「恋する闇の魔導師:第5話」



あの後、俺はルシファーの屋敷に出向いた。
いつものようにキキーモラが屈託のない笑顔で俺に挨拶してきて、俺とルシファーにお茶とケーキを差し出す。
キキーモラは金髪で赤いエプロンドレス姿の女、清潔感のある顔立ちで普段はおっとりしている。
この清潔感のある顔とは裏腹にマジギレするとルルーさえも震え上がらせる程恐ろしいらしい。
ここまでは普段通りの当り前の光景、キキーモラの差し出したお茶とケーキを食した後はルシファーに別の部屋に案内された。
そこはこの屋敷の地下で、その場所も通路や部屋等は地上と同じような創りの構造だった。
その地下にある部屋の中でも特殊な部屋へと招かれた。
外観自体はキキーモラを始めとするそこで住み込みで働いている使用人達の部屋と一緒だった。
タンスやベッドを始めとする家具等は同じ位置に置かれ、部屋の中のデザインも色違いだけれども構造は同じだ。
違う箇所と言えばその部屋の中は特殊な魔力が働いていること、そこにあるあらゆる家具も魔法の家具であると言うこと。
そして、そこで働く使用人達の中でもほとんどの者の出入りはなく、普段は奴の実家(魔界の王家)の関係者しか入れられない部屋だと言っていた。
ルシファーの奴は俺が取引に応じれば「君をルーンロードの呪縛から解放し、君自身の闇の魔導を継承させてあげよう。」と言ってきた。
そう簡単に出来るのかと半身半疑に思うところもあるが、サタンやルシファー程の者達なら容易いのかもしれない。
もしかしたら本当にそれが出来るのかもしれないし、信用するだけの価値はあると思う。
だが、あくまでも俺が取引に応じればの話であって、世の中上手い話には必ず裏があると言うもの。
そして、その取引の内容がどう言った内容なのか、どう言う経緯で奴がいきなりこの話を持ち出したのかが気になった。
この時、俺は自分の方から話しを切り出し、取引内容や条件等を聞いてみた。
条件は2つ、1つはアルル達には2度と手を出さず、一切の危害を加えないかつ戦わないこと。
2つめは、俺が3ヶ月前にとある遺跡から入手した財宝の中に入っていた宝石「ビジョン・ブラッド」を渡すこと。
ビジョン・ブラッド自体はただの紅い宝石、マジックアイテムでもなければ特別な力が封じ込められた物でもないただの宝石。
世界に何個しかないと言われている宝石、オークションに出せば最高額で国が2つ買えるぐらいの巨額の金が得られると言う高価なシロモノ。
俺は巨額の富や財産には興味はないが、全てに決着が付くまでの間は永遠の時を生き続けるだろうから、今後の事を見越しての資金を得る為に入手した。
俺にとってはただの高価な宝石だが、コイツが何故それを欲しがるのかわからない。
金に困っているようには思えないし、コイツにとって一体何の価値があるのだろうかと思った。
その答えは元々は魔族達の国宝だったと言うこと。
どこの国にも国宝とやらはあり、国宝を持ち出せばそれだけで面倒事に巻き込まれる。
もしそれを盗めば、それだけで重い罪に問われ、最悪の場合はそれだけで死刑になる事も珍しくはない。
大昔の戦争とやらで消失したらしく、この当時あらゆる国々が破壊され、多くの者達が犠牲になったことをルシファーが語り出した。
国宝を守っていた当時のガーディアン達も全滅し、奴の実家である魔界の王宮も損傷したのだと。
戦争が終った後、犠牲になった全ての者達を転生させ、残された者達は国の復興と政治の立て直し等に追われていた。
色々なことが落ち着いた後、国宝の内の1つであるビジョン・ブラッドを探していたが見つからなったと言っていた。
あの戦争で粉々になったのか、そのどさくさに紛れて何者かに盗難されたのか、あるいはこうなることを予測して別の場所へと移したのかは依然とわかっておらず、どちらの可能性も否定は出来なかったそうだ。
そして、つい最近になってビジョン・ブラッドが無傷でまだ存在することが発覚し、それを自分達の手元に戻そうとしていたと言うこと。
でも、ビジョン・ブラッドの在り処がわかった頃には既に俺に持っていかれていたのだと言う。
こいつ自体はただの高価な宝石だが、ルシファー達魔族にとっては国宝であり、こいつがあるかないかでルシファー達魔界の王族の権力的地位や立場にも影響すると言っていた。
俺は国家や政治のことには詳しくはないが、それは魔族社会の事情であり、そう言う理由なら奴がこいつを取り返したがるのも十分納得出来る。
上手い話には裏があると言うが、俺にとっては好都合であり、実に美味しい話だった。
かくして俺はルシファーとの取引に応じ、予想よりも早く全てに決着をつけた。
ルーンロードの呪縛を打ち砕き、自分の闇の魔導を継承し、自分の闇の力を自分のものした。
もちろん、その際にルシファーに変な呪い等は何もかけられていなかった。
そう、これで全てが終り色々なことが落ち着いたのだった。
あと、ルシファーが言うに俺が変態の誤解を招いた「お前が欲しい」と言うセリフの方に関しても、ルーンロードが俺の心に蒔いた闇の種の影響であることが判明した。
ルーンロードの正体は死んだ魔導師達の思念体、これまでに何人もの肉体を乗っ取っては寄生を繰り返し続けてきたと言う話だった。
俺の「お前が欲しい、もといお前の魔力が欲しい」はいつも肝心の「の魔力が」が抜けてしまっていたことに関しても、俺がうっかりしていたワケではなかったらしい。
ルーンロードの「貴方が欲しい」と言うセリフも、それが意味するものは自分が寄生するための肉体のことであって、心に闇の種を植え付けられた者は自覚症状なしに「○○が欲しい」と言うそうだ。
と言うことは、俺が今まで変態のレッテルを貼られたのも全部あの忌まわしいルーンロードのせいだったってことかよ!?
とにかく、ルシファーとの取引でルーンロードの呪縛を断ち切り、闇の魔導を継承したことを誰よりも最初にウィッチに報告しよう。






6話へ続く




★リリア様より★
保存シリーズはまだ終りではありませんよ。
公式設定上「ビジョン・ブラッド」なんつー国宝はないです(山本版魔導にもないですよ)。
山本版魔導(非コンパイル)のオリキャラはルシファー先生の他はシュテルン博士、マサムネさん、ムラサメくんです。
あの時は息抜き兼ストレス発散に2、3、4話と一気に連投してしまいました。
連投したあの時は夏休み前だったと言うのに、色々とストレス溜まっていたせいかもしれません(あとシェウィに飢えていたせいもあるかも)。
普段の休日は家でゴロゴロしていることが多いし、連休の時とかも大抵家でゴロゴロしたりゲームやってたりとそうなのですが、あの日と言うかあの時は本当に息抜きしないと次の日の仕事に支障が出るかもしれなかったので。
しぐれさんの方こそお忙しいのにわざわざコイツのストレス発散に付き合って下さって本当に感謝しています。
あの時は勢い余って3話まとめての連投でしたが、今回は5、6の2話連投です。
5話は短いし、短かったから6話も続けて投稿します。
次回からは1話ずつの投稿(実は1話から最終話まで全部が2年以上前に書いて保存してそのまんま状態)にします。
以前も言いましたが、この物語はコンステ版魔導とセガ版新ぷよ要素等をのぞく様々な要素が含まれています。
山本魔導は非コンパイルですが挿絵は魔導&ぷよのメイン絵師の壱さんなので、壱さんファンの方は必見です。
セガ版新ぷよからのファンの方は「はめきんって何?」と言う人もいるかもしれないので一応解説しておこうかと思いますが、前回のコメで言った「はめきん」とはDS魔導の「魔導物語はちゃめちゃ期末試験」の略です。
「DS」って言うと「ニンテンドウDS」だと思うかもしれませんが、今言った「DS」はそのDSではなく「ディスクステーション」のことです。
私やしぐれさんを始めとする旧コンパイルからのファンは魔導もぷよも知ってるけど、セガ版新ぷよからのファンの方は魔導知らないだろうと思うし、仮に旧コンパイルからのファンの方でも「ぷよは知っているけど魔導って何?」な方も見ているかもしれないと思ったので。
前回に引続き今回もシェゾがイケメンと言っていただけて光栄です。


★主催者より★
今回の小説もとても読みやすかったです(*´∀`*)
細かいところの設定までしっかりと練られていて素晴らしいです!!!
私的に最後の「最初にウィッチに報告しよう」という言葉にキュンとなりましたvvv