誰があの子達を救うことができるでしょう
私自身、この惨劇から逃れることができないのに

誰があの子達を救うことができるでしょう
誰もきっと、救うことなどできないのに

ならば誰があの子達を救うのでしょう
それはきっと、他でも無いあなた自身

Frederica Bernkastel






ひぐらしのく頃に 解

Seena presents Welcome to Hinamizawa..."WHEN THEY CRY..."


羽堕し編



第1話「羽入の選択 その運命」前編




―――――次の瞬間、誰かが僕を呼ぶ声で目が醒めた。

「羽入、羽入!」
「あ・・・・・・あれ・・・・・・?」
 ここは、どこなのでしょう?
 僕はキョロキョロと辺りを見回し、ここは学校の裏山だと判断するのです。
 次に記憶の確認。
「羽入、今昭和何年何月何日か解る?」
「昭和58年6月15日なのです。綿流しまで、あと4日なのですよ」
 梨花の質問に無意識に答えることで、僕は自らの記憶の確認を行ったのです。
 だけど、どうして僕が木から落ちて・・・・・・あれ?
「僕、どうして木から落ちたですか?」
「皆と一緒に部活をしててもののはずみで木に登ったら、そのまま真ッ逆さまに落ちたのよ」
 全く何やってるんだか、と梨花は呆れた声でため息を漏らす。
「ぁぅぁぅぁぅ・・・・・・」
「それで、ここはどこの世界かあなたは解る?」
「今日の梨花は質問ばかりなのです。それは僕にもまだ判断出来ないのですよ」
「そう・・・・・・」
 梨花はそう言うとすっと僕に向けて手を差し出してきた。
 拒む理由も無く、僕はその手を掴んですくっと立ち上がる。

「おーーい、梨花〜〜〜!」
 遠くから聞こえるのは梨花の友人グループのリーダー格である園崎魅音。
 それに続くように他のメンバーも集まってくる。
「いたのです・・・・・・」
 見ると、そのメンバーの中に後原兄妹の姿があった。
 間違い無い、あの兄妹がいると言うことはこの世界は・・・・・・・・・・・・。
「羽入、ここは影曝しの世界なのね」
「そう言うことなのです」
「あれ? 梨花この子誰?」
「見ない顔だね。転校生かな、かな?」
「おお! 巫女服とはまた萌える格好を! 梨花ちゃんの巫女服姿も良いが、この子も中々!!」
「圭一さん・・・・・・少し黙っていてくださいませ。 それより、梨花、その子は梨花のお知り合いですの?」
 やはり皆、僕の姿が見えるのですね。
「羽入、どう言うこと? どうしてあなたの姿が皆に見えているのよ?」
 梨花は他の皆に聞こえないよう、僕の心の中に語りかけてくる。
「それがそう言う願いなのです。話すと長くなるのですが、願いを叶えてくれる世界に迷いこんで、そこで梨花以外の人にも僕の姿が見えるようにしてもらった のです」
「ふぅん・・・・・・その世界ってのがどんなところなの?」
「それが良く解らないのです」
「解らない?」
「はい。いつも死んだら次の世界へ転生する間見る世界とは、どこか違っているのです。具体的には言い難いですが」
「そう、まぁそれはいいわ。羽入。貴女、どうしてその願いを?」
「それは後でゆっくり話すのです。今はみんなに、僕を紹介する方が先決なのですよ」
 そう言うと僕は梨花との精神会話を解除した。
 その言葉に納得したのか、梨花は早速僕を紹介してくれた。
「皆、紹介するわ。この子は羽入。詳しく紹介すると長くなるから、そうね・・・オヤシロ様ってことで良いかしら」
 ぁぅぁぅぁぅ、その紹介はどうかと思うのですよ〜。

「「「お、オヤシロ様ぁ!?」」」

 やはり、皆驚いて固まっているのです。
 それはそうなのです。いくらなんでも、角の生えた子なんて気持ち悪いだけなのです。

「はぅ〜〜! 羽入ちゃんの角かぁいいよ〜!! 

 お、お持ち帰り〜〜〜!!!!」


「え、ええええええっ!!??」
 いきなりレナに抱きつかれてほっぺすりすりされて混乱する僕。
 何これ何これ、どう言うことなのですか〜!?
「羽入、誰も皆あなたの角を見て気味悪がる人なんていないわ」
「梨花ぁ・・・・・・」
「ああもう、泣かない泣かない」
 梨花がよしよしと、僕の頭をなでてくれる。
 とても気持ちよくて、とても心地良いのです。
「なんか、どっちが姉か解らないよな・・・・・・」
 と、冷静なツッコミをしてくる浩二。
「そうだね。でも仲良くて羨ましいなぁ」
 と、羨望の眼差しで見つめるひかり。
「よし! それじゃ羽入を交えて早速部活と行こうかねぇ、くっくっく!」
「おい魅音。 まだ俺達の自己紹介が済んで――――」
「それなら大丈夫なのです。みんなの名前は知ってるのですよ」
 そう言うと、圭一は勿論、梨花以外の皆が驚いた顔付きになる。
「えっと・・・・・・それなら問題無いね」
 こほんと咳払いをして、魅音が早速部活の内容を話し始めた。
 皆と一緒に部活―――― なんだかとっても・・・・・・
「わくわくするのですよ」
「羽入、この際だから思いっきり楽しみなさい」
「はいなのです! でも、罰ゲームは勘弁なのです。ぁぅぁぅぁぅ」

「今日のゲームは・・・・・・・・・


 『フィールド乱闘!水鉄砲

 
 サバイバルバトル!!!』




「おおおおおおーーーーーーーーー!!!!!」

「うう、皆の覇気が桁外れなのです」
「羽入ちゃん、一緒にがんばろう♪」
 ひかりがそう言って僕に一丁の水鉄砲を差し出して来た。
「ありがとなのです。頑張るのです」
 この笑顔を・・・・・・僕は、この笑顔を守るためにこの世界に来たのです。
「それじゃ、ルールの説明をするよ〜。場所はこの裏山、そして校舎。それぞれ特定の位置についてもらって合図が鳴ったらスタート。
 水鉄砲を相手に当てたら勝ちさ。水鉄砲のルールとして、水鉄砲と言う容器から出た水が被弾した時点でアウト。被弾ルールは先に被弾した人が放った水が自 分に当たっても、カウントされない!
 あー、因みに、特定の位置はくじでランダムに決まるから、いきなり強敵と当たっても恨まないように!」
 そう言って、魅音が四角い箱を取り出した。一体どこに隠してたのかは聞いてはいけない気がするのです。


 そしてくじの結果、僕は裏山の奥の方に決まったのです。
 因みにこの裏山、本来なら沙都子のトラップが大量に仕掛けてあるはずですが・・・・・・
「まさか、罠も注意して戦わなければならないなんてことは・・・・・・」
 
 ”ピーーーーーーーー!”

 そう考えていたと同時、笛が鳴った。
 ゲームスタートの合図なのです!

「取り敢えず、まずは出方を伺うのですよ。いきなり梨花と当たったら心元無いですが」
「あら、羽入さんの相手は私でしてよ?」
「!?」
 私は咄嗟の判断で横へと飛んだ。
 その横を流れる水の放物線。
「不意打ちとは卑怯なのです!」
「おーっほっほっほっほ! これくらい避けられなければ部活メンバーには入れませんわ! その点で言えば、羽入さんは合格ですわね♪」
 本当に心底嬉しそうに沙都子が言う。
 北条沙都子。梨花の一番の親友で梨花をここ一番で何度も支えてくれたとても良い友達なのです。

 ―――――――でも!

「僕は手加減しないのです。行きますよ、沙都子!」
「来るでございますわぁ!!」
 こうして、僕と沙都子の一騎打ちが開始された!!!



 ―――――一方その頃。


「まさか、こんなことになるなんてね。お兄ちゃん」
「ああ、全く驚きだぜ、ひかり」
 向かい合う二つの影。
 校舎のグラウンドでお互いに水鉄砲を構えながら、血の通っていない兄妹がにらみ合っていた。
 それはまるで、数年ぶりに再会した宿命のライバルが、実は我が妹(もしくは愛しの兄)だった!!という裏ストーリーが展開しそうなシチュエーション!!
 どこからともなく風が吹き、そして、どこからともかく藁が転がっていく。
「お兄ちゃんいかないの? 遠慮しなくて良いよ」
「そっちこそ。妹だからって遠慮しなくて良いんだぞ」
 両者互いに睨みあったまま、一歩も動かない。
 お互い水鉄砲を下に構え、しかしトリガーに指は当てていない。
「なんか・・・・・・怖くなってきたね」
「おいおい、しっかりしろよな」
「だ、だってぇ〜〜〜」
「そうそう、しっかりしないとおじさん先に行っちゃうよ?」
「「!?」」
 ババっと俊敏な動作で後原兄妹は「本当の敵」に向けて銃口を向ける。
 そこにいたのは園崎魅音。園崎家次期頭首にして、このゲーム最強の敵!!
 そう、浩二とひかりが互いを睨みあっていたのではない。
 二人は、同じ共通の敵と睨みあっていたのだ!!

 え、だったら「数年ぶりに再会した宿命のライバルが、実は我が妹(もしくは愛しの兄)だった!!という裏ストーリーが展開しそうなシチュエーショ ン!!」とは一切関係ないじゃんって?
 ごめんなさい、それ冗談でした。

 こほん、えっとそれは置いといて。
 後原兄妹VS園崎魅音の対決の火蓋が切って落とされようとしていた!!!



 そしてもう一方。こちらはレナVS圭一。

「あははははは! どうしたのかな圭一くん。足が棒だよ?」
「うるせー! そっちこそスカートがジャマで中々進めないんじゃないか? なんだったら脱いでも良いんだぞ! 俺はその隙に撃たせてもらうけどな!!」
「圭一君こそ、レナの足に見惚れている間に撃たれても知らないよ!」
 こちらでは、いきなり激しい戦いが繰り広げられていた。
 跳び、走り、時には水鉄砲自らで打ち合いながら、また木を盾にしながら「水」と言う名の弾丸を避けている。
「おらおらおら、まだまだ行くぜぇーーー!!!」
「あはははは! 甘いよ圭一くん!!」
 レナは圭一の必中の攻撃を自慢の瞬足で躱して、一気に懐へと潜り込む。
「甘いのはそっちだぜ、レナぁあああああああ!!!」
 圭一はレナのその動きを読んでいたのか、普段の彼とは思えぬ素早い動作で後方へと回転する。
 即ち、バック転!!
「さすがだね、圭一くん・・・・・・」
「レナの方こそ。今のは正直危なかったぜ・・・・・・」
「仕切り直しだね。けど、勝つのはレナかな、かな!」
 レナが、普段は見せないキリっとした表情で圭一を睨み付ける。
「何言ってやがる!! 勝つのはこの俺だぁああああああ!!!!」
 圭一はそんなレナの表情を撃ち抜くかのように、びし!っと水鉄砲の銃口を彼女に向けた!!!


「「―――――――――勝負!!!」」








後編へ続く。