無防備
進藤一生×香坂たまき


ことん、軽い物が肩に乗ったのを感じて視線を向ければ、無防備な寝顔があった。
普段はその勝気な性格と強い意志と高いプライドが透けて見えるかの如く凛然とした表情と眼をした彼女、
――香坂たまき――が自分へと凭れて寝息を立てている。
いつもの彼女はどこへ行ったのかと思う程に、そのあどけなさを滲ませる可愛らしい寝顔に思わず頬が緩む。

事の始まりは3時間前、珍しく揃って上がれる状況に太田川が城島と4人で軽く食事でもと
言い出し、更に珍しい事に城島も香坂もそれを断らなかったのだ。

「あ・・・。香坂先生寝ちゃってる。なーんか、幸せそう。」

ふふっと何だか嬉しそうに太田川が正面の彼女を見て微笑んだ。
その横で城島もニヤリと何かを含んだ様な口調で言う。

「本当だ。珍しいですね、あんなにプライド高い人が。こんな無防備な姿見せられると、何か感じちゃいません?進藤先生。」
「疲れてるだけだろう。結構飲んでたしな。だいたい寝顔見られるのを極端に嫌がってるのは知ってるだろう?今も不本意なんじゃないか。」

そう返すと、俺が隣じゃどんなに疲れてても寝たりしませんよ、この人。等と一人頷いている。

「確かに矢部君や馬場先生がこの場に居たら、進藤先生の隣でも眠っちゃったりしないだろうけど、残りは私と城島先生だし、
きっとつい、気が緩んじゃったんじゃないかなぁ。そばに居ると安心するんですよ、きっと!」

そうはしゃいで言われ、少し照れ臭い様な感覚に、苦笑を漏らした。

「ぅ、ん・・・。」

微かに声を上げたかと思うと身動ぎをし、肩からずり落ちた頭を自分の胸元へ頬を寄せるかの様にくっついてきた。
仕方が無いので、サラサラと流れて顔を覆った髪を耳に掛けてやり、そのままズルズルと傾いてしまいそうな
不安定な体を支える様にして声を掛ける。

「香坂、起きろ。」

けれど彼女は少し眉を顰めて小さく唸っただけで、一向に起きる気配は無い。

「どうするんですか?進藤先生。」

まるで他人事の様に城島が問うてくる。

「どうするって・・・。おい、香坂。起きろ。」

軽く体を揺すってみたら、さすがに自分も困ってしまう反応を示された。

「ん・・・やー。」

その小さく甘えた様な声に、一瞬3人で固まってしまった。
沈黙を破ったのは太田川の呟きで、次いで城島が酷く楽しそうに結論を出した。

「やー、って・・・。」
「よっぽど疲れてるんでしょうね。と言う事で進藤先生、香坂先生は任せましたよ。」

さー解散だと、太田川と共に忙々と帰り支度を始めた。

「任せたって、起きそうに無いんだが・・・。」
「僕らじゃ手に負えないですから、普段から。まして今の香坂先生なんて無理に決まってます。」
「そうですよ。はい、香坂先生のコートです。じゃあお願いしますね、進藤先生。」
「おい、ちょっと待ってくれ。」

本気で自分達を置いて行こうとする2人に慌てて、少し大きな声を出した。

その声で気が付いたのだろう、ゆっくりとした動作で自分から離れぼおっと辺りを見回している。
その眼は酔っ払っている所為か潤んでいる上いつもは白い頬もほの赤く、まだハッキリと起きてはいない様でトロンとした表情だ。

「良かったですね、取あえず起きたじゃないですが。じゃあ香坂先生、進藤先生が送ってくれるそうですから。」
「香坂先生、大丈夫ですか?ちゃんと進藤先生に送って貰って下さいね。おやすみなさい。」

そう揃ってニッコリと彼女に向かい挨拶をすると掠れた声でえぇ、と彼女が返事をし、それを確認すると店を出て行ってしまった。

何にしろ起きてくれて良かったと、隣を見るとふわりと微笑まれた。

「もしかして私、寝ちゃってた?」

そう首を傾げて少し舌足らずな口調で聞いてくる。

「ああ、気持ち良さそうに寝てた。ほら、帰るぞ。」

コクリと頷いた彼女は立ち上がろうとしてふらついる。その体を支えて立たせコートを着るのを手伝ってやり店から出た。

足元が覚束無い彼女が時折転んでしまいそうになる度に腕を掴んでは引き戻していたが、それも危なかろうと
そのまま手を繋いでみた。文句の一つも言われるかと思ったのだがそれも無く、解かれる事も無い。

駅前のタクシー乗り場まであと少しという所で、急に彼女が立ち止まった。

「どうした?」
「寒い・・・。」

俯きがちの顔を覗き込むと酔った所為で潤んでいるのとは違う、涙ぐんだ眼をして繋いだ手にぎゅうっと力を込められた。
そう言えば、その白く細い指先も凍る様に冷たく唇も少し震えている。疲れた体にアルコールが多過ぎたのだろう。

「大丈夫か?気持ち悪くは無いか?」

正面に向き合って確認すると、また一言寒いと返ってきた。

自分が着ているジャケットを脱いで肩から掛けてやると、ほっとした様な表情をする。その様子にこちらも
安心したとたん、またグラついた彼女の体が自分へと真っ直ぐに倒れ込んで来た。
細い両腕に手を添えて立たせようとしたが、彼女の次の仕草にそれも適わず腕の中に抱き込む形になってしまった。

「あったかい。」

ポスンと倒れ込んでそう呟くと、彼女の体から力が抜けた。
自分へとしな垂れかかる様にその軽い体を預けられ、またしても眠ってしまったのだ。

お互いに少なくはない好意を抱いている事を薄々解ってはいても、あえて自分の気持ちにすら気が付かない振りをしている。
用心深くそんな曖昧な関係を続けてきた筈なのに、こうも無防備な姿ばかりを見せられては堪らない。

結局どうにか起こして自分の足で歩かせタクシーに乗せて家の場所を説明させ、意識が半分位しか無い彼女が危なっかしくて
玄関の前まで送ったのだが、それが間違いだったかもしれないと彼女の部屋のソファで溜息を吐いた。

今日ここに至るまでの出来事を思い返しては、今自分を悩ます最大の原因は部屋へと上がってしまった事だと、玄関の前までの
事だけなら自分も少し酔っていただけだと思い込めば良いのだ。そうすれば明日からはいつも通り彼女と接する事が出来る筈だ。
そしてまた、それならば今からでも帰ってしまえば良いのだとは思いながらもそれをしない自分に呆れてしまう。

「上がって?お茶位淹れるわ。」

鍵を開けたのを確認してもう大丈夫だろうと帰ろうとしたら、そう言われた。

「いや、お前直ぐにでも寝たいだろう?それに今のお前じゃお茶を淹れるのも怖くて任せられない。」
「お前って言わないで。何よ、それ位出来るわよ。それにこの時間じゃ家の周りってタクシー捕まらないのよ。
呼ばないとダメなの。だから、ね?家で待てば良いじゃない。」

本人は大分酔いも醒めたつもりの様だが、やはり口調も表情も少し甘く幼い印象を与える様なものである。
しかし彼女の言う通り午前2時を少し回った今、この辺りでタクシーは捕まりづらそうだ。
だからと言って十分過ぎる位に調子を狂わす今の彼女の部屋へ上がり込むのはと考えていると
上目に首を傾げ、どうぞと言って自分は部屋の中へ入ってしまったのだ。だから仕方無く後を追って入った。

コートを脱ぎ、ジャケットありがとうと言いながらハンガーへ掛ける彼女に促されてソファへ腰掛ける。
キッチンカウンター越しにコーヒーで良いかと問われ頷くと、サーバーのスイッチを入れカップを2つ取り出した。

「落ちるまでちょっと、待っててね。」

相変わらずぼんやりとした眼をしながら言い、寒いと呟くと着替えて来るとふらふら部屋を出て行く。

程無くして扉の向こうでパタンパタンと彼女が出入りをしている音が聞え、それが止むと直ぐに水の音がし始めた。
どう考えてもシャワーを浴びている。そう確信して、彼女はまだ相当酔っているのだと再認識させられ少々頭痛を覚える。

暫くして髪を上げた彼女が黒いバスローブ姿で現れた。自分が居る事などすっかり忘れている様で、冷蔵庫からミネラルウォーターの
ボトルを取り出すとグラスに注ぎ、飲み干したグラスとまだキャップを締めていないボトルをそのままにキッチンとリビングに対して
L字型に繋がっている奥の部屋のベッドへと潜り込んでしまった。そうして、今に至る。

自分が座ってるソファからは、毛布からはみ出した白い脚が見える。勝手にサーバーから注いだコーヒーを飲み、また一つ溜息を吐く。

酔った所為とは言えこの数時間の彼女を見て思ったのは、いかに普段の彼女は気を張っているのかという事だ。
医者としての職業意識が高いのは十分に知っている。高い理想の為には努力も惜しまず、その上あの性格だ。
けれど自分が考えていたよりも、本当の彼女の姿との差は大きいのかも知れないと、どれだけのモノを抱えて
日々を生きているのかと推し量り、彼女への想いに気付かない振りが出来なくなるばかりか増してきてしまう。

無邪気に無防備に、意外なまでに素直に、どことなく甘えた子供の様な仕草に、無意識に男の性を擽る様な不意の表情にと、
思い出す毎に自分以外の誰かの前であれを見せる事はあるのかと考え、お互いに薄々とは感じる好意に因る気の緩みで
あれば良いと思わずにはいられない。

ふと時計を見ると午前4時半、普段の自分達の生活リズムを基準にすれば2時間も眠れば良いだろうと、
少々可哀相ではあるがこちらの身にもなってくれと、徐にベッドの脇へ座りその頬を撫で目覚めを促す。

「・・・ん。」
「香坂。」
「んー、・・・進藤先生?・・・ぅん、え?――あ、れ?なん、で?」

ぼんやりと眼を開け夢見心地のトロリとした様子で数秒じぃっと見詰られ、次いでパチパチと瞬きをすると状況を認識したのか
慌てて起き上がろうとするが、顔の横に手を付き距離を詰めてそれを制すと、大きく眼を見開いたまま狼狽えている。

「覚えて無いのか?」

必要以上に近い距離で低い声でからかう様に問い掛け、指先の爪側で頬を擽る。

「・・・お店出て、タクシー乗って、コーヒー淹れて・・・?ね、ちょっと、近い、から・・・。」

そう小さな声で答えながら、弱い力で自分の肩の辺りを押し返そうとする。
さすがに戸惑うだろうと、取りあえず離れてやると彼女も上体を起こした。胸元が大きく肌蹴て白い肌が
バスローブの黒とのコントラストに眩しい。

「そのままシャワーに入って、今まで寝てた。帰ってくるまでは一応覚えている様で良かったが。」
「・・・ちょっと・・かなり、部分的に曖昧だったり・・するけど。えっ?私、何か、した?」

不安そうに聞いてくる。

「いや、ちょっと酔ってただけだ。疲れが出たんだろう。どこでも直ぐに寝るのには困ったが。」
「ごめんなさい・・・。貴方も疲れてるのに。」
「構わない。だけどお前、無防備過ぎだ。お陰でもう、誤魔化しが利かない。」

そのまま首元を掌で包み引き寄せると、深く口付けた。驚き眼を閉じる事も出来ていない彼女は面白い程にされるがままになっている。
わざと視線を合わせてやると腕の中から逃れようとするが、更に深く口内を貪ると徐々に力が抜け眼を閉じた。

「ふっ、ぅ・・・。」

苦し気な吐息が零れ始めると、軽く触れなぞるキスに変えて数回それを繰り返す。
最後に、遠慮勝ちに脇腹の辺りのシャツを握っていた手を取りその甲にそっと口付けを落とすと一旦腕の中から開放してやる。

それに合わせて震える睫を上げた彼女は、困った様に眉を下げ涙の滲んだ眼をしてどこか惚けた様にこちらを見る。
肌蹴たまま肩から落ちそうになっているバスローブの胸元を合わせてやりながら、彼女の気持ちを確認するべく問いかける。

「俺はもう、自分の気持ちに気が付かない振りなんてしたくない。」

髪を梳き、揺れる瞳を見詰ながら続ける。

「今だけとか、そんなつもりも勿論無い。だから・・・」

そこまで言うと次の言葉の前に、肩口に額を付ける様にして背中へと腕を回してきた。
ふわり、と柔らかな体温と甘い匂いがする彼女の華奢な体は、直ぐに消えて無くなってしまうのではと思う程の
重さしか感じられず、力一杯に抱き締め返す。

抱き締めた耳元でそっと告げる。

「だから、香坂、お前が欲しい。」

すると、回した腕に力を込めて小さく頷く。その背中が小刻みに震えているから、体を離し顔を覗き込む。

「どうした?」
「きっと、叶う事なんて無い想いだって、そう思ってたから・・・。」

そう涙を零しながらも微笑んでみせる。

そんな彼女の様子に、自然と自分も笑みが漏れる。

「そうか。」
「そうよ・・・。びっくりしたわ。でも、嬉しい。」

涙を拭ってやると、照れ臭そうにまた微笑む。頬を包み親指で唇をなぞり軽く口付けた。

「いいか?」

眼を逸らして小さく頷いたのを確認すると、彼女の細い首を引き寄せその首筋に唇を寄せる。
耳朶を甘く噛み、頬を鼻先を摺り寄せ、唇を合わせる。薄く開いた唇を舌で辿り深く侵入させては貪り、
その間にバスローブを肩から落とし素肌に手を這わす。小さな頭を包んでいた手は背骨を辿り、もう一方の
掌は柔らかな膨らみの形を確認する様に緩く弄ぶ。

唇から首筋を舐め辿り鎖骨の溝を抉る様に舌を這わせ胸の先端を口に含むと、背が跳ねて微かな吐息が聞こえた。

「・・・あっ・・。」

自分の両肩を震える指先で掴んでいる彼女を目線だけ上げて見遣ると、眉をハの字に唇を噛締めている。
尚も左手は背筋を撫で胸を弄り、空いている方の胸は唇を這わせ、右手は膝の辺りから腿を撫で上げる。

「やっ!」

彼女の腰の辺りに巻付いていたバスローブを取り去ってしまうと、弱い抵抗の声が上がった。
けれどそれは無視をして背骨を辿っていた左掌は臀部を包み、胸を味わっていた唇を落としてゆく。
シーツへと仰向けに押し倒しながら彼女の脚の間へ自分の体を入れ閉じられなくし、臍を舐め
腰骨をしゃぶり、薄く柔らかいそれを梳き指先に絡めながら、その際へと口付けようとした。

「んっ!・・・ぁ・・。や、待って・・・。」

下へ下へと向かう自分を止めようと、髪をくしゃりと掻き回され頭を弱い力に引き上げられた。
それに逆らう事はせずに眼の位置を合わせると、声を漏らすまいとしている唇を割り口腔を嬲り
舌を絡めては吸い上げる。キスを続けたまま右手は体側面をなぞり下り、熱く蕩け出したそこへ
指を這わせ指先で丁寧に分け入る。すると喉が仰け反り、塞がれた口の中で甘い声が上がる。

唇を解放すると、胸の先端を軽く噛んだ。

「あぁ、っん!・・・んぅ。」

艶めいた声を上げたかと思うと、細い手首と親指の付根の間に唇を押し付ける様にして噛み付き声を封じてしまう。

「痛いだろう?痕が残るぞ。」

そう声を掛けると、ふるふると左右に首を振る。だから一度動きを止めて、その手を外し赤く付いた歯形を舐めた。
そんな自分を困惑した様に見ていた彼女は今にも泣き出してしまいそうな風で、か細い声で言う。

「だって、声・・出ちゃうから・・・。」
「出せば良い。」
「・・・恥ずかしいのよ。」
「俺は聴きたいんだが?それに、どうせ我慢なんて出来なくしてやるから無駄な事はするな。」
「――っ!」

真っ赤に染まった顔を背ける彼女の耳へ口付けながら、低く囁く。

「分かったな?お前の肌に傷が付くのは見たくない。」

自分の腰元を挟む両膝に手を添えて彼女の胸元へ付ける様にして大きく開くと片膝へ口付け、内腿を辿り下りてゆく。

「ふっ・・ぁ、ん。やっ、ね、進藤先生っ!・・・ダメっっ。」
「さっきまで随分とお前に振り回されたんだが、まだ我慢しなくちゃいけないのか?」

そのまま零れる雫を舐め取るとビクンと腰が跳ねる。

「ひっ、ぁ・・・あんっ!やぁ・・・。」

噛み付く事はしないものの、掌で必死になって唇を押さえるも漏れる声と、もう一方の手でシーツを握り
堪える表情が余計に自分を煽る。舌で唇で熱いものが溢れる所や敏感な先端を啄ばみ吸い上げてはヒクヒクと反応を示すのを楽しむ。

「まぁ、我慢した甲斐はあったが・・・。」

顔を上げ、寄せられた眉間へとキスを落としやんわりと右手で胸を包みそう教えてやる。
何の事かと閉じていた眼を開いた瞬間、彼女の中へと入り込んだ。

「んんっ!はっ、あ・・・ぁんっ。」

眼を見開いたまま顎を上げ背を反らすのを上から見下ろして、頬を撫でる。

「日が昇り始めたからな。お前の顔も体も全部、よく見える。」

カーテンを透かす朝の日差しに満ちた部屋の明るさに、そこで初めて気が付いたのであろう。
繋がったまま逃げ場のない彼女は、両腕を眼の上で交差させる様にして顔を隠した。
けれど、彼女の内側はきゅうっと締め付ける反応を示す。

その手を外しシーツへと指を絡めて押さえ付けると、ゆるゆると彼女の中を掻き回す。

「香坂・・・。」
「ん、ぁ・・・。」

薄っすらと眼を開け自分の呼び掛けに答える彼女にの唇に軽くキスをすると、絡めた指を解き髪を梳く様に頭を撫でる。

「しっかり掴まっとけ。」

そう言うと、首筋へと腕を回させ、激しく突き上げる。細い腰に片腕を回しシーツから浮かせるとより深く奥を突く。
もう一方の手は胸を捏ねていたのだが、必死に自分へとしがみ付いている腕の力が抜けてくるとその体を支える。

「あ、ぁあっ!しん・・どぅ、せん、せ・・・。んぅ、ひゃっ!や、あっん!」

甘い声で鳴く淫らさに、自分が動く度に響く彼女から零れる水音に、熱くうねる内壁の感触に、頭の芯が痺れ始める。

「や、あ・・ぁ、もう、やぁ!あ、たし・・・も、ムリっ・・・んん。」

強請る様な仕草で乞うその声に、無意識の媚態を含んだ表情に、堪らなくなる。

「たまき・・・!」

そう名前を呼んで最奥を抉る様に突き上げた。

「ぁあっ!んーっ!!」

ビクンと一際鋭く彼女の体が震え、果てた彼女はくてんと自分へ凭れ荒い呼吸をしている。
その瞬間の強烈に締め上げる感覚に、慌てて引き抜いたと同時に自分も達してしまった。

惚けて焦点の合わない眼をした彼女を横たえ、その汗ばんだ白く細い美しい体を眺める。
カーテンの隙間から差込む日差しに、滑らかで艶かしい肌が際立つ。その事にまだ、彼女は気付いていない。
それを幸いに、ふと思い付き、意識がまだどこかを彷徨っている彼女の脚をそっと持ち上げ少し開かせる。
まだ、気付かない。

彼女が自分を感じてくれた証で夥しく濡れているそれを、ティッシュで丁寧に拭ってやる。
その感触に気が付いたのか、何をされているのかを認識した途端、真っ赤になって叫び声を上げた。

「えっ?きゃぁ!や、めて・・・。」

最後の方は小さな声で涙声の彼女が、可愛らしい。

「今更恥ずかしがるな。こんなに濡れたままだと気持悪いだろう?」
「なっ、だからって・・・。ね、進藤先生。お願い、恥ずかしいから・・・。」
「仕方ないな。でも、嫌だと言ってる割には、だな。」

そうからかう様に言いニヤリと哂うと、新しく零れ始めたそれを指に掬い見せ付ける。
これ以上無い位に肌を赤く染め、涙を滲ませた彼女は横を向いてしまう。

そんな彼女の反応がいちいち自分を喜ばせるのを、分かっているのだろうか。

「たまき。もっと、お前が欲しい。」

すると、困った様な切な気な色の眼差しで恥ずかしそうにこちらを向く。

「でも、あなた昨日から全然寝てないでしょう?」
「問題無い。嫌か?」
「嫌って言うか・・・心配なのよ。」
「それなら、」

抱かせてくれと言う前に、妙に焦った彼女の言葉に遮られた。

「明るいからっ。後じゃ、ダメ?」
「何だ、心配してくれてただけじゃ無いのか?」
「心配もしてるわ。だけど、ね?進藤先生。あなたとこうしていられるのだって、まだちょっと、信じられないのよ?だから・・・。」
「安心しろ。疑いようが無い位信じさせてやる。」
「え?ちょっと、待って!進藤先生っ。」
「待たない。それから、たまき。その、進藤先生ってのは止めてくれ。」
「・・・あなたって、何て言うか、そーゆう性格だったかしら?」

諦めた様に呆れた風に笑う彼女はそれでもまだ、今じゃなきゃダメ?と上目に訊いてくる。

「名前、呼んでみろよ。」
「・・・一生。」

その甘い声音で彼女が自分を呼んでくれたのを合図に、また、二人だけの世界へと溺れ始めた。


★後日談★

かすかな甘い匂いで目が覚めた。腕の中に柔らかな温かさを感じる。
こんな満ち足りた温かさを感じて、夢から覚めたのは一体いつの事だっただろうか?
腕の中の彼女はまだ深い寝息をたてていた。愛おしさと温かい感情が噴き出す。
いつだって忘れた事はなかった。それでも自分の気持ちを伝えたり、出したりするつもりもなかった。
それは早紀を裏切る事になりはしないか、また自分の感情が愛なのかどうかも定かではなかった。
人を愛するという事は簡単ではない。いつか失う事が恐かった。また、この腕からすり抜けて零れて、
虚無の毎日を味わうぐらいなら遠くで幸せを祈る、そんな想いがあってもいいのではと思った。一度
でも抱いてしまえば、肌をあわせてしまえば、もうこの温もりを手放す事など不可能だと知っていた。
だから背中を押した。なにも伝えないままで別れを告げた。彼女が自分の人生を生きている間、自分
自身もまた自分の人生を模索した。
なにかを掴みとって帰国した時に、真先に逢いたかったのは彼女だった。5年間、連絡をしていた訳
ではなかった。恋人がいるかも知れない。自分の事など忘れて生きているかも知れない。それでもソファー
に寝ている、変わらないその姿を見た時に、そんな事はどうでもいい程に喜びを感じた。只、そこで生
きていてくれるだけで構わないと思えた。
けれど自分を抑えられずに結局この腕に抱いた。今となってはただ逃げていただけなのだ。
人を失うという事から。
もう決してこの手から零れ落ちないように、逃がさない、離さない、ずっと。
願わくば、今が永遠に・・・・・・・
サラサラと流れる美しい髪に指を差し入れる。長い睫に縁取られた美しい瞼がゆっくりと持ちあがるの
を眺めていた。

「ん、進藤せんせぃ?」

虚ろな瞳は進藤を捉えて、昨夜を思い出したのか頬が薔薇色に染められた。

「どうした?」

意地悪く聞いた進藤を睨みつけた彼女は、いつもより幼く美しかった。
背を向けてシャツを必死で探す彼女の美しい白い背中に悪戯に手を伸ばし、再び抱き込んだ。短く悲鳴を
あげた彼女が抗議の声を出す。

「今日は休みだろう。たまにはいいだろう?こうゆうのも」
「たまにかどうか、何であなたが知っているのよ!」

キッと睨みつけた、たまきに進藤は涼しい顔で答えた。

「じゃあ最近か?」

言葉に詰まり唸った、たまきを強く抱きこんで進藤は笑いだした。

「何がおかしいのよ!!」

再び怒り出した、たまきを抱いたまま進藤はずっと笑っていた。






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