こちらの作品は「恋する闇の魔導師」の番外編にあたりますので、
先に「恋する闇の魔導師」を読んで頂くことをオススメ致します。







「魔導少女の憂鬱:第2話」



ボクはウィッチから借りた本をシェゾに手渡しカーくんと一緒に、一端この場を去った。
このまま魔導学校の寮に戻ろうかと思ったけれど、やっぱしシェゾの様子が気になって仕方がない。
結局ボクはもう1度ウィッチの店の前まで足を運んだ。
すると、店の前にはシェゾとボクと同い年くらいの魔女の服を着たウィッチそっくりの女の子が居た。
2人に気付かれないように距離をとりながら見つからないように木の影に隠れて、2人の会話を聞くことにした。
この人はウィッチのおばあちゃんのウィッシュさん、外見は少女のようだけれども実年齢は66歳。
サタンやルシファー先生は魔族だけれどもこの人は人間、魔力で若さを保っているらしい。
そして、シェゾは自分の過去をウィッシュさんに打ち明けはじめた。
耳を澄まして2人の会話を良く聞いていた。
へぇー、シェゾって一応先輩だったんだ。
「ああ、そのつもりだったが返り討ちにされた。
返り討ちにされ、俺は一度死んだ・・・。」
確かに初めてシェゾと出会った時、ボクはシェゾの迷宮の地下牢に閉じ込められて、拉致監禁されたこともあったよね。
見張りの魔物達を騙して鍵を奪って脱走を図った際に、ボクはシェゾと戦った。
あの時のシェゾは本気で怖かったよ〜。
だって、首だけになっても襲ってくるんだもん。
ボクがシェゾと初めて出会った時のことを思い出していた、その時。
「嘘っ!?」
店の裏口から出て来たウィッチがシェゾの後に現れ驚きの声を上げた。
「いつから、そこにいたんだ?」
「おばあちゃんとの話を、魔導学校の修学旅行のところから聞いていましたわ。」
シェゾが苦笑いしながら優しく質問したら、ウィッチは動揺しながらもそう答えた。
驚愕の一言にただ愕然とし、一瞬言葉を失ったウィッチにシェゾは話の続きを再開させる。
しばらくの間ボクはこの状態でここを動かず、黙って3人の話をただ聞いていた。
この時、ボクは自分の想像を絶するようなシェゾの壮絶な過去を知った。
そして、シェゾが背負ってきた運命の重さを・・・。
そうだったんだ・・・。
シェゾはシェゾでちゃんと色々と考えていたんだね。
ただ単に意地を張っているだけのツンデレじゃなくて、本当はもっと早くにウィッチの元へと羽ばたきたかったんだ。
シェゾのウィッチに対する思いを知ったのと同時に、ボクの胸はチクリと痛んだ。
実のところはボクもキキちゃんの後輩のアルル(同姓同名)と同じで、ボクも本当はキミのことが好きだったから・・・。
最初の頃は変態だと誤解していたけれども、シェゾのことを知っていく一方でボクはシェゾが変態ではないことを知った。
それと同時に思っていた程悪い人じゃないことを知って、あの時のシェゾに命懸けで守ってもらった時だった。
あの出来事以降、ボクはシェゾのことが気になり出したんだけれども、それはボクだけの秘密にしておいた。
だってルルー達の耳に入ったら色々と面倒なことになると思ったし、みんな断固として妨害しようとしていただろうから。
シェゾにとっては自分の目標の為の人助け、シェゾにとってボクはただのターゲット、シェゾはボクのことを何とも思っていないことくらいわかっていた。
ボクは美人でも不細工でもない普通の女の子だけれども、シェゾからはまったく女の子だと思われていなかった。
男の子同然の扱い、それもあるけれどもシェゾはむしろウィッチ以外眼中にないって感じだった。
ボクは地味だけれどもウィッチは金髪美少女、普段は小悪魔的だけれども本当はおばあちゃん想いの優しくて可愛い女の子なんだ。
ボクがもし男の子に生まれていたら絶対好きになっていたと思うし、シェゾが彼女に夢中なのもわかる気がする。
シェゾが変態じゃないと知りつつも、聞く耳持たずでシェゾをしばらくの間ずっと変態扱いしてきたのは、そうすることで自分を捲し立てる為。
でないと聡明なキミのことだからボクの心を見透かされちゃいそうだし、仮にあのタイミングで好きだと言ってもきっとキミは冗談だと思って信じないと思ったから。
ボクがシェゾのターゲットである内はシェゾはボクを鬼ごっこのように追いかけてくれる。
でも、ボクがシェゾのターゲットでなくなったらシェゾにとってボクは用済み。
ボクがシェゾにとってターゲットである内に、ボクは鬼ごっこの鬼となってシェゾの気を少しでも引き付けながら、その観にシェゾとの距離を縮めようとしたんだけれども、全てが空回りに終った。
ボクが魔力を持っている限り、ボクが捕まらない限り、シェゾはずっとボクを追いかけてきてくれると思っていたのに・・・。
それなのに、シェゾはボクをターゲットからいきなり外した。
そう言う理由なら仕方がないし、ボクがターゲットでなくなったのなら、せめてボクと友達になって欲しかった。
シェゾと友達になればシェゾとの距離は今度こそ縮まると思ったから、ボクはシェゾと友達になりたくてシェゾに声をかけたの。
本当はシェゾとウィッチの間に入れないことぐらいボクにもわかっていたんだ。
でも、それでもボクはまだチャンスはあると自分にそう言い聞かせてシェゾと接触しようとしたの。
さっきのあれは、シェゾをせかしたのは早くウィッチに告白して欲しかったからなんだ。
でないとボク、キミのことを吹っ切れそうにもなかったから・・・。
今の話を聞いて意地悪しちゃったかなと後でちょっぴり反省したけど、これでようやくボクもキミのことを吹っ切れそうだよ。
「ウィッチと幸せにね・・・。」
シェゾがウィッチに告白して、2人が本当の恋人同士になる瞬間をボクは影で見届け、小声でそう呟いた。
「さようならシェゾ・・・。」
ルシファー先生が登場すると、ボクは先生に気付かれる前にそっとその場を去った。
そして魔導学校の寮に戻り、夜の寮の就寝時間になると、ボクは自分の部屋でベッドの中に入ってただ1人で泣いていた。
誰にも気付かれないように、誰もいない時間と場所でただ1人泣いていた。
失恋なんて慣れているハズなのに、フラれるのはルシファー先生とラグナスの時に慣れたハズだったのに、どうして2人の時以上に悲しくて苦しいのかはボクにもわからなかった。





3話へ続く





コメント
1話に引続き今回の2話もシェゾ視点の本編の部分にあたります。
これも読み比べてみるとその通り、本編の2話〜4話の部分です。
普段のシェゾは背後に誰かがいれば相手の気配に気付くんですが、この時は考え事とかをしていた為に気付かなかったんです。
これはシェゾ視点の本編をまだ見ていない人からすれば、ある意味ネタバレかも(苦笑)。
実はシェゾとウィッチ達との会話はこの時、既にアルルに見られていました(んでもって最初から最後まで聞かれてましたよ)。


★主催者より★
アルル視点からのストーリー、とても新鮮でした。
この後の展開、楽しみです。