を塞ぎさえすれば、そこへ戻れるように
火を消してしまったのだと言う、コンロの、マッチの、暖炉の、いのちの

眠気と夜を与えた夕星が、やがては晴れをも連れてくる
真鍮の月を吊っても、温かな食卓を囲んだはずの部屋は見られなかった
肌を噛み、焦がしている亡霊を洗いながそうとする腕を指を、削ぎ落とすために
爪や棘は生えてくるのだと言う、指に、葉に、茎に、心に

追放されることを知ってはいても
一雨毎に近寄ってくる天国の匂いは