昭和59年 6月 雛見沢村


―――ひぐらしのなく頃に「恥晒し編」から一日後。


「あーくそ、昨日はとんでもない目にあったぜ!」
 セミの鳴き声がより一層激しくなった真夏の日。
俺はいつものように竜宮レナ、園崎魅音と学校に向かっていた。
「いやー、昨日はおじさん良い物見させてもらったよ」
 魅音はそう言ってにやりと笑う。
「圭一くんの制服姿・・・・・・はぅ〜、かぁいかったよ〜♪」
 レナは昨日の俺の姿を見て、妄想に耽っていた。
「て言うかお前ら!絶対オレがあの制服着るよう企んでただろ!?」
「なんのことかなぁ?ねぇレナ?」
「ほんと、何のことだろ、だろ♪」
 く、二人してとぼけやがって。まぁいい、今日の部活は絶対オレが勝ってやるんだからな!!
「そんなことより圭ちゃん、レナ、早くしないと遅刻だぞ!」
 そう言うと魅音はおもむろに走り出した。確かに時間を見るともうあまり余裕がない。
 俺たちは急ぎ足で学校へと向かうのだった。





ひぐらしのく頃に             


 幕降し編




「ロイヤルストレートフラッシュ!どうだ、これがオレの実力だああああああ!!!」
「う、うそ・・・・」
 魅音の絶句した表情にオレは勝利の美酒に酔い知れていた。
 今は放課後。俺たちはいつものように部活の時間となり、真剣勝負を展開していた。
 昨日はブラックジャックだったから今日はポーカーになった。
「昨日のオレは惨敗を記した!だが、昨日の敗北は今日のための勝利でもあるのだ!!」
「いやしかし、ロイヤルストレートフラッシュなんて役、
滅多に揃えられないよ!?凄いよ圭ちゃん!」
「圭一はすごいのです。にぱ〜☆」
「はぅ〜、ワンペアしか取れなかったレナが最下位・・・はぅ〜」
「信じられませんわ。イカサマしたんじゃ御座いませんこと!?」
 魅音と梨花ちゃんはオレを誉め、レナは罰ゲーム決定にがっくりし、沙都子はオレを疑っていた。
 因みに梨花ちゃんはフラッシュ、魅音はストレートフラッシュ、沙都子はフルハウスだ。
「楽しいな・・・」
「圭一?」
「ああ、いや。去年のことを考えると、またこんな日が来るとは・・・」
「圭ちゃん」
 魅音がオレが言おうとしていた言葉を静かにさえぎった。
そうだ、もうあの惨劇は起こらない。
「レナは楽しいよ。またこうして、みんなと勉強したり、部活したり出来るんだもん」
「レナの罪はもう許されたんだ。だから、これからは目一杯、幸せになれば良い」
 オレはそう言ってレナの頭をくしゃくしゃと撫でた。
レナは恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしてぽーっとする。
「はぅぅ〜、なんか恥ずかしいかな、かな」

 レナが犯した罪はこうだ。

 雛見沢営林所分校生徒篭城事件。

 レナは雛見沢の人間の体内には寄生虫が宿っている、
空から宇宙人がやってきて地球を支配する、などと
言い、俺たち生徒を監禁した後、警察に鬼ヶ淵沼にある円盤を引き上げろ、と要求した。
 さらに教室中にガソリンをばら撒き、警察も手が出せない緊張状態になったのだ。

 だが、オレと大石さんとの連絡、作戦。そして沙都子や梨花ちゃんの
頑張りにより、レナの目論見は崩れた。
 屋根の上での月をバックでの対決は今なお忘れることが出来ない!
 あの対決を今もう一度再現しろと言われても、恐らくは無理だろう。
あれは、あの時だからこそ出来た、真剣勝負だったのだから。

 その後レナは警察に護送された。裁判で色々と揉めたみたいだが、
園崎家の弁護人のお陰で無罪とまではいかないまでも
それなりに軽い罪で終わったようだ。もっとも、オレはその辺りに詳しくないし、
今更どうだって良いのだが。

「レナは運命に勝った。そしてこれからは幸せにすごす権利がある」
 魅音はレナの方を向いて柔らかく微笑んだ。あの時レナにつけられた
傷はもうすっかり回復していた。
「魅ぃちゃん・・・・・・」
「そうですわ、もう今更罪を許しあうことも、話すことも無いのです。
レナさんの罪はもう、許されてますもの」
 沙都子が、愛らしい笑顔でさわやかに告げた。
「沙都子ちゃん・・・・・・」
「レナは頑張ったのです。運命に抗い、運命に負けず、私はそんなあなたが羨ましかった」
 いつもの梨花ちゃんと違う、大人びた雰囲気の梨花ちゃんが、静かにそう口にした。
「私は、自らの運命に抗おうともせず、ただ繰り返される惨劇を諦めてみてきた。
だが、圭一やレナの行動をみて、諦めないということを知った。
だから私は戦う。たとえ今年も、逃れられない惨劇が待っていようとも」
「惨劇なんてもう起きないよ」
 オレははっきりとそう口にした。
 そうだ、もう惨劇なんて起きない。いや、起こさせやしない。
「圭一・・・」
「それにだ、たとえ惨劇が起こったとしても。オレがまた、その惨劇の脚本を書き換えてやるぜ!!!」
「その時はわたくしも強力致しますわ」
「どうせならさ、ハッピーエンドが良いよね♪」
「あ、それいいね〜♪」



皆、とても楽しそうに笑っている。私はたとえ今年も惨劇の幕が開く日だとしても。
もう逃げない。もう迷わない。

今年で、降ろされるはずのない幕の緞帳を降ろして見せる。

それは一人じゃなく、

圭一、
レナ、
沙都子、
そして魅ぃ、

私には、かけがえの無い仲間たちがいるのだから。



===============================

今日はどんな楽しいことが待っているのだろう。
その先に待つ悲劇など知るか

今日はどんな楽しいことが待っているのだろう。
何も知らないことは幸せなこと。

今日もたくさん楽しいことが待っているのだろう。
それは永遠に続くと願って良いの?

                           Frederica Bernkastel