こちらの作品は「恋する闇の魔導師」の番外編にあたりますので、
先に「恋する闇の魔導師」を読んで頂くことをオススメ致します。
「魔導少女の憂鬱」
ボクの名前はアルル、アルル・ナジャ。
1人前の魔導師を目指して修行中の魔導師の卵、現在は魔導学校で生活を送っています。
ボクと一緒にいる紅いルベルクラクと言う宝石を額に付けた黄色のコはカーバンクル、通称カーくんって言うんだ。
魔導学校ではサタンに恋する格闘お姉さんルルーとクラスメイトのムラサメくん達と一緒に勉強し、魔導学校の学園寮で暮らしてるんだ。
ルルーのお供で牛頭のミノタウロスはルルーの実家のお屋敷でお留守番、魔導幼稚園時代の友達のカミュ先輩とラーラもボクと同じクラスだよ。
ボク達のクラスの担任のルシファー先生はサタンの双子の弟さんで真面目な人だけれども、ある意味サタン以上に変り者なんだ。
同じく魔導学校の教員のシュテルン博士はサタン達と同じく上級魔族、魔導師であり格闘家であり学者でもある人。
ルシファー先生の友達で格闘機械魔導師の異名を持ち、ルルーからは師匠と呼ばれている凄い人なんだ。
ボクに婚姻を迫るサタンはカーくんの元の飼い主、この魔導学校の校長でもある。
ああ見えて結構物知りだし、色々な魔法を使えるけれど変り者、ついでにカーくんのことが大好きでカーくん命の生きた化石。
そしてボク達があの時出会い、別れを交わした友達の考古学者デウスとは思わぬ形で再会することに。
ボク達と別れたあの後、デウスは魔導学校の教師に就職して、歴史担当の先生としてボク達の前に姿を現した。
初めて出会ったばかりの最初の頃はサタンもルルーもミノタウロスもみんな敵として現れ、戦ったこともあったよね。
だけど、気付けばいつの間にか絆が芽生えて昨日の敵は明日の友達になっていた。
よく「昨日の敵は明日の友達」と言う言葉は聞くけれども、まさしくその通りだよね?
もちろん誰とでもそうなれるとは限らないけれども、ボクはそう信じてるんだ。
ボクが旅の途中で1番最初に出会ったシェゾとだって、きっと・・・。
この日、ボクとカーくんはウィッチにこの間借りた本を返しにウィッチの店の入口の前に来ていた。
ウィッチから借りた本を両手に抱えながら歩くと、そこにはボクのよく知っている人の後姿が見えた。
「あっ、シェゾじゃない。」
ボクは特に用事があるワケじゃないけれども、さりげなくシェゾに声をかけた。
シェゾは黒い服を着た銀髪の闇の魔導師のお兄さん、かつてはボクの魔力を狙い何度も戦いを繰り広げてきた。
最初の頃は変態だと思い込んで色々と誤解していたけれども、つい最近になってごく普通の真面目な人だとわかってきたんだ。
「用がないなら、俺に話をかけるな。」
シェゾは相変わらず普段通りの冷たい態度。
もしかして今まで誤解して、散々変態扱してきたことをまだ怒ってるのかな?
ボクはシェゾと何かを話したくて適当な言葉を言ってみる。
「キミは相変わらず無愛想だね。」
せっかく美形なのに根暗な性格は勿体無いとボクはそう思う。
「お前は相変わらずおめでたい奴だな。」
シェゾは氷のような冷たい顔で冷やかに言い放つ。
「おめでたいって?」
一瞬、ボクはその言葉の意味がわからずキョトンとしながらシェゾの顔を見る。
「忘れたワケではないだろう?
お前は今まで散々俺に魔力を狙われ続けてきた身だ。
そう簡単に気を許して、いつか剣のザビにされるかもしれないぜ?」
皮肉な笑みを浮かべ闇の魔導師としての本性を現したシェゾは、もしかしたら本当に剣を抜くかもしれなそうなオーラが漂っている。
でも、シェゾは敵ではない人には危害を加えたりするような人じゃないから大丈夫だと思う。
確かにシェゾは目的の為なら手段を問わないハードでコワ〜イお兄さんだけど・・・。
「別に今までのことはもう気にしてないし。」
そう、今のボクとシェゾはもう敵同士じゃないから戦う必要なんてない。
これまでボクは散々シェゾに魔力を狙われ続けてきたけれども、シェゾは突然それをやめて、これまで吸収してきた魔力は元の持ち主へと返した。
その理由は教科書にも載っている闇の魔導師ルーンロードと何らかの因縁があったらしく、ルーンロードの思惑通りになっていたと言うのが気に入らなかったかららしい。
今のシェゾは全てをリセットしてイチから人生をやり直している様子なのはボクも知っている。
だからボクはそんなシェゾに笑顔で接してみる。
「昨日の敵は明日の友達って言うし、最初はサタンもルルーもミノタウロスもみんなそうだったから・・・。」
今のボクの言葉はボクの正直な気持ちであって、ボクはシェゾとも友達になりたいと思っていた。
もちろん、ボクがシェゾのターゲットではなくなったからと言って、今後シェゾがボク達にとって良い風となるか悪い風となるかはわからないんだけども。
「俺はまだお前らの味方になったワケじゃない。」
相変わらずシェゾの態度は冷たいまま。
もしかして、ボクとシェゾって相性悪いのかな?
そう思いつつ、今度はウィッチの話を持ち出してみる。
「でも、ウィッチとは仲良しなんでしょ?」
「俺とアイツはワケありで色々と取引をして、今しばらくは一緒にいなければならないだけだ。」
その質問に対して、シェゾはあくまでも普段通りにクールに振舞っている。
「そんなこと言っちゃってさ、ウィッチのこと好きなら好きって素直に言っちゃえばいいのに。」
最近シェゾは頻繁にウィッチの店に来ているし、誰もいない2人だけの時は本当にいい雰囲気だった。
ボクから見たその時の2人は年の離れた兄妹のようにも見えるし、年の離れたカップルのようにもどっちにも見える。
ボクはニコニコしながらイラズラっ子のような顔をして、シェゾをからかってみる。
「ウィッチと2人だけの時はあんな顔してたし、ボクが気付いていないとでも思った?」
そしてトドメにこう言うと、シェゾの頬が少し赤くなったところから察して、やっぱし図星だったみたい。
言われて見ればシェゾはこの時、普段ボク達には絶対に見せることのない顔をウィッチには見せていた。
ボク達の知らない間に2人の間に何があったのかは知らないけれども、この時のシェゾは恋する男の顔をしていたような気がする。
「言う気がないんなら、ボクが代わりにウィッチにこく・・・。」
「だぁーっ!余計なお世話だ!!」
ちなみに今ボクは「言う気がないんなら、ボクが代わりにウィッチに告白してきてあげようか♪」と言おうとしたのだけれども、それよりも先にシェゾの手の方が早かった。
シェゾが沸騰し過ぎたヤカンのように赤面しながらボクの胸座を掴んできたその時・・・。
「今日中に告白しないんなら、メインの町の美少女コンテストのことウィッチにバラすわよ?」
そう意地悪そうな口調でちょっぴり意地悪なセリフを言い放ち、ボク達の前に現れたのはサタンに恋する格闘お姉さんルルーだった。
年はボクと2つしか違わないのに大人っぽくて美人だし、身長も高くてナイスバディで女の子としてはちょっと羨ましいと思う。
「アンタがそんなんじゃ、アンタにフラれたどっかの誰かさんが可哀想でしょ?」
ルルーはぶっきらぼうで口は悪いし、いつも憎まれ口を叩いているけれども根は優しいお姉さんタイプなのは知っている。
「ルシファー先生の屋敷のメイドに告白された時、アンタは好きな女の子がいるから付き合えないって言って断ったわよね?」
シェゾがボクの胸座を掴んでいた手を離すと、ルルーは引続きシェゾに何かを言いたそうにしていた。
さっきまで赤面していた顔を元の顔に戻してシェゾは冷静に話を切り出す。
「先に言っておくが俺は奴を口説くどころか、ナンパも何もしていない。」
今言ったルシファー先生の屋敷のメイドさんはボクの友達のキキーモラちゃん(ボクはキキちゃんと呼んでるんだけど)のことじゃない。
キキちゃんの後輩にあたる新人の若いメイドさんで、名前はボクと同じアルル・ナジャことアルル。
アルル(ボクと同姓同名)はシェゾのことをルシファー先生やキキちゃんの友達だと思い、仲良くなろうとしていたんだよね。
シェゾは彼女のことは適当に挨拶しただけで特に交流を交わしていたワケじゃないんだけれども、彼女の方はシェゾを異性として見るようになっていたから。
「そんなのとっくに知ってるわよ。
何でアンタなんかを好きになったのかは理解出来ないけど、あの娘はああ見えて外見で男を選ぶようなタイプじゃないし。
私だって、サタン様が外見だけの中身のない男だったら恋なんかしていないもの。」
そう言うとルルーは顔色から察してサタンと初めて出会った時のことを思い出し、このままだとミノタウロスが言っていた「ああ、サタン様モードv」に突入しちゃいそう。
ルルーはこのモードに突入すると人の話なんてまったく耳に入らないし、それはシェゾでも知っている。
「お前の方こそ、人のことを言える立場ではないだろう?
ミノタウロスがお前のことをどんな思いで見ていると思っているんだ?」
「ミノには悪いと思ってるわよ。」
元々、仲がいいのか悪いのかわからないこの2人は口を開けば喧嘩ばかりしていた。
シェゾはルルーのことを黙らせたかったのか哀れみを込めた口調で話し、ルルーにとってイタイところを容赦なく突く。
それを言われてしまえばルルーだって何も言えなくなるよね。
最初の頃は気付いていなかったミノタウロスの秘めた胸の内をつい最近になってルルーは知ってしまったから・・・。
最もミノタウロスはその本心はルルーに告げていないんだけども。
「サタン様はアルルを妃候補から除名したけれど、私はまだサタン様に相応しい女になれたワケじゃないから。」
魔法があまり使えないルルーにとってはサタンのお嫁さんになるのは狭き門、だから魔法が使えるボクをライバル視してるんだと思う。
最もボクは大した魔法は使えないんだけど、サタンがかつてボクを妃にしようとしていた理由と真意は今だ謎に包まれている。
そんなサタンが突然ボクを妃候補から外した理由は、ボクがカーくんのお嫁さんだと解釈したかららしい。
「私はそうだけど、アンタはその気になればいつだって告白出来るんでしょ?」
ルルーは複雑な表情で付け加えて小声で「羨ましいわよ」とボソリと呟いた。
「あのなぁ、俺だって・・・。」
シェゾが何かを言おうとしたその時、買い物籠を持ったミノタウロスが現れ、ボク達の居る方に近付いて来る。
「ルルー様!」
「どうしたのよミノ?」
おそらく買い物に行く途中だったミノタウロスはルルーに近付き事情を説明し始める。
「ルルー様、大至急屋敷へ戻っていただけないでしょうか?」
「そう、わかったわ。
じゃあ、私は急用が出来たから帰るわね。」
話によるとルルーのお父さんが数年ぶりに仕事から帰宅してくるらしい。
ルルーのお父さんは多忙でほとんど家は留守にしていて、今回は仕事関係の人達も一緒なんだとか。
ルルーはすぐにこの場を去り、ミノタウロスも再び買い物へと向かっていき、シェゾと2人だけになった。
「ねぇ、シェゾ。」
「なんだアルル?」
そうそう、うっかり本来の目的を忘れていた。
「ついでだからさ、この本ウィッチに返しておいてくれるかな?」
ボクはウィッチから借りたその本をシェゾに渡した。
「ああ、返しておいてやるから、さっさとどこかへ行ってくれ。」
するとシェゾは「しっ、しっ、あっちいけ」と言う具合にボクを邪魔者扱いして追い払おうとする。
ちぇ、シェゾってば一体ボクを何だと思ってるのと思いながらも、ボクはとりあえずこの場を去った。
2話へ続く
コメント
実はこの話は暗めだったりします。
これはまだあくまでも1話目ですから、この時点では明るくても話が進むにつれ徐々に暗くなっていきます。
この小説は「お品書き」でも言いましたがアルル→シェゾ×ウィッチです。
この物語は本編の「恋する闇の魔導師」の番外編であり、第1話の部分からのスタートとなります。
シェゾ視点の本編の第1話と読み比べてみればわかります(別に読み比べでも比べなくてもどちらでも構いませんけど)。
★主催者より★
前作に引き続き、とても読み易い文章で情景が頭の中に浮かんできました!!!
こちらは暗めのお話ということで、これからどんな展開になっていくのかとても気になります><
続きも楽しみにしております(●´ω`●)