[ふたりのストロングラフィ]





1.紙コップを二つ用意して、底の真ん中に小さな穴を開けます。
「力入れすぎて、コップを潰しちゃわないようにね」

2.それぞれのコップの底を一本の長い糸で繋ぎます。
「糸を通した後はコップの内側にテープで貼るんだよ」

3.ふたりでそれぞれコップを持って遊びます。
「糸をぴんと張って使うんだよ」


 と、いうことで、
「はい、できた」
「キャッホーイ! よくやったネ新八。さすがダメガネアルナ」
 できあがったばかりの糸電話を手にしてはしゃぐ神楽ちゃんを前に、僕は溜め息をついた。
「……それ褒めてないよね。ていうか何だろこのデジャブ。何日目だっけ。僕何個作らされるの、糸電話」
 ぶつぶつ呟いてみるけれど神楽ちゃんは全てスルーでコップを覗き込んだり糸を軽く引っ張ってテープの貼り具合なんかを確かめたりしている。
 実際、何日目で何個目だろうか。たぶん片手で足りる程度だとは思うけど。
 最初は「懐かしいね」なんて微笑ましく作っていた僕でも、こうも毎日では少々飽きてきた。簡単だから自分で作りなよと言っても、「コップが潰れちゃうアル」だの「こんなのも作れないのかよだからお前は新一じゃなくて(以下略)」だの散々な言葉を返され、僕は毎日毎日この懐かしさ溢れる子どものおもちゃを作っている。
 もうすっかり、万事屋に出勤して一番最初の仕事となってしまった。

「とにかく、壊しちゃ駄目だよ。紙コップもう残り少ないんだからね」
 大体、なんで翌日には壊れているのか。突っ込んで訊いてみたいけれど、きっと欲しい回答は得られないに決まっている。
 嘘も隠し事も笑っちゃうくらい下手な娘だ。それに、何となく訊きにくいと感じてしまうのは、背後に銀色の天パがちらついているからか。
 だから少しだけ、方向を変えてみてもいいだろう。
 大体さー、と僕は切り出してみる。あくまでも「さりげなさ」を装って。
「誰と使ってんの、これ。子どもたちの間で流行ってんの?」
「えっ……」
 頬が桃色に染まったのはほんの一瞬で、僕は心の中でこっそり頷いた。答えとしては、それで充分だったからだ。
 ウンウンと神楽ちゃんが激しく首を上下させ始めた。
「そっ、そうアル! こんなもんに夢中になって、全くガキで困るネ! ──じゃ、私出かけるネ。早速ガキ共の相手してやってくるアルッ」
 その場に飛び上がるようにした神楽ちゃんが玄関へと駆け出していって、彼女の後を定春が追いかけていく。数秒押入れに寄り道したのが何故かも、僕にはお見通しだ。
「陽射し強いからね、気をつけてねー」
「ハイヨー! 定春行くアル!」
 がしゃん、と力強い音をさせて玄関の引き戸が閉まった。そんなんだから紙コップ潰しちゃうんだ、は今更だし、それが神楽ちゃんらしさなんだと結論づけておく。

「やれやれ」
 僕しかいない万事屋に僕の独り言がぽつり。
 製作時間数分の糸電話は、神楽ちゃんの枕と壁の隙間に隠されていて、今夜の出番を待っている。
 押入れから和室へ、和室から押入れへ。
 〝こんなもん〟に夢中になっている彼女の高い声と、めんどくさそうにしながらもちゃんと相手にしてあげている素っ気無い声を伝え合うために。
「同じ家にいるのになー」
 そんなつまんない突っ込みをする僕にはきっとわからないだろう。
 襖二枚隔てた(しかもその襖も糸のためにちょっとだけ空けているはずだ)だけの距離を使った〝電話〟の楽しさなんて。
 同じ屋根の下だからこそできることがあって、同じ分できないこともあって。
 神楽ちゃんが見つけ、なんやかんや文句をいいながら銀さんは付き合ってあげている。
 僕が作ったのは、ただの「懐かしいおもちゃ」ではなく、ふたりの心を弾く楽器だ。
「あ、今のはさすがにクサかったな」
 突っ込みの内容さえ恥ずかしくなって、僕は変に赤面してしまった。
「さて、と」
 何かを取り繕うように、僕は立ち上がる。朝からの一仕事を終えたばかりで、まだまだやらないといけないことはたくさんある。
 洗濯をして、布団を干して。銀さんもパチンコかどこかに行っていないから、徹底的に大掃除ができる。
 その後は──、スーパーに行ってこよう。
「紙コップ買ってこなきゃ、な」


 神楽ちゃんと銀さんは果たして気付いているんだろうか。
 もちろん頼まれてはいないけど、一個目から、糸の長さは和室から押入れまでの距離ぴったりにしていることに。
 昨日までは白い糸で作っていたそれを、今日は赤い糸で作ってみたということに。






[2010/8/30 花月ゆき 記]
片手天秤』の立花眞白様より、とてもお優しいお言葉に甘えて頂いて参りました。
ツイッターでの銀神糸電話妄想にご反応いただき、とってもものすっごく素敵な作品を書いてくださいました…!!
新八くん視点から見る銀神糸電話のお話…! 新八くんGJです!!!

立花眞白様、本当に本当にありがとうございました!!!