「恋する闇の魔導師:第4話」
「本気で私のこと、からかっていたんじゃないんですの・・・?」
俺の腕の中で俺の胸に顔をうずめた状態のウィッチは、半信半疑に少し戸惑ったような声で問いかけてくる。
「お前にとってはあの時はウィッシュが世話になった・・・。
その程度だったのかもしれないけれど、俺はあれからはお前が気になるようになったんだ。
一緒に居るだけで幸せだと思うのも、自分の命に代えても守りたいと思うのも、お前の存在が俺の心の中に棲み着いて離れないから・・・。」
それが恋愛感情だと知った時、既に歯止めが利かなくなってしまったから・・・。
「俺はお前と一緒に歩む人生ならどんな人生でもいい。
お前と一緒なら例えこの世の全てを敵に回しても、例えそれで全てを失っても構わない。」
「シェゾ・・・。」
俺もウィッチも今は傍でウィッシュがそんな俺達2人の様子を見つめているのを忘れていた。
「俺が怖れていたのは、俺がこうしている間にお前が俺から離れていくことへの不安。」
こうしている間に距離が伸びていったり、他の男に取られてしまうのではないかと不安で仕方がなかった。
からかったり子供扱いすれば、きっと拗ねたり怒ったりするのはわかっていた。
「恨んでくれても構わないから、俺を追いかけて来て欲しかった。
形は何でもいいから少しでも俺の傍に居て欲しかったんだよ。」
きつくしない程度に俺は彼女を抱く腕に力を入れる。
「私は、貴方に今まで散々乙女心を弄ばれたと思ってましたのよ。」
ウィッチはポツリと本音を言い出す。
「俺ばかり振り回されているのも癪だから、少しはお前にも俺の気持ちを思い知らせてやろうと思ったんだ。」
「私が貴方を振り回していた?」
俺がぶっきらぼうな口調で言うとウィッチは意外だったと言う具合の声で口を開く。
「一歩間違えば、俺はヤンデレになっていたところだったんだぞ。」
表向きはさわやか紳士な振る舞いを見せていたけれど、内心ではヤキモキしていたことを勇気を出して俺は打ち明けた。
「俺がこれだけ素直になったんだから、お前もいい加減素直になってくれ・・・。」
一端、ウィッチを自分の腕の中から解放し、ウィッチの肩に自分の手を置く。
真剣に真っすぐに彼女の目を見て、細く切なげな声で自分の本心を口にした。
ウィッチは俺から目を逸らそうとはしなかったが、まだ少し戸惑っているのか口篭っている。
「まだ気付かないのか?
お前が俺からこんなに余裕を奪っていると言うのに・・・。」
自分らしくもないこんなにも頼りなさげな顔を見て、彼女は一端瞳を閉じた。
これまでの出来事を振り返っているような、思い出に浸っているような表情だった。
そして、瞳を開けて何かを決心したような顔で口を開く。
「振り回されていたのは、お互い様でしたのね。」
彼女の顔はホっとしたような安心した表情へと変り、口調も穏かだった。
「私の方こそシェゾが好きですわ。」
ウィッチは真っすぐに俺の目を見て笑顔でそう言った。
その表情から察して、今のその言葉に嘘偽りはないだろう。
「俺がルーンロードの呪縛を打ち砕き、自分の闇の魔導を継承する日が来るのはいつの日なのかはわからない。
もし、全てに決着が付いて色々なことが落ち着いたその時は、ずっと俺の傍に居てくれよ。」
それが何年先になるのかは自分でもわからないけれども、俺は彼女がどんな姿になっても愛せる。
自分よりも先に小母さんになっても、ヨボヨボの婆さんになっても、この気持ちは生涯ずっと変らないだろう。
俺がこの場を去ろうとしたその時―
「なら、私が君を助けてやろうか?」
どこからともなく何者かの気配を感じるのと同時に、聞き覚えのある男の声がした。
この声と気配からして一瞬サタンだと思うかもしれないが、その喋り方と口調から察してサタンの双子の弟のルシファーだろう。
「もちろん、私との取引に応じてくれたらの話だけどね。」
俺達3人の前に突然人型の黒い影が出現し、そこから黒いフードを纏った長身の男が現れた。
エメラルドグリーンの髪に血のような紅い瞳、角がない以外はサタンとまったく同じ外見と声を持つ。
普段は魔導学校の教師をしているが占い師・医師・薬剤師・弁護士etcなど様々な肩書きを持っている。
そして、ある意味サタン以上に食えない男だ。
「シェゾ君、ちょっと私と一緒に来てもらおうか?」
せっかくいいところだったのにと不機嫌な顔で俺はルシファーを睨む。
ルシファーはそんなのはお構いなしだと悪びれた様子もなく、あくまでもニッコリとした顔で俺に近付いて来る。
その様子を俺の傍で黙って見つめる2人、そのニッコリとした笑顔の裏でこの男は何かを企んでいる可能性がある。
「ここでは話にくいから、私の屋敷まで来てもらいたいんだがね。」
俺を助ける、だと・・・?
何やら胡散臭い話だと思う。
だけど、とりあえず話くらいは聞いてやることにした。
5話へ続く
★リリア様より★
5話へ続きますよ。
表向きは爽やか紳士な振る舞いを見せていたけれども、内心では色々な面でヤキモキしていたシェゾ。
他の男に先を超されることへの不安もあったけど、アルルとの関係の面での不安もあったんだよね。
変態の汚名を返上するまでの間は周囲からアルルの尻を追いかけていると誤解されていたワケでありまあすから。
それが原因でいつしかウィッチにまで信用されなくなって、ウィッチの心が自分から離れていくのではないかと言う不安も彼にはあったんです。
一方、ウィッチの方は口では「アルルさんに嫌われても知りませんわよ」と言いつつ、シェゾがアルルに対して恋愛感情などこれっぽちも持っていないことはわかってたんです。
シェゾの本心がわからない今は自分自身の本当の気持ちを認めてしまえば後戻り出来なくなってしまうから、聡明なシェゾに見透かされないようにアルルの話を持ち出すことで自分を捲し立ててたウィッチです(でも、その反面嫌われたらどうしようと思っている自分がいたり)。
今回の話で彼が勇気を出して吐いた本音にはそのことも含まれています。
そうしている内に不安が重なって、その不安が原因で心がボロボロになってしまったら、ドロドロとした醜い感情に支配されて病んでしまうのではないかと。
私的にはウィッチにヤンデレなシェゾも見てみたい気がしますが(誰か、ウィッチにヤンデレなシェゾによるヤンデレシェウィ小説書いて下さい)。
アルルを命懸けで守ったこともありましたが、それに関しても恋愛的感情は彼にはなかったんです。
ルーンロードが心に蒔いた闇の種の力が一時的に弱まったのもあり、あの時のアルルの背中にかつての自分の姿を重ねただけなんですよ。
闇を知る前の、闇の魔導を歩む以前の、修学旅行へ行く前の、夢に向かって歩いていたあの頃の自分の姿が重なって・・・。
あの時はアルルを守ればルーンロードに奪われた自分の中の何かを取り戻せるような気がして、それでイチかバチかでアルルに賭けてみることにしたのかも。
はめきんのあの時はヤキがまわったとか言ってましたが、心境的にはもしも歩む道が違っていたら友達になれたかもしれないと思ってたんでしょうね。
アルルを庇ったことがあったその件のことも気にしていて、ますます周囲から変な噂をその内たてられるのではないかと色々と気にしてたシェゾ。
告白していいところまでいったと思ったら、ここでルシファー先生登場です(笑)。
それでは。
★主催者より★
シェゾに続いて素直になったウィッチに激しく萌えましたvvv可愛いvvv
そして、絶妙なタイミングで登場したルシファー先生…今後の展開に期待ですvvv
この度は沢山のお話を一気に送って頂きまして、どうもありがとうございました!!!
とても読みやすかったです♪
続き、楽しみにしておりますヽ(*´∀`)ノ