湿ったものが手のひらを這っていく
行く行くは腕から肩へ、肩から背中へ、背中の先はまだ見えないのです
よく、そんな嘘や歌を呟いていました
僅かな、手に抱えられただけの花の名前を口ずさんで
たまには、甘いお菓子を希ったりして

しおれた本を、もう一度だけ読むことにしました
我慢ができないほどの憂鬱は、まだ残っているから

ウルトラマリンのペンをとり、平行な海を進んでいく
見あきた風景のなかで何か、火のようなものが潰えた
残された時間は少ない
悔やんで泣きたくはない
なぜ? そうできないの?

のびやかにもぐり込んでゆける深度
ただ、この振動を忘れたくはないだけ

出し惜しみしている強さで歩いていけるのなら、それでどこまでも
泣き疲れた朝があったなら、自販機のまえで悩む夜に変えましょう
海図そのままの天をみあげて、この悪夢と興奮にいたく感謝します
でも偶には類まれなる幸運に嬉々する瞬間があってもよいでしょう
そのままで祈ることに、飽きてしまう日々がかならず来るのだから

飲み込んでしまいましょう
水の凍ったのを、砂のひどく乾いたのを

嘆く少女のかおを形作る、冷めない蒸気の影を破り
お終いばかりがソナーに映る、湿りの海と憂いをゆく
容相は水面にさんざめく神のように
不格好な私とはまるで違う動作で
永久へ溶けていくように、溶けて、溶けていくの

黄色のしるしがありますように
破滅のなかにあるときも