第4話「エンジェルモート 夏の新メニュー対談・萌級編」


 梨花は午後になって登校してきた。
 知恵には事前に連絡を入れておいたので大して問われるでも無く梨花は自分の席に着いた。
 因みに僕は最初知恵に怪しまれたですが、梨花が「親戚の子で雛見沢の見学に来て暫くの間滞在するのです」と誤魔化してどうにかなったのです。
 そして午後、今日も楽しい部活の日なのです! と思ったのですが・・・。
「今日は部活は無いのですか?」
「ごめんねー。今日おじさんバイトあるからさー」
 魅音が両手をパン!と合わせて僕や皆に謝った。
「ま、手伝いじゃしょうがねぇか!」
 圭一が明るく笑って皆に言う。
 皆も異議は無いらしく(残念そうにしてはいたが魅音の用事じゃ仕方無いのです)、今日はそのままお開きとなった。


 その帰り、僕は梨花から入江と話した内容を聞かされた。
「取り敢えずは、あの二人を健康診断だと偽って連れてくるのですね?」
「ええ、そうなるわね」
 因みに今道を歩いているのは梨花と僕だけなのです。
 沙都子は圭一と一緒にスーパーで買い物しているのですよ。
「梨花、お願いして良いですか?」
「そうね。私の方が入江もやりやすいでしょうし。結果はわかり次第、羽入に伝えるわ」
「お願いするのです。姿が見えなければそのまま梨花についていくですが・・・」
「それは仕方ないわよ。私、このまま家に戻るけど、羽入はどうする?」
「興宮を散歩したいのですが、良いですか?」
 僕の問いに、梨花は少し思案したあと、頷きながら言った。
「別に良いわよ。けど、その格好とその角で怪しまれないかしら?」
「最近は”こすぷれ”なるものが流行っているらしいから大丈夫なのですよ〜」
「羽入・・・そう言う本編の時間軸が混乱しそうな言い方はやめなさい・・・」




 ―――――興宮
 雛見沢村より少し離れたところにあるこの市は、さすが市だけあって雛見沢村より大きく、人も多いのです。
 流石に僕の角は一目に付きそうなので梨花から麦わら帽子を借りて被ってきたのですよ。

 初めて一人で歩く町の所為か、僕の心はスキップ軽やか。
 だからなのか、注意力が足りなかった所為か。
 真ん中を歩いていた柄の悪そうな男の人と、どん、と肩がぶつかった。
「あぅぁぅぁぅ。ごめんなさいなのです」
「なんっすっとじゃわりゃぁあ!!!」
「あ、ぁぅぁぅぁぅ・・・」
「あうあうってなぁにいっとんじゃ!、おお!!??」
 ぁぅぁぅ、まさか不良に絡まれるなんて、初めての経験なのです。
 だってそうです。今まで僕の姿は見えず、触れられもしなかったのだから。
 だから僕はこんなとき、どうして良いのか解らずおろおろするばかりだった。
 数は3人。僕はいつのまにか路地裏に連れ込まれてしまった。ぁぅぁぅぁぅ!
「ごご、ごめんなさいなのです・・・」
「あやまったら警察はいらんじゃぼけ!」
「あーこりゃあかんわ、骨折れとるのぉ」
「ぁぅぁぅぁぅ」
「どないしてくれるんじゃおお!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ご めんなさい」
 一体、何回謝ればこの人達は許してくれるですか?
「謝って済む問題じゃないっつっとろぉがこんぼけがぁ!!」

「あなた達、それくらいにしといた方がいいですよ」

 不良たちの背後、即ち僕の正面に、二つの影が立っていた。
 一人は園崎魅音の双子の妹、園崎詩音。
「それだけ謝っているんですから、許してあげたらどうなんですか?」
 そしてもう一人は、彼女のお世話係・・・でしたですか? の・・・確か、葛西なのです。
「それに、骨が折れていると仰ってましたね。どこの骨ですか?」
 サングラスとスーツ姿でいかにも屈強そうな雰囲気の男が、ずいっと不良達の前に出る。
「ななな・・・なんじゃいわれぇ!」
「どこの骨が折れているんですか?」
 虚勢を張ってはいるが、不良A(僕と肩がぶつかった人)は震えている。
「肩じゃ、肩の骨が折れとるんじゃい!!」
 なんかちょっと声が裏返っていたので思わず吹き出しそうになったのです。
「では失礼して」
 ぼきっと。サングラスの男は不良Aの骨を折った・・・!?
「ぎゃあああああああああああああああ!!!???」
「て、てめぇ・・・本当に折りやがったなぁこのやろぉ!!」
 不良Bが叫ぶ。
「肩の骨を外しただけです。すぐに病院に連れて行ってあげた方が良いでしょう。その後警察に」
「あっはっはははは。葛西、あなた少しやりすぎですよ? まぁ私自身すっきりしましたけどね〜」
 そう言って詩音は笑うと、不良Cは不良Bとともに不良Aに肩を貸しながら、「覚えてやがれ」などというお決まりの捨て台詞を言って路地裏から出て行っ た。


「大丈夫でしたか?」
 すっと手を差し伸べられ、僕は「ありがとなのです」とお礼を言って手に捕まった。
「あなた、この辺ではあまり見ない顔ですね。どこに住んでいるんです?」
「えっと・・・雛見沢なのです。梨花とは親戚同士でお世話になっているのですよ」
「へぇ〜、梨花ちゃまと知り合いですか」
 そう言うと詩音はがしっと僕の手を握ってきた。
「私、あなたのこと気に入っちゃいました。名前はなんて言うんです?」
「えとえと・・・羽入なのです」
「”はにゅー”さん・・・変わった名前ですね」
「よく言われるのです」
 言って僕は苦笑する。
「私は園崎詩音。梨花ちゃまと親戚と言うことはお姉――園崎魅音も知ってますよね? その双子の妹です」
「話は聞いているのですよ。宜しくなのです、詩音」
「はい、宜しくです♪ それで―――」
 詩音は握っていた僕の手を離すと、ずっと傍観していたサングラスの男を指差した。
「あちらでじっとしているちょっと怖そうな男が葛西。私のまぁ世話係みたいなものですね」
「宜しくお願いします」
「こ、こちらこそなのです。あのその・・・さっきはありがとうなのです」
「いえいえ」
「さて! 挨拶も済んだことですし、何か食べにいきません? 羽入、どこか行きたいとこないですか?」
「それなら・・・・・・エンジェルモートに行きたいのです」
「エンジェルモートですか、良いですね! 葛西も文句はないですよね?」
「お供致します」
「それでは、れっつらごーなのですよ〜♪」

 一度で良いからエンジェルモートの甘いケーキを、梨花の口を通してではなく、自分の口で味わってみたかったのです。

「いらっしゃいませ〜。エンジェルモートへようこそ!」
 店の中に入ると、少し肌の露出した黒いメイド服姿のウェイトレスさんに出迎えられる。
「3名様ですね。それではあちらの席へどうぞ♪」
 抜群の営業スマイルでウェイトレスさんは僕達3人を店の一番隅っこのテーブルへと案内する。
 今日は割と空いているが、「でざーとふぇすた」と言う日になると凄く混むと、梨花が言っていたのです。
 注文が決まったのでウェイトレスさんを呼ぶ。
 詩音が注文したのはチョコレートケーキ。僕が注文したのは苺のミルフィーユ。そして葛西は・・・
「すいません。この・・・”熱烈恋愛ロマンスロンドケーキ”と言うのは無いのですか?」
「申し訳ございません。こちらの商品の登場は明後日になっております」
「そうですか・・・」
 葛西の眉尻が少し下がった。
「では、苺のショートケーキを」
「か、畏まりました。チョコレートケーキ、苺のミルフィーユ、苺のショートケーキ・・・ですね、少々お待ちくださいませ♪」
 若干顔が引き攣っているように見えたけどそこはプロ。最後は営業スマイルで注文を反芻するとそのまま厨房へと戻っていった。
「葛西〜、残念でしたね〜」
 詩音がそう言って茶化す。
「別に・・・そんなことは」
 と、葛西は否定しているが、僕にもわかるくらい落胆しているのです。
「ところで、”熱烈恋愛ロマンスロンドケーキ”ってどんなケーキなのですか?」
「エンジェルモートで発表される新作ケーキのことですよ。ここのオーナー、まぁ私の叔父さんなんですけどね。が、そろそろ新メニューが必要だろうって言う んで」
「形は正四角形でチョコと生クリーム、スポンジの3段構え。天辺には板チョコと生チョコクリームがたっぷりトッピングされていてスポンジケーキのふんわり 生地が大変すばらしい一品なんですよ」
「そ、それは是非食べてみたいのですよ〜♪」
 甘い物が大好きな僕にとっては、まさに夢のようなケーキなのです。
 美味しそうに話す葛西を見てると、本当にその美味しさが伝わってくるようなのです。
 葛西もまだ食べたことは無いですが、表情などでいかに美味しそうか解るのです。

 それから30分、僕達は何気ない会話に華を咲かせた。
 葛西は黙って頷いているだけだったが、僕が質問をすると決して無視することなく、きちんと答えてくれたのです。
 そして葛西が追加のカスタードケーキを注文していた時、店に二組の客が現れた。
「おや、あれは」
 葛西がその人物に気付。
「圭ちゃんと・・・亀田君ですね」
 詩音も気付き、店に入ってきた二人の名前を言った。
 圭一と亀田の二人はこちらには気付いておらず、丁度こちらの席の正面の席に座った。圭一が僕達から見て後ろ、亀田が圭一の前なのです。
「丁度良いです。あの二人、普段どんな会話しているのかこっそり聞いてみましょう♪」
 小声でそう言うと、詩音は少し姿勢を低くした。
 葛西は少し渋っていたが、仕方無く言うとおりにする。僕は特に異存は無かったので同じように姿勢を低くしたのです。




「ところでK! ご存知ですか!?」
 開口一番、亀田が俺に向かって突然と叫んだ。
「何がだ?」
「何がって、明後日ですよ明後日! エンジェルモートの新メニュー”熱烈恋愛ロマンスロンドケーキ”の発売はぁああああ!!!!」
 ぐっと拳をにぎり、ダン!とテーブルに右足を乗せて高らかに咆える。
「おお、なんか美味しそうだな!! それは一体どんなケーキなんだ?」
「喩えるなら・・・3つの属性を持った萌えキャラ美少女と言ったところです!!」
「な、なんだとぉおおおおおおおお!?」
「K! 貴方が属性と言ってまず思い浮かぶのはなんですか?」
「そうだな・・・猫耳、ブルマ、セーラー・・・あとメイドさんかなぁ〜〜」
「”熱烈恋愛ロマンスロンドケーキ”には、チョコ、生クリーム、そして柔らかいスポンジケーキの3段重ねがポイントです。K、この3つを属性に置き換えて みてください!」
「チョコは・・・甘くて切ない・・・幼馴染だな。生クリームは清純派なメイドさん。柔らかなスポンジケーキは、差し詰め大きくてたわわな巨乳と言ったとこ ろかな〜はぁはぁ」
「ささ・・・さすがKぇぇぇえええええええ!!! 完璧ですよ! 萌えまくりですよ!! そうなんです、”熱烈恋愛ロマンスロンドケーキ”には、その3つ の属性が一まとめになっているのですよ!!!!」
「つまりあれか! 普段学校では何気ない幼馴染だが、家に帰ると御主人様のために尽くす、巨乳幼馴染メイドさんだと言うのかぁああああああああああ あ!!!!」
「そーなんです!! しかもその3段重ねじゃ飽き足らず、天辺にはチョコクリームと板チョコが乗せてあるんですよぉ!!」
「チョコクリームは言うなれば黒のニーソと言ったところかなぁ。それをフォークで・・・ゆっくりと脱がして、そして・・・まずは幼馴染の時間から夜はメイ ドさんの時間。白い純白のエプロンドレスを脱がし、たわわな巨乳をまんべんなく味わう・・・。ゆっくり揉み、時に激しく! メイドと幼馴染、二つの顔を交 互に味わうのも捨て難いなぁ〜!!」
「すすすすす・・・・・・素晴らしすぎるっす!!! Kぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!!!」
「亀田君!! こんなすばらしいケーキを教えてくれて感謝する!!!」
「Kこそ!! これで”熱烈恋愛ロマンスロンドケーキ”が更に美味しく食べられるっすよぉおおおお!!!!」
「亀田君!!」
「K!!」
 がしっと俺達は熱い握手を交わし、改めて俺達の関係を確認し合ったのだった。

「あの・・・ご注文は・・・・・・」
 引き攣った営業スマイルを浮かべるウェイトレスさんが立っているのにも気付かず。




 圭一と亀田の会話を聞いていた僕は、詩音に言った。
「詩音・・・」
「訊かないでください」
 即答されたのです。
「まだ何も言ってないのですよ」
「言わなくても解ってます。圭ちゃんと亀田くんの会話の意味を教えろ、でしょう?」
 こくん、と僕は頷いた。
「私もそれなりに圭ちゃんの会話の意味は解ります。だけどそれを説明したら、なんか人として破滅と言うか・・・・・そんな感じがするんです」
 詩音がこれ以上に無い深刻な表情で言うので、僕はそれ以上聞かないことにした。
「詩音さん、あの二人の会話を理解している時点で、終わっていると思いますが・・・」
 しかし葛西が最後、冷静で非情なツッコミをした。



 それから圭一と亀田は結局僕達に気付くことなくエンジェルモートを去った。
「詩音、どうして圭一に声掛けなかったですか?」
「どうせ学校でも会えますからね。それに、今日は羽入とお話したかったですし」
 そう言って詩音はウィンクをした。僕は少し気恥ずかしくなりながらも、ありがとなのです・・・と呟いた。
「そろそろ帰るのです。 ぁぅぁぅ、けど僕、お金もってないのですよ・・・」
「それなら心配しないでください。私が代わりに払っておきますから」
「良いのですか?」
 僕が少し遠慮がちな顔をすると、詩音は笑って
「構いませんよね、葛西?」
「詩音さんが、そう仰るなら」
「ありがとなのです。詩音、葛西」
 僕はぺこんと、頭を下げた。
「またいつでもいらしてくださいな。今度は部活メンバーの皆と一緒に来るといいですよ」
「勿論なのです! 詩音、本当に今日はありがとうなのです♪」
 もう一度ぺこりと頭を下げ、僕はエンジェルモートを後にした。


 今日はとても楽しかったのです。ちょっと怖いこともあったけど・・・。
 明日は・・・梨花が浩二とひかりを入江のところに連れて行くのです。
 悲劇なんか、絶対に起こさせないのですよ!