「恋する闇の魔導師:最終話」



とある自然公園にて−
俺とルナは久々のデートを楽しんでいた。
この公園は有名な観光スポット、若い男女のカップルから子連れの家族まで幅広い層に人気のスポット。
この日の俺達は私服を着て、朝早くから作った弁当を持って来ていた。
俺はいつもの魔導師の服ではなく白のTシャツに青のデニム、ルナはいつもの魔女の服ではなく水色のワンピース。
今俺達が居る場所はこの公園の広場、ビニールシートを敷いてはその上に荷物を置き、2人で座って弁当を食べていた。
「これ美味いな。」
俺が今食べているのはルナが作ったシーチキンマヨのおにぎり。
「当り前ですわよ、私だってやろうと思えば出来るんですから。」
ウィッチと呼ばれていた見習い魔女だった頃、ルナは魔女としての修行もしていたけれども、苦手だった料理も克服していた。
祖母ウィッシュに教わりながら料理を練習して、今となってはあの頃が嘘だったかのように料理の腕も上達している。
ルナは少し自慢げにエッヘンと笑い、ニコニコとしながら俺の作ったBLTサンドを食べている。
俺もそれにつられて微笑ましく笑う。
2人で一緒に互いが作った弁当を食べながらの何気ない会話。
「あのー、すみません。
隣、空いてますか?」
こっちに近付いて来たのは若い男女のカップル、俺達と同じくデートでビニールシートを敷く為に空いている場所を探していたのだろう。
ここが空いているかと聞いてきたのは女の方、男の方はピクニック用の荷物を持っている。
「空いてますわよ。」
ブスとブ男のカップルだが、仲は良さそうだ。
俺達の隣でビニールシートを敷くと、この男女のカップルはさっそく弁当箱を出して、昼食。
「やっぱ、君の手料理は最高だなv」
「もう、大袈裟なんだからv」
この男女のカップルは互いに「あーん」のやり合いをしていて、そのラブラブっぷりが隣の俺達にも十分伝わってくる。
ブサイクだけれどもこの微笑ましい男女のカップルを見ていると、つい俺もやってみたい衝動に駆られる。
そう言えばルナと恋人同士になってから、まだこう言うことしてなかったし・・・。
「ルナ。」
俺は爽やかな笑顔でその名を呼ぶ。
「何ですの?」
ルナは何食わぬ顔で水筒を手に持ったままの状態で俺の方を見る。
俺は自分が作ったサンドイッチの卵サンドを片手に持ち、ルナの口元にくっつけて。
「はい、あーん♪」
「ん・・・?」
一瞬ルナはキョトンとした顔をするも、俺のペースにつられ、俺が差し出した卵サンドを一口パクリと口にした。
「こう言うのもありかもな♪」
俺が爽やかな笑みでニヤけているとルナは下を俯き、俺の胸元を見る。
「どうしたんだ?」
もしかして恥しがっているのだろうか?
まぁ、恋人同士になる前の意地を張り合っていた頃の以前の俺だったら、確かに恥しくてやらなかっただろうな。
だが、こうして恋人同士になってみると羞恥心を通り越して、むしろこう言うことをしてみたいと思うようになるものだ。
それは大人の遊びの一環と言うか、甘い時間と言う名の1つの楽しみとして。
「こっちよりも、口移しで食べさせて欲しいのか?」
俺にそう言われるとルナは一端手に持っていた水筒からフタとなっているコップの部分を取り、そこに水筒の水を入れる。
そして俺の顔の方を向いて何食わぬ顔でニッコリと笑って俺を手招きする。
「シェゾ、こっちきて。」
もしかして、俺の口元に水筒のコップを持ってきて俺にもしてくれるのか?
そう思い、期待した次の瞬間・・・。
「うぐっ・・・!?」
俺の頭の方に腕を回され、水筒のコップを口元に押し付けられ、水筒のコップの中の水を口の中に無理矢理流し込まれた。
「このバカ!好色魔!変態!
少しはムードってものを考えなさい!」
「げほ・・・げほ・・・。」
ルナは沸騰し過ぎたヤカンのように顔から湯気を出し、恥ずかしさで赤面しながら捲し立てる。
俺はむせそうになり、口元から垂れた水をポケットティシュで拭きながら「さっきの笑顔は反則だぞ」とそう思った。
まぁ、そんなところもルナらしくて可愛いんだけれども。
「何を言ってるんだ、これも恋人同士の大人の遊びだろ?」
俺は悪びれた様子もなく、あくまでも余裕の笑みで彼女をからかってみる。
「こんな人前でやらなくったって・・・。」
ぶっきらぼうに言うルナの顔は先程よりは普通の顔色に戻ってはいるが、まだ少しだけ赤い。
「ほう、ならば人前でなければいいんだな?」
「そっ、そう言う問題じゃ・・・。」
俺は爽やかな笑みを浮かべながらも、吐息まじりの口調かつ少し艶のある声で言ってみる。
再びルナの顔は赤面し、今俺が言ったセリフに対して思わず口篭る。
「じゃあ、どう言う問題なんだ?」
俺は何食わぬ顔でワザと言ってみる。
「ううっ・・・・・・。」
やはり、思った通りの反応だ。
相変わらず初々しいと言うか、ルナは恥しさで耳まで赤くなっている。
「それとも、嫌なのか?」
「べっ・・・別に、その、嫌・・・とかじゃ、なくて・・・。」
俺はルナが言いたいことを言うのを待っている。
ルナがようやく観念して、そのセリフを搾り出そうと口を開きはじめたその時・・・。
「一生やってろバカップル。」
聞き覚えのある女の声が聞こえ、そっちを振り返るとドラコが俺達の前に立っていた。
赤いチャイナ服に身を包み、ドラゴンの翼と尻尾を生やした中性的な顔立ちのハーフビーストの美少女。
ルナとは大の親友同士で元サタン様FCの会長だった格闘女、フルネームはドラコケンタウロスだが普段は「ドラコ」と呼ばれている。
でも、その口調に嫌味さはなく、ドラコはあくまでも何食わぬ顔と口調で俺達の中に割り込んでくる。
「ねぇ、ウィッチ。」
自分でそう言った瞬間、ドラコははっとなって言い直す。
「そっか、もうウィッチじゃないんだよね?」
そう、「ウィッチ」と称されるのは半人前の魔女である間だけ。
ルナとドラコは付き合いが長く、ドラコは今でも時々ウィッチと言い間違える時があった。
「あたしさ、今2人の男に言い寄られてるんだ。」
元サタン様FC会長のドラコはサタン様FC会長を辞めた後、別の男と交際していたらしい。
だけれども、色々とあって別れたと言っていた。
ドラコは苦笑いしながら、少し困ったような顔でルナに相談話を持ちかける。
「1人はチョイワル系で筋肉ムキムキのダンディなイケメン、もう1人は小柄で女の子のような顔立ちの可愛い男の子なんだけどさ。」
ドラコの話によれば美少女コンテスト界のカリスマ的存在であるドラコは男女両方から指示され、ファンも多いらしい。
その2人の男はドラコファンの1人でチョイワル系の男は腕っ節が強く、レスリングの世界チャンピョンで情に厚く皆に慕われる兄貴肌だが、頑固者で1度やると言い出したことは何がなんでもやろうとする商売敵タイプのある意味面倒臭い性格。
もう1人の男は身長は低く女顔だが性格は男の中の男、自身のコンプレックスに屈しない芯の強さを持ち、文武両道の達人で性格は特に問題はないが、変った趣味の持ち主でドラコ的には色々な意味でついていけないらしい。
「んでさ、ちょっと大至急アンタのシェゾ貸してくんない?」
詳しい事情は後で説明すると言い、俺が有無を言う前に素早くドラコは俺の手を引っ張る。
「おい、ちょっと待てって!」
何やらドラコは急いでいる様子で、ルナは暗黙の指示で「ドラコさんを助けてあげて」と言う。
まぁ、ルナの親友だから仕方がない。
変態の汚名を返上してから随分と時間は経ってはいるものの、このタイミングで彼女以外の女と一緒に居れば、再び変な噂立てられるんじゃないかと今でも不安になる時がある。
「大丈夫、何かあったらあたしがフォローするから。」
俺の心境を察したドラコは俺の立場を悪くするような真似はしないから「とにかく助けてくれ」と目で訴え、俺の手を取りながらドラゴンの翼で空を飛び出す。
空を飛ぶのであればレビテーションの魔法を使っているところだが、イキナリ手を掴まれてこの体勢では、この状態で呪文の詠唱は無理そうなので諦める。
俺は落ちないようにドラコの尻尾に精一杯しがみつきながら後を見て、ルナの姿を確認する。
「やはり、俺はお前には敵わないみたいだな。」
穏かな顔でそう言い、俺は遠くなっていくルナの姿を見えなくなるまでそのまま見下ろす。
何だかんだ言いつつも結局俺はいつもお前に振り回され、お前に振り回されるのを嫌だと思わない自分がいる。
「これが惚れた者の弱みなのか?」
俺は自分自身の心にそう問いかけてみる。
ドラコはこのまま空を飛び続け、アルルの故郷である魔導村を通過する。
「また今度、そっちに行くからな。」
魔導村を通り過ぎると俺は今は亡きアルルに向かって、また今度自分とルナと2人で墓参りに行くと笑顔でそう告げる。
アルルの死から数ヶ月が経過した今でも人々の記憶の中には、今でもその存在は心の中で生き続け、風化することはないだろう。
「終ったらスグにルナんとこに戻るからな。」
「はいはい。」
俺はドラコの後からその尻尾に捕まっている状態なので、ドラコが今どんな顔をしているのかはわからないが、この口調から察して明らかにニヤけている様子は窺えた。
この日の青空は不思議と普段よりも眩しく輝いて見えた。





Fin





★リリア様より★
これにて完結です。
何だかんだ言いつつもシェゾは結局ウィッチには勝てません。
シェゾの白いシャツはブラウスでもTシャツでもポロシャツでもご想像にお任せします。
想像じゃなくて妄想にお任せします(黙れ変態)。
ドラコは魔導&ぷよの女キャラではウィッチの次に好きなキャラだったりします(笑)。
この物語ではシェゾの中でアルルの存在は救世主であり、自分とウィッチを結び付けてくれた愛のキューピットとして永遠に心の中で生き続けます。
アルルの死に関する真相は番外編の「魔導少女の憂鬱」にて明らかに。
次回はアルル視点のシェウィ小説「魔導少女の憂鬱」、これは「お品書き」でも言った通りアルル→シェゾ×ウィッチです。
報われないアルルによるアルルバッドEDなお話。


★主催者より★
アップするのが大変遅くなりまして申し訳ありません。
シェゾとウィッチのラブラブオーラにやられました!!!(@^▽^@)
そしてドラコ、見事においしいところを持っていきましたね!!!
ウィッチとドラコの関係も仲が良いのがひしひしと伝わってきていいなぁと思いました><
この度は長編小説の投稿、どうもありがとうございました!!!