ここは・・・・・・どこだろう?
 手足の感覚がまるで無い。だけど、縛られていることだけは解った。
 辺りは真っ暗で埃臭い。
 俺はどうしてここにいるのか思い出そうとした。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ。

 俺は、ひかりと一緒に帰っていたんだ。
 楽しかった綿流し祭を終えて。

 そしてその後――――誰かに襲われた。


 !?


 ひかりは、ひかりは無事だろうか!?
 
 夜目が効いてきた。
 俺は辺りを見回す。しかし、ひかりの姿が見えない。
 否、ここにはいないのだろう。ならどこに?

 その時、ガチャリとドアノブを回す音が聴こえた。
 俺は警戒する。
 次に、重い金属音を上げ、ドアが開いた。
 中から一人の女性と、複数の男が入ってくる。

 ――――一体彼らは何者だ?

 女性が、近寄ってくる。醜悪な笑み、とはこういうのを言うのか?
 俺は女性を睨み付ける。女性は口元をUの字に曲げ、部屋中に響くほどの大音量で笑った。










 第10話「そして、大切なこと・・・」








 § § §








「何がおかしい?」
 浩二は、大笑いする女性を見て、そう訊いた。
 女性は一通り笑った後、しかし笑みはそのままに言う。
「あらごめんなさい。貴方の姿があまりにも滑稽だったから。くすくすくす♪」
 浩二は女性の顔を見る。しかし、夜目が効いているとは言え、暗くてまだはっきりとは見えない。
 しかし、どこか聞き覚えのある声だった。
 女性がパチンと指を鳴らすと、男の一人が扉の横にあるスィッチを押した。
 パチっと部屋中に明りが灯る。
 そして今度こそ浩二は、目の前にいる女性の顔を見、そして驚愕した。

「お前は・・・・・・入江診療所の――!!」
「会うのは診療所以来かしら? 後原浩二くん♪」
 入江診療所看護婦――――鷹野三四がそこにいた。
「診療所の看護婦が、どうしてこんなことを!?」
「アラ、私は確かに看護婦だけど、それは本業じゃないわ」
「何?」
「知らなくても良い事よ。女はね、秘密を持つほど輝けるものなんだから。くすくすくす」
 悪趣味な奴・・・。浩二は本気でそう思った。
 早くここから出てひかりを見つけないと。あいつは・・・病気なんだから。
「あらあら、妹さんが心配?」
 まるで浩二の心を見透かすかのように、鷹野が言う。
「安心しなさい。彼女は殺さない。いいえ、寧ろ死んでしまっては困るもの。今は点滴投与をして安静に寝ているわ」
 ――――――――信じて、良いのだろうか。
「ひかりに会わせろ」
「信用出来ないのかしら、くすくす。困ったわね。縄を解いて逃げられたら困るし」
「なら、足の縄だけ解け。手を縛られてたら逃げられないからな。それなら良いだろ?」
「ええ、いいわ。解いてあげなさい」
 鷹野が男に命令する。男は頷くと懐からナイフを取り出し、浩二の足に巻き付けてあったロープを切った。
 浩二は立ち上がると、さあ、行こうぜと促す。
「へえぇ」
 鷹野はそんな浩二に、感心したような声を漏らす。
「なんだよ?」
「別になんでもないわ。それじゃ、愛しのお姫様の所に連れて行ってあげましょう」
 鷹野はそう言うと男達を引き連れて、歩き出す。

 彼女は、浩二の足に縛られていたロープを切ったとき、何かしらアクションをするものだと思っていた。
 しかし彼は何もせず、鷹野に先を促したのだ。


 ――――面白い。実に面白い。







 § § §




 綿流しから、3日目の朝がやってきた。
 私に起こる死の惨劇が起こるのは――――明日か明後日か。もしかしたら今日かも知れない。
 だが、別に怖くは無い。
 だけど、乗り越えられる自信は無い。
 私は確実に殺される。
 せめて、殺される瞬間だけでも覚えていれば良いのだが、ビデオテープを無理矢理引きちぎったみたいにそこから先が綺麗さっぱり解らない。
 いやそもそも、この世界そのものが今までの世界とは違っている。
 羽入の姿が、皆に見えること。
 富竹の死体発見が、一日ずれていること。
 そして、浩二とひかりが消えたこと。
 今まで私が経験したこと無い事が一斉に起こっている。
 何かが違う。今までと、何かが。

 そう言えばふと、前の世界で疑問に思ったことがある。
 ――どうしてひかりには、羽入の姿が見えたのか。

 羽入は、この世界以外では声はおろか、姿すらも見えない。
 辛うじて気配や、羽入が立てた足音に薄らと気付く、その程度なのだ。
 しかし、ひかりは違う。
 私と同じように声を聴き、姿を見ることが出来た。

 あの世界でのひかりは、雛見沢症候群の末期状態だった、と言うのがもしかしたら正しいのかも知れない。
 決して人を信じることが出来ず、疑心暗鬼に陥っていたのならば。
 だが、それでもひかりは「鬼隠し編」の世界で疑心暗鬼に陥った圭一のように、惨劇は起こさなかった。
 恐らく、後原浩二の存在が大きかった為かも知れない。

 これらは、私の仮説に過ぎない。
 本当の理由は、もしかしたら別のところにあるのかも知れない。
 

 しかしそれよりも、一番大事な謎がある。
 浩二とひかりは、どこに行ったのか。

 捜さないといけない。しかし、どうやって?
 何を言っている梨花。悩んだら、困ったら、まず最初にやるべきことがあるじゃないか。

 ――そうね。

 私は布団から身を起こす。ちらっと右隣に眠る沙都子を見た。
 沙都子は可愛らしい寝息を立てながら、お腹を出して眠っている。ふふ、おへそぷにぷにしてみたいわ。
 私の左には羽入が眠っている。服が少しだらけていて、少々色っぽい。少しは恥じらい持ちなさいよ。
 私は二人を起こさないようそっと布団から抜け出すと、台所へ向かった。
 昨日は沙都子に当番を代わってもらったから、私がやらないと。



 学校に行ったら、皆に今後のことを話し合おう。
 悩んだら、困ったら、仲間に相談する。 それは当り前のことで、そして大切な事だから。