「恋する闇の魔導師:第10話」



翌日−
魔導学校に悲しいお知らせが届いた。
その内容は死火山の谷の崖の下でアルルとカーバンクルが変わり果てた姿で発見されたと言うこと。
死火山の谷は天然の毒煙に覆われ生物が住めない場所、さらに魔力を封じる特殊な力も働いていて魔法は一切使えない。
一般の人は危険だから当然この地に踏み入れようとはしないし、ここに来る奴と言えば薬剤師(魔法薬の薬剤師も含む)や薬品メーカーの社員くらいだ。
その地は薬の材料となる薬草や花などの宝庫でもあり、そう言う関係の仕事をしている者は防護服とガスマスクを装備して材料の採取に訪れる。
それ目的でなければ自殺志願者、自殺志願者達の間では有名な自殺スポットであり、別名「自殺の谷」とも呼ばれている。
事故か自殺か他殺かもわからない怪死を遂げたアルルの遺体、カーバンクルの方は命の源である額の紅い宝石ルベルクラクが粉々に砕けている状態だった。
遺体発見当時、アルルを見かけたと言う薬の材料採取に来ていた薬品メーカーの社員の証言によると、防護服とガスマスクを身に付けていた点からして自殺志願者ではないのだろうと判断。
魔導師だと言っていたから魔法薬の材料の採取に来たのだろうと思い、特に不自然さや気になることは何も感じなかったそうだ。
アルルとカーバンクルの遺体はアルルの故郷である魔導村に搬送され、魔導村にて葬式が行われた。
この知らせは俺とウィッチの耳にも入り、俺達も葬儀に参加した。
アルルの母親カリンは先月アルルの祖母である義母マリアを寿命で失くしたばかりで、突然の娘の死に泣き崩れていた。
ルルー達も魔導学校の学生や教員達はもちろん、村人達までもが突然のアルルの死に驚きを隠せぬ状態で、誰もがアルルの死を受け入れられずにいた。
サタンやルシファーも早急に原因の調査と解明に当たったものの、不信人物の目撃情報どころか有力な手係りも証拠も何一つ掴めていない。
あのアルルに限って自殺などありえないし、自殺の線はまずは低いだろう。
魔導村の村人達は悲しみに暮れるカリンの心のケアに当たり、カリンを自殺させないように心療科の病院に入院させていた。
俺もあのアルルがそう簡単にくたばるなんて信じがたいが、事実は事実であり、これは現実だ。
変態の汚名を苦労して返上し、色々なことが落ち着いた後はアルル達とは出来るだけ関わないようにしていた。
ターゲットから外したら外したで親しげに声をかけてくるアルルを鬱陶しいと思っていた。
コイツらと関わるとどーせロクなことがないから、アルルのことは恋愛の邪魔だと思っていたハズなのに・・・。
それなのに、胸にポカンと穴が開いたようなこの虚しさは一体何故だろう?

葬儀から数日後−
今日の天気は晴れ、青空が広がり太陽が眩しいポカポカとした陽気だった。                                                                                                 俺は魔導村の墓地の中にあるアルルとカーバンクルの墓の前で瞳を閉じ、これまでのことを振り返ってみる。
あの頃の俺はアルルの魔力を狙い、アルルに戦いを挑み、何度もアルルに敗れ続けてきた。
アルルの魔力を狙い続けてきたからウィッチとの出会いがあって、ウィッチと結ばれて、今の俺がある。
サタンとルシファー兄弟との出会いもアルルがきっかけであって、ルシファーとの取引がなければ俺は一生ルーンロードの呪縛から解放されなかった。
アルルのことは決して嫌いではなく、最初の頃よりは好きになり、歩むべき道が違っていたら友達になれたかもしれないと思っているくらいだった。
失ってはじめてその存在の大きさに気付かされ、こんなことならもっと早くにアルルの厚意を受入れて友達になってやれば良かったなと、俺は今更ながら後悔していた。
「今から思えばお前は俺の救世主だったのかもしれんな。」
俺はアルルの墓に花を供えた。
その花はアルルの大好きだったひまわりの花。
ハルマゲ戦の時は色々とあってアルルとルルーとラグナスの4人で共に旅をしたこともあった。
この時は厄介な女2人のペースにハメられオチ担当(?)をするハメとなったし、闇の魔導師としてクールに振舞ってみせてもアルルと一緒だといつも調子を狂わされる。
今から思えば俺がアルル相手に調子を狂わされていたのは、アルルに昔の自分の姿を重ねていたからなのかもしれない。
魔導学校に通っていた頃の、闇を知る前の、闇の魔導を歩む前の、まだ普通の人生を送っていた修学旅行へ行く前の、かつての自分の姿を・・・。
あの頃の俺は両親の元でごく普通に暮らし、友達も沢山いて、クラスメイトの男友達と一緒に馬鹿やってはしゃいでいた。
あの頃の俺のは元は魔法やマジックアイテムは好きだったけれど、ごく普通の平穏な人生を送り、自分の思うがままの自由な人生を歩むのが望みだった。
俺は自分が闇の魔導を選んだことは今でも後悔していないつもりだが、本当のところはどうなのかはわからない。
闇の力が必要ないのならば闇の力に頼る理由はないし、闇の魔導を歩まない方がいいと思う。
でも、もしもあの時俺が光を選んでいたのなら、俺は大人達の都合のいい玩具にされていたハズだ。
いつしか勇者と呼ばれるようになり、自分が望まぬまま勇者として崇められ、自分の好きなことも出来ないまま運命に翻弄されるだけの人生を送っていただろう。
あの当時、先生達に将来を期待されていた俺は「シェゾ君は優秀な子だし、もしかしたら成長次第では勇者になれるかもな」と言われていたから。
だから、俺には闇しかなかった・・・。
アルルと幾度もの戦いを繰り返し、幾度も敗れ、アルルと接触していく内に俺は自分でも気付かぬ間に自分の失っていたものを少しずつ取り戻していたのかもしれない。
闇の魔導を歩みながらも失ったものを取り戻し、それをきっかけに自分はもしかしたらルーンロードの言いなりになっていなかったつもりで、実はルーンロードの思い通りになっているのではないかと徐々に気付きはじめたワケだし。
「お前は俺の救世主であり、俺と彼女を結び付けてくれた愛のキューピットだ。」
今は亡きその存在に心から感謝し、笑顔でアルルの眠る墓を見つめる。
アルル達の前では一度も見せることはなかった、彼女にだけしか見せることのなかった俺の本当の素顔を今ここで見せた。
「さらばだ、アルル・ナジャよ・・・。」
俺はアルルとカーバンクルの冥福を祈り、魔導村の墓地を、アルルとカーバンクルの墓を後にした。

アルルの死から数ヶ月後−
「おいルナ。」
「どうかしましたの?」
「ウィッシュを見かけなかったか?」
「おばあちゃんなら、今日はいつもより早くに自分の部屋で眠りましたわ。」
「そうか。」
俺は現在ルナの家で同居し、ルナとその祖母のウィッシュと3人で暮らしていた。
1人前の魔女として認められ「ルナ」と名付けられた俺のお姫様を「ウィッチ」と呼ぶことはもうないだろう。
俺の愛しいウィッチは、もとい俺のルナは1人前になった今でもウィッシュの元を離れず、これまで通りの生活を送っている。
祖母想いの彼女は少しでも長くウィッシュの傍にいてやりたいと思い、しばらくの間はこのままの生活を送ることを選んだ。
もうそれほど長くはないウィッシュの世話をし、ウィッシュが生きている間は店を営業しながらウィッシュの介護に専念したルナ。
俺はそんなルナを支える為にしばらくの間はこの家に同居し、2人で一緒にウィッシュの介護をしながら平穏な生活を送っていた。
まるで自分の婆さんが出来たような気がする。
いや、ルナは俺の嫁だし、こいつがルナの祖母である以上は俺の親戚だ。
彼女と共に食事をして、彼女と共に笑ったり泣いたり怒ったりして、彼女と共に日々を過して、彼女と一緒に寝て・・・。
あの初H以来、俺はルナと肉体関係まで持つようになっていた。
今後、俺がルルー達とどのように関わっていくのかは先はわからないけれども、色々な意味でいい方向へと進んでいるのは確かだった。
俺がルルー達と距離を置こうとしても、ルナがルルー達と付かず離れずの関係である以上はアイツらとの交流は避けられそうにもない。
だが、俺はルナと共に歩む人生ならば暗い闇の底であっても、明るい太陽の下でもどちらでも構わない。
これから先、例えどんなに辛く苦しいことがあったとしてもルナと一緒ならそれだけで幸せだから。
今のルナと歩む人生のこの瞬間の1つ1つを大切にしていこうと、この絆をこの手で守ろうと俺は決意した。





11話へ続く



★リリア様より★
公式では「死火山の谷」なんて場所は存在しません(山本版魔導にもありませんよ)。
ウィッチの名前は「ルナ」にしてみましたが、いかがでしたでしょうか?
個人的にウィッチに名前を付けるとしたら宇宙か星系の名前がいいかなぁと思ってルナにしました。
ルナと言ってもス○イヤーズの主人公リナの姉、リナまた(リナもまたいで通る)ねーちゃんではないですよ。
織田版真・魔導ではアルルの故郷の村は「マウスの村」と言う名前でしたが、シナリオライターによって設定は様々なので「はなまる(SFC版魔導物語はなまる大幼稚園児)」設定の「魔導村」にしてみました。
私が書いたこの小説は山本版魔導の要素も含んでいるので、山本魔導にはデビルくんも登場していたから、デビルくんと言えば「はなまる」ですからね。
コンパイルでは幼少期のデビルくんしか出ていませんが、山本魔導では16歳になったデビルくんが登場してます。


★主催者より★
新展開ですね。驚きましたが、オリジナリティ溢れていて読み応えがありました!!!
「ルナ」という名前、素敵だと思います(*´∀`*)ウィッチらしいですね♪