「恋する闇の魔導師:第2話」



「厄介な女達はいなくなったし、そこに居るのはわかってる。」
「おや、気付いてましたか?」
実は俺がこの店の入口まで来ていた時点で、ウィッシュが入口のドアの所の影に隠れていたのは気配でわかっていた。
彼女はウィッチの祖母ウィッシュ、一見16歳くらいに見えるが実年齢は66歳。
「アルルがウィッチから借りていた本だ。」
何食わぬ顔でアルルがウィッチに返しておいて欲しいと言っていた本をウィッシュに手渡す。
「今日はあの娘に会わなくていいのですか?」
「俺にはまだ、やらなければならないことがある。」
何食わぬ顔でウィッシュがそう言うと、俺は真面目な顔でそう答える。
「あの娘よりもそっちの方が大事ですか?」
「そう言うワケじゃない。」
「でも、そろそろ結論を出さないとあの娘の心が貴方から離れていくのも時間の問題。」
ウィッシュは顔では笑っていても口調は真剣だった。
目では「ウィッチが他の男に取られてもいいのか」と言っている。
「今の俺ではアイツと一緒に居られない。
今、アイツの元へと行けば闇の力による災いが降り注ぐかもしれないから。」
俺は真面目な顔でそのことを口にし、闇の魔導を歩んだ理由を話した。
昔、魔導学校へ通っていたこと。
魔導学校の修学旅行でラーナの遺跡を訪れたこと。
そこで闇の剣を手にし、闇の魔導師ルーンロードと出会ったこと。
そして、そこで起った出来事が俺の闇の魔導師としての人生の始まりだった。
ウィッシュは顔色ひとつ変えず、ただ黙って俺の話を聞く。
「その後は色んな奴から魔力を吸収し続けてきた。」
「貴方の意思はどうであれ、結果的に貴方はルーンロードの後継者となった。」
「だが、俺は奴のいいなりになるつもりはない。」
「ルーンロードのためでもなく、その意思を継ぐためでもなく、自分のために闇の魔導を選んだと?」
「ああ、そうだ。」
俺はこのまま話を続ける。
魔導学校の学生だった頃はクラスメイトからも先生達からも将来を期待されていた。
でも、あの頃の自分は今の生き方のままで本当にいいのだろうかと疑問を抱いていた。
「どの道、俺には闇しかなかった。
いや、俺には闇が必要だったんだ。」
「そして、今までアルルさんの魔力を狙っていたのも、その内のひとつだと?」
「ああ。」
ルーンロードと同じやり方ではルーンロードと同じ闇になる。
奴と同じ闇ではなく、自分自身の、自分だけの闇となるには自分の力だけでは無理だと考えた。
だから、他人の魔力も必要だと思い、他人の魔力も吸収して自分のモノにすることがルーンロードの手の平から降りる為だと信じていたから。
世の中は奇麗事だけでは渡ってはいけないのは理解しているし、奇麗事で解決するのならばその方がいいと思う。
だけれども、時には奇麗事だけでは渡っていけない場合もあり、必要なればそれも已むを得ない。
「俺が初めてアルルと出会った時、じっくり魔力を吸収しようと思って自分の迷宮の地下牢に閉じ込めたことがあった。」
「その時、貴方は魔力を吸収するのに失敗した。」
「ああ、そのつもりだったが返り討ちにされた。
返り討ちされ、俺は一度死んだ・・・。」
「嘘っ!?」
今のこの驚いたような声を上げたのはウィッシュではない。
「ウィッチ・・・。」
後を振り返ると俺の愛しのお姫様が、ウィッチがいた。
年齢こそはアルルより年下だけど、端麗な容姿の美少女だ。
ウィッチは俺が死んだと言う衝撃の一言に動揺を隠せない。
「いつから、そこにいたんだ?」
「おばあちゃんとの話を、魔導学校の修学旅行のところから聞いていましたわ。」
俺が苦笑いしながら優しく質問すると、彼女は動揺しながらもそう答える。
ウィッチは一瞬言葉を失い、ただ愕然とする。
とりあえず、俺は話の続きを進めていく。
「戦いに敗れ死んだ俺は、俺の人生はこれまでかと思っていたが・・・。」
「・・・・・・。」
表情ひとつ変えないウィッシュと緊迫した様子のウィッチ。
「闇の力により、蘇生した。」
そう、それは自分自身の意思とは関係なしに、闇の力によって。
「自分の意思とは関係なしに生き返ったと言うことは、それが闇の魔導を選んだ代価なのだろう。」
「つまり、貴方はアルルさんの魔力を吸収するまでは何度でも蘇生する。
その目的を達成させる日までは死を許されない身体だと、そうおっしゃるのですか?」
俺はウィッシュの問いにただ黙って頷いた。
アルルの魔力を吸収するのは一筋縄ではいかず、人間の力でそれを実行するのは至難の技。
「俺が思うにアルルの正体は、確信はないが、輪廻外超生命体なのではないかと思う。
普段はその力は封印されていて、自分の身に危険が迫った時だけ、その力が解放される仕組みになっているのかもしれん。」
アルル本人は自身の魔力に自覚がなく、おそらくは自分が何者なのか、その正体すら知らないのだろう。
「だから俺は周囲から変態の汚名を着せられようとも、アルルの尻に惹かれているロリコン野郎と誤解されようとも、まずはアルルの魔力を吸収することだけを考えた。」
アルルの魔力を吸収してこそ、そこで始めて自分はルーンロードは違う自分自身の闇の魔導を極めたことになるのだから。
「シェゾはその日までは永遠に生き続けるんですの?」
「途中でその目的を放置すれば、その時は、俺自身が闇の力に呪い殺される。
闇の力に殺され、滅びを迎えるだろう・・・。」
闇を選んだ代価は自身が闇を受け入れれば、闇は自分の味方であり、自分を裏切ることはない。
だが、闇を選んだ者が途中で闇を裏切れば、裏切りの代償として闇に滅ぼされる。
それは自分自身の身に起こる災いなのか、自分の大切な者へ降り注ぐのか・・・。
あるいは自分だけでなく、自分とその身近な者達にまで及ぶのかどうかはわからない。
この時、ウィッチは俺が背負った道がどのようなものなのかを知った。




3話へ続く




★リリア様より★
まだ続いています。
続き(同じく2年以上も前に書いたやつ)も保存してそのまんま状態のやつです。
シェゾがイケメンとまで褒めて頂けるなんて、投稿した本人も驚きです。
なんせ、書いた本人が小説あまり書いたことないし、初心者なだけに。
この意外な展開に驚きを隠せない私ですが、好評だったみたいで良かったです。
シェアル厨はウィシェと言ってますが私はシェウィです、ウィッチがではなくシェゾがウィッチに特別な感情を抱いてるんです。
魔導&ぷよはシナリオライターによっては設定は様々ですが、前半シェウィだったのに後半ウィシェ(?)になったのは全てシェアル厨の反発によるものですもん。
中にはシェウィフラグがリセットされた作品もありますが(あの当時は会社経営の危機だったから仕方ないと言えば仕方ないんだけど)。
だから、シェアル厨のせいで後半ウィシェっぽくなっただけで、あれはウィシェじゃなくてシェウィです。
多分後半のあれはウィシェと見せかけて実はシェウィなんですよ(少しの間、シェアル厨の様子を見た上で少しずつシェウィにしていこうと言う)。
今回のはウィッチに対するシェゾの一途な想いってところです。


★主催者より★
前回に引き続き、イケメンなシェゾにきゅんきゅんです(*´∀`*)
想像しながらじっくり読ませて頂きましたvvv
このようなシリアス展開、大好きです。