雲ひとつない快晴の日。依頼があればこれ以上にない仕事日和になったのだろうが、依頼はこなかった。
 朝食を終えたあと、ソファの上でゴロゴロとくつろぐ銀時と神楽を横目に見ながら、新八は溜息を吐く。一日はこれからが始まりだというのに、ふたりには活動意欲というものが全くないようだった。
 せっかくのいい天気だ。家でゴロゴロしているのはもったいない。この退屈な時間を有意義に使うべきだ。そう考えた新八は、何か三人でできることはないかと思案を巡らせ、ふと思い立った。
 新八は座っていたソファから立ち上がり、腹に力を込めて言う。
「銀さん、神楽ちゃん、お掃除しましょう!」
 掃除は毎日しているが、もちろん行き届いていないところもある。毎週購入されているジャンプも溜まっているためそろそろ捨て時だ。探せばいくらでも掃除できる場所はある。家も綺麗になれば気分も晴れる。良いこと尽くめだ。
 しかし、銀時と神楽は、大きな声を張り上げた新八に一瞥をくれただけで、また何事もなかったかのように元の体勢に戻ってしまった。
 ふたりが快く引き受けるわけなどないとわかってはいたが、はっきりとそれを目の当たりにすると、挙句の果てにふたり揃って鼻をほじり始めるのを見てしまうと、沸々と腹から込み上げてくるものがある。
 新八はそれをぐっと腹の底で堪えながら、やはりこの手を使うしかないのだろうかと情けない気持ちになりつつ、言葉を発した。
「……働かざる者食うべからず。――今日のおやつは焼きプリンです。どうします?」
 聞くなり、ふたり同時に勢いよく立ち上がったため、新八は苦笑した。
 掃除の指揮権は、新八が握ることにした。まずはモノを捨てることから始めることにする。だが、いざジャンプの膨大な数を目にすると、出鼻を挫かれる思いがした。しばらくの間、資源ゴミに出していないことは把握していたが、一体、何週分溜めたのだろう。
「まずは、ジャンプを捨てることから始めましょう」
「「ラージャ!」」
 このやる気が何時間続くか見物(みもの)である。――が、十分ともたなかった。
 銀時はというと、ジャンプを手にした途端、捨てる前にもう一度読んでおきたいとばかりにそれを開き、その場に座り込んでしまった。
 一方で神楽は、ジャンプを一冊ずつ積み上げ、恐ろしいスピードでジャンプの塔を建設しようとしている。
「このままだとおやつの時間までに終わりませんよ」
 散らかったジャンプを拾い集めながらふたりに告げてやると、神楽がちっちっちっと人差し指を左右に振った。
「私の手にかかれば、すぐに終わるアル」
 新八はジャンプの塔を見上げた。神楽は、自分たちの背丈より高く積み上がったこれらをひとりで抱えていくつもりらしい。確かにバランスにさえ気をつけていれば、神楽にとっては造作もないことかもしれない。だが、自分より年下の女の子にそれをさせてしまうのは、正直気が引けた。
 そこへ、すっと自分の目の前を過る銀時の姿がある。得意気な表情を浮かべる神楽の元へと向かった彼は、読むのをやめたのだろうジャンプを一冊、彼女に手渡して言った。
「オメーは運ばなくていい。五、六冊ずつまとめて紐で縛っとけ」それから、こちらへ視線を向けて言う。「運ぶぞ、新八」
「は、はい!」
 掃除という分野で珍しく指揮を執る銀時に、新八は慌てて返事をし、彼の言う通りに従った。
 神楽が紐で縛り上げたジャンプの束を、銀時と並んでゴミ収集所へ捨てに行く。その作業を繰り返し、これが最後の往復になろうかというところで、新八は銀時に世間話のようなノリで話しかけてみることにした。
「銀さんも、なんだかんだ言って、神楽ちゃんをちゃんと女の子として見てくれてるんですね」
 直接言葉にせずとも、態度でそう示した銀時に、新八は感動に近い何かを覚えていた。これまでもずっと銀時の姿勢はそうであったはずなのだが、これまでと違う何かを感じ始めたせいもあるかもしれない。
 銀時は、まっすぐ前を見据えたまま、言った。
「まァ、一応……な。それに――」
「それに?」
「……なんでもねー」
 促すと、途中でやめてしまった。
 頬をかく銀時を見上げながら、新八は、彼が言わんとしたことがなんとなくわかったような気がした。と同時に、以前、銀時に子供扱いされていると言っていた神楽の言葉を思い返して、少しずつ変わってきたのだろう何かを確信する。なんだ、そうだったのか、と新八はひとり納得した。
 幼子の手をとりゆっくり前へ前へと促すような温もりと優しさのなかで、銀時と神楽の関係は、花の成長のように緩やかな速度でこれからも変わってゆくのだろう。銀時が与えようとしている変化は、神楽がそうと気づいたときには確かなひとつの形として成り立っているに違いない。
 新八は帰りゆく場所を見つめながら、心のなかで呟いた。
「良かったね、神楽ちゃん」



FIN



[2010/5/2 Web拍手へUp]

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