ひぐらしのく 頃に



恥晒し編



どうして、こうなってしまったんだろう・・・。
調子はよかった。凄くよかった!なのに・・・。
解らない。本当にわからない・・・。
落ち着け、クールになれ、前原圭一!
こうなることは解っていたはずじゃないか!!
そうさ、そうだとも。だって・・・。


話は大体2時間前に遡る。



「さあ、今日も部活の時間だぜ!魅音、今日の勝負はなんだ!?」
「そうだねぇ〜。今日はあまり体を動かさないものにしょうか」
「トランプとか良いと思うのです」

魅音の言葉に梨花ちゃんがトランプ勝負を持ちかける。

「トランプか〜。ふっふっふ、部活に入りたての頃の俺と思うな!カードの傷も全て覚えた!もうお前たちに遅れは取らないぜ!!」

キュバーンという効果音と共に、俺は叫んだ。そうだ、あの時の俺は未熟だった。だが、あの頃とは違う!

「さあ、大富豪か!ババ抜きか!なんでも・・・こおおおおおい!!!」
「け、圭一さんが燃えてますわ・・・」
「す、すごい迫力かも・・・」

レナと沙都子の二人も圭一の迫力に内心驚いている。

「くっくっく!今回はそのどちらでも無いんだなぁ。ここはさ、海外式のトランプ勝負にしようかと思ってる次第なのさ」
「か、海外式!?」
「海外式ってなんだろ、 だろ?」
「どんな勝負でも負けないのですよ。にぱ〜☆」
「珍しく梨花が燃えてますわね〜。それで魅音さん、海外式って何ですの?」

「ズバリ!ブラックジャックでどうよ!」

「「「「ブラックジャック!!??」」」」

ブラックジャックとは、ディーラーがプレイヤーにそれぞれ2枚のカードを配り、2枚のカードの合計が21に近い者が勝利するゲームだ。
21を超えるとバーストとなり、敗北となる。また、例え21に近いカードをそろえたとしても、ディーラーに負けると意味は無い。

「まぁ、ディーラーとかは今回無しで行こう。あと今回トランプは正真正銘、新品で行くよ」
「な、何ぃ!?」

新品と聞いて圭一を初め、他の部活メンバーも少なからず驚いた。今回の魅音は間違い無い、本気だ!!

「それでそれで、罰ゲームは何かな、かな?」
「そうだねぇ〜〜〜。くっくっく、おじさんさあ、一度男がエンジェルモートの制服着たらどうなのか、知りたかったんだよね〜」
「な、何!?」
「はぅ〜!エンジェルモートの制服着た圭一くん、かかか、かぁいいよ〜♪ お、お持ち帰りぃ〜〜☆」

ぼん!という音がして、レナは真っ赤になっている。どうやら俺がエンジェルモートの制服を着た姿を妄想してしまったようだ。

「それは魅力的な罰ゲームですわねぇ〜。圭一さんのあられもない姿がわたくし達だけでなく、他の人にも晒される訳ですわねぇ」
「とっても楽しみなのですよ♪」
「ちょ、ちょっと待てぇぇぇええい!良いのか、お前らが負けたら、またあの日のようなことが起こるんだぞ!ああそうさ。俺が勝てば良いんだ!
そして今度はレナも交えて文字通りのハーレムを展開してやるぜぇええ!!!他の濃い客が羨む中で、お前らは俺に奉仕するんだ、はあはあ!
楽しみだなぁ〜〜〜!!」
「面白いじゃない。それじゃ圭ちゃん、この勝負・・・乗るね?」
「おお!いつでもこぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!」
「それじゃさっそく始めようか。みんな、机を集めて〜」

レナと沙都子、梨花ちゃんと俺は魅音の言われたように机を四角の形に合わせた。いつも昼休みを食べるときの机の配列に似ている。
そして魅音はスカートのポケットから恐らく新品であろうトランプを取り出した。

「それじゃカードを2枚配るからね〜。引く時は『ヒット』、引かない時は『スタンド』って言うんだよ〜」
「結構本格的だなぁ。インシュアランスとかイーブンマネーとかはどうするんだ?」
「別に賭け金とかは無いからね〜。普通に一番21に近い数字を出した人が勝ちってことで行こう」
「それだとあっさり勝負がついて面白くありませんわね」
「3回勝負にして、一番ポイントが高い人が勝ち、と言うのでどうでしょう?」
「よし、梨花ちゃんの案で行こう。1位は5点、2位は3点、3位は2点、4位は1点、ビリは0点、OK?」
「ああ、いいぜ!!」

そして魅音がカードを裏向きにして2枚、俺たちの元に配られた。そう、勝負はもう始まってるんだ!!
俺は配られたカードの数字の合計を確認する。

ハートの4とクラブの5。合計数字は9!

「さあ、それじゃ始めるよ〜。まずはあたしからだね。あたしはこのままスタンドするよ!」

どうやら魅音の手札はこれ以上カードを引かなくても良いようだ。いや、引けるがバーストの危険性も含んでスタンドしたと言うこともある!
次はレナの番だ。さあ、どうでる?

「レナはヒットするよ。ん〜〜〜スタンド。次は沙都子ちゃんだね、だね♪」
「お〜ほっほっほ!わたくしは2枚ヒットするでございますわぁ。 ひぐ」

沙都子の顔が引きつった。もしや・・・。

「沙都子ぉ、欲張ってカード引きすぎた所為でバーストしちゃったようだね〜」
「そ、そんな〜〜〜」
「なでなで、残念なのですよ。ボクが沙都子の仇を取るのです。このままスタンドするのですよ」

梨花ちゃんも魅音と同じでスタンドした。次は俺の番だ。
9と言う数字はこのままスタンドすると確実に負けるのは目に見えている。

「俺は1枚ヒットするぜ」

俺はトランプの山札から1枚カードを抜き取った。引いた数字は・・・クローバーの7か!!
合計すると16。正直微妙な所だ。だが、ここでさらに1枚スタンドしてバーストしてしまっては元も子も無い。ここはこれ以上引かない方がいいだろう。
それに沙都子はもうバーストしている。ビリにはならないはずだ!

「よし、俺はこれでスタンドだ。さあ、来やがれ!!」
「それじゃ一斉にオープンするよ〜。せーっの!」

魅音 ハートのA クローバーのJ 合計21 ブラックジャック!

レナ スペードの7 クローバーのQ 合計17

梨花 クラブのK スペードの8 合計18

沙都子 ハートの3 クラブの3 クローバーのQ スペードのA 合計17

圭一  ハートの4 クラブの5 クローバーの7 合計16

「な!ちょっとまて沙都子ぉぉ!!お前バーストしてねえじゃねぇか!」
「何言ってますの圭一さん。合計数字が26、立派なバーストですわ」
「沙都子ちゃん。Aは1と11、どっちでも好きな方を選べるんだよ」
「え、そ、そうでしたの!?」

レナの説明に沙都子は驚いた。

「もしかして沙都子〜、ブラックジャックのルール知らないんじゃない〜?21に近ければ勝ち、と言う暫定的なことは知っているけど、数字のAも10と思っ てたとか」
「そ、そんなことありませんわ」
「それより魅音・・・いきなりブラックジャックかよ!?いや待て・・・魅音、お前まさか!?」
「くっくっく!会則第2条、勝つためにあらゆる努力をしろ、だよ圭ちゃん♪」

カードを配ったのは魅音だ。そう、魅音はあらかじめ、自分の番が来る辺りにカードを忍ばせ、21にするよう仕掛けてあったんだ!
な、なんて狡猾な!と言うか

「反則だろそれは!フェアじゃないぞ!!」
「勝てばいいのさ勝てば。と言うことで、1位はあたし、2位は梨花、レナと沙都子が同点3位、そして・・・圭ちゃんがビリ」
「ええいまだだ!!あと2回残っているんだ!次が勝負だぁあああああああ!!!!」

先手は取られたが、次のターン、魅音は先ほどのようなイカサマはできないはずだ。そう、ここからは全て、運が左右する!!
しかし、勝負はあまりにも無常だった。
俺は立て続けにバーストを連発。ヒットする度にどうしてJやQなど、大きい数字のカードが来るんだぁああああああ!!!

「終了〜〜。ビリはダントツで前原圭一。罰ゲーム決定〜♪」
「み、魅音・・・・・・お前まさか、俺を罰ゲームにするために、トランプの数字の順番を並べたんじゃないだろうな・・・?」
「それは無いね。確かに最初の方はあたしがブラックジャックになるよう細工したけど、それだけだよ。間違い無く、圭ちゃんの運が無かった証拠だね」
「それに2回目はレナがカードをちゃんと切ったはずだよ」
「そ、それは確かに・・・」
「潔く負けを認めなさいませ!おーっほっほっほ!」
「沙都子、てめええええ!」
「なでなで、圭一は頑張ったのですよ」

こうして、俺の罰ゲームは決定した。ああ、エンジェルモートの制服を俺が着るはめに、しかも衆人環視の中で!!
だ、ダメだー!これならまだメイド服とか猫耳ブルマとかを着た方がはるかにましだああああ!!!

「な、なぁ。ちゃんと店の店長や店員の了解は得ているのか! 男がエンジェルモートの制服を着て店に出たら、店の信用問題に関わるだろ!?」
「ああ、その点についてはだいじょーぶ。義郎叔父さんの了解も得てるし、圭ちゃんのむふふな姿を楽しみにしているウェイトレスが多いんだよ♪」
「はぅ〜〜〜っ 圭一くんの制服姿〜はやくみたいよ〜〜〜はぅ〜〜〜☆」

やばい、レナが臨界点を突破しかけている。妄想でコレなら、ナマで俺のエンジェルモート姿をみたらどうなるんだ!?

「ち・・・ち・・・ちくしょおおおおおおおおおおおおお!!!!」


そして終わる、全て終わる。

そう、ひ ぐ ら し の な く 頃 に 。






ああ、本当に大変だった。胸元と足元がスース−するわ、お客さんは侮蔑の眼差しで俺を見るわ、レナにマジでお持ち帰りされそうになるわ、
一部の濃い客からのブーイングがすごいわ(2秒後にそれはやんだがレナが何かをした、だけ言っておこう)。

本当に、生きている心地がしなかった。
そして今思うと・・・あの勝負自体、実は最初から俺にエンジェルモートの制服を着せるために画策した4人の罠だったのではないか、と思うようになった。



くっそおおおおおおおお!次は絶対負けないからなぁあああああああああ!!!!!!








 恥を晒すとはどう言うことなのか。
 それは己の弱さを見せると言うこと。

 恥を晒すとはどう言うことなのか。
 それは他人に笑われると言うこと。

 どうして恥を晒すのが恥ずかしいことなのか。
 それはとても難しいことだから。

                  Frederica Bernkastel





ひぐらしのなく頃に 恥晒し編

TIPS「エンジェルモート、大暴走」

 こんな日が来るのを、誰が予想しただろうか。
 その日、いつものようにエンジェルモートに足を運んだお客様方は信じられない光景に我が目を疑っていた。
 
「い、いらっしゃいませ〜・・・ ・・・」

 弱弱しく、そしてやや恥じらいとか屈辱とか兎に角色んなモノを一気に吐き出したかのような挨拶が聞こえる。
 それは彼、前原圭一がこの店の制服を着ていることにあるのだが。

「あっはっは! 圭ちゃん、よ〜く似合ってますよ〜〜♪」

 同じようにエンジェルモートの制服に身を包んだ詩音が、茶化すように圭一の背中をバシっと叩いた。

「詩音―――! てめぇ―――――!!」
「あははは♪ 義郎叔父さんに頼んで圭ちゃん専用の制服を用意させておいて正解でした」
「何がオレ専用だ! 胸の部分が剥がれないようになっているだけじゃないか!」

 そう、彼、前原圭一が着ている制服は見た目はエンジェルモートの制服そのままだが、肩に紐が付いていて胸の部分がぺろんとめくれないようになっているの だ。
 実は以前梨花ちゃんが着ていたような学校水着とエンジェルモート制服の、夢のコラボレーションを実現させようとしたのだが、取り敢えずそれは圭一の男の 意思で必死に却下させた。

「はいはい、文句言ってないであちらのお客様のオーダー、お願いしますね♪」
「って、おい!」
 
 詩音はそう言ってくすくす笑うと厨房の方に戻っていった。
 見れば他の店員も必死になって笑いを堪えている。

「くそー、あとで見てやがれ! 兎に角今は店の手伝いするしかねぇか・・・ ・・・」

 圭一はこの店のバイトでエンジェルモートの制服を着て仕事をしているわけではない。
 と言うか男に女用の制服着させてバイトさせたら大問題だ。そのため、圭一は一日だけの限定お手伝い、と言うことになっている。義郎叔父さんを説得させる のはしかし、あまり大変ではなかった。
 面白そうだ、と言う理由だけで二つ返事でOKしたのだから。

 詩音が言った「あちらのお客様」とは当然、一般でも無ければあっち方面の濃いお客様でもない。
 圭一はここでこの制服を着て働いてお手伝いと言う名目を持ってはいるが、実際オーダーを取るのは部活メンバーだけである、魅音、レナ、沙都子、梨花だけ である。
 そう、詩音が言った「あちらのお客様」とは彼女たちのことだ。
 罪滅し編での罰ゲームを思い出してもらえれば解りやすいと思う。もっとも今回は立場は逆だが。

「おお〜、圭ちゃん似合ってる〜〜〜♪」
「お〜っほっほっほ! 無様ですわね圭一さん!」
「圭一、とっても似合ってるのです。にぱ〜☆」
「はぅ〜〜っ!圭一くんかぁいいよ〜〜〜〜〜☆ 今度こそ、絶対絶対、お持ち帰り――――――!!!」
「だあ!てめえらうるせー! そしてレナ、オレをお持ち帰りするんじゃない〜〜〜〜!?」

 こんなことならまだセーラー服+ブルマやネコミミやメイド服を着た方がまだマシだった!

「圭ちゃん・・・ ・・・ それは人間としてどうかと思うよ・・・ ・・・」
「そんなことより、さっさと注文しろよ、注文!」

 メニュー表をバシバシとテーブルに叩きつけ、注文を促す圭一だが、ここぞとばかりに魅音が反撃に出る。

「おやぁ〜? ウェイトレスさんがお客様に対してそんな態度でいいわけ〜??」
「ぐ・・・」
「圭一さん、肩を揉んでくださいませ」
「お前まだガキだろ肩なんか凝らないだろ―――――!!」
「圭一、よしよしなのですよ」
「り、梨花ちゃん・・・ ・・・ ・・・ ・・・」

 魅音の駄目出し、沙都子のわがまま、梨花ちゃんの慰め攻撃により、圭一の精神はもはや崩壊寸前だった。
 それでもなんとか彼女達の要望に応える辺り、圭一もタフである。
 しかし一同、レナの様子がおかしいことに気づき、レナの方に話しかける。

「レ、レナ・・・? どうしたんだ?」
「レナさん?」
「レナ、ちょっと気絶・・・いや、悶絶してるよ!?」
「圭一の姿があまりにかぁいすぎて昇天してしまったようなのです。圭一、恐るべし」
「んなこと言ってる場合じゃないだろ――! レナ、レナ! しっかりしろおおおお――――――――!!!!」

 がくがくがくがくと思いっきりレナの肩を掴んでがくがくと上下左右に揺らす圭一。
 顔を真っ赤にして幸せそうな表情をしていたレナだが、やがて妄想の世界から還ってきたようだ。

「圭一・・・ ・・・くん。 はぅ! かぁいいよ〜〜〜〜♪」
「ちっともかぁいくないでござる!」
「え?」

 圭一達が振り返ると、あの濃い集団が瞳をギラつかせながらこちらを睨んでいた。
 ああ、そうだよな、普通はそう言う反応するよな・・・と、圭一は心の中で一人ごちた。

「エンジェルモートの制服は女性が着てこそ、そのプロポーションが露わになるでゴザル!!」
「胸だけではない! その短いスカートから覗くむっちむちのFUTOMOMO!! まさに、我々男達のユートピア!!!」
「鮮麗、いや洗礼されたフォルム、デザイン。女性の美しさを見事に魅させてくれるヴィーナスのような制服をお、お、男が着るなど言語どうだ」
「ぎゃ! ぎゅえ! ごふ! おぺら!? ぶべっ! ぷぎゅ!?」

 おお、濃い連中が語り終わらぬうちに何かが光速で駆けて行ったぞ・・・ ・・・。しかも一瞬で皆床に突っ伏してる。

「あはははははははは♪ 圭一くんに文句言ったら駄目だよ、だよ♪ 圭一くんはかぁいいんだから〜♪」

 やっぱりレナか。しかし圭一は敢えて何も言わないことにする。それは他の部員も同じだったようだ。


 こうしてエンジェルモートでの騒動は閉店まで続くこととなったのである。



 了。