まだ午前中であるというのに、すでに今日一日分のツッコミを使ってしまったような気分になっていた。
「あの……なんかおかしくないですか、コレ」
「「……」」
「あの……なんか僕まで恥ずかしくなってきたんですけど」
「「……」」
「うんともすんとも言わないなんて、らしくないですよ。何か反応くらいしてください」
「「すん」」
「なんでそこがシンクロすんの?!」
新八は、銀時と神楽の間に挟まれ、かぶき町内を歩いていた。
万事屋のひとつの部屋に三人一緒にいることが、こんなにも息苦しいと感じたのは初めてで、耐えきれず苦し紛れに外出を申し出たところ、銀時と神楽も一緒に付いてきてしまったのだ。
ふたりきりにさせてあげられるチャンスでもあったはずなのだが、ふたりして慌てたように自分にしがみついてきてしまい、振り解こうにもできなかった。どちらか一方が居残るという選択肢もふたりの頭の中にはないようなので、ふたりきりになるのは勇気がないけれども離れ離れになるのは嫌だとか、つまりはそういうことなのだろう。
昨日、このふたりの身に、幸せピンク色のイベントが発生したらしいことが判明したのだが、詳細は不明のままだ。お花畑のようなフワフワした空気はあるものの、緊張しているのだろうふたりの心音がどこまでも轟いていて、まったく落ち着かない。巻き込まれるこちらの身にもなってほしいとは思うが、こればかりはもうどうしようもなかった。
新八はそっと溜息を吐く。そこで、ふと空気の流れが乱れたのを感じ、はっとなった。
こちらへ向かって、暴走車が一台近付いてくる。車道側にいるのは神楽だ。危ない! と新八が反応するより早く、銀時のたくましい腕が力強く神楽を引き寄せていた。
「――……ったく、危ねーなオイ」
大事なものを護ろうとするのは本能のようなものだ。意識していない行動であったためか、暴走車に毒つくその姿は、いつも通りの彼らしい振る舞いに見えた。これをきっかけに『いつもの銀さん』に戻ってくれやしないだろうか。そんな淡い期待を抱かずにはいられない。だが、ものの数秒でその希望さえも打ち砕かれてしまう。
「あ」
我に返ったのだろう銀時の手が、神楽の肩を引き寄せたまま、固まった。銀時が慌てて手を引っ込めると、またふたり元の位置に戻ってしまう。肩を抱くくらいしてもかまわない関係になったのではないのか。煮え切らないふたりを見ていると、むしろそうするべきだと新八は主張したくなった。
「そのままいけば良かったじゃん!」
「どこへ?」
「自分の胸にきけェェェェ!」
色恋沙汰で彼にツッコミを入れる日がくることになろうとは思いもしなかったと、新八は今朝からの自分の言動を振り返り、呆れずにはいられない。
「僕は気にしませんから。肩を抱いて歩くくらいしてもいいんですよ」そう告げると、銀時は少し考えた素振りを見せ、その場に立ち止まった。
「神楽」
「……銀ちゃん?」
銀時に合わせて、神楽も立ち止まる。
おそるおそるといった風に、銀時の手が神楽の肩に乗った。銀時と神楽がふたり同時に息を呑む。もう見ているだけでも恥ずかしいが、見守る心づもりではいるのだ。
「神楽、歩くぞ」
「ウ、ウン」
新八はひとつ苦笑して、ふたりに背を向け、先に歩き始めた。
こんな初々しいふたりを見ていられるのは、今だけの貴重なことなのかもしれない。だから、今は温かくそっと見守るべきなのだろうなと、新八はこれからのことを考える。
――だが、何事にも限度というものがあると思うのだ。
背後から、一、二、一、二、とふたりの声が重なって聞こえてくる。静かに見守ると決めたばかりだが、振り返るのも突っ込むのも、新八は我慢することができなかった。
「…… なんで、二人三脚?」
FIN
[2010/3/25 Web拍手へUp]
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