窓の外では雪が降っていた。かぶき町らしからず、辺りは静まり返っている。おそらく、空から降る凍った水分が、音を吸いこんでいるのだろう。テレビの音も、いつもより大きく響いて聞こえた。
 暖房器具はあるが、そこから放出される熱と、部屋へ忍び込んでくる寒さとの戦いは互角である。昼ならまだしも夜になると、表面的な寒さは凌げても、身体の芯へと凍み込んでくる寒さにはなかなか抗えるものでもなかった。
「神楽ちゃん、神楽ちゃん」
 目の前に小さな熱源があることに気づき、銀時は神楽を手招きした。
「何アルか? 銀ちゃん」
「ここにおいで」
 渋々といった様子で、神楽は対面のソファから腰を上げ、銀時の座るソファへと近寄ってくる。銀時は自分の膝の上へと神楽を導いた。
 腰を掴み、くるりと反転させ、少女を後ろから抱き締める。小さな身体はすっぽりと自分の腕の中におさまった。ジグソーパズルの最後の一ピースをはめ込むときは、きっとこれと似たような気持ちになるに違いない。
 銀時は、神楽が抵抗しないのをいいことに、抱き込む腕に力を込めた。
 布越しであっても、肌の温もりは伝染する。自分の肌の冷たさも伝わってしまっただろうかと思ったが、少女の肌の温もりは、奪われるどころか、更なる熱をこちらへ分け与え始めた。
「ハァ…… あったけェ……やっぱガキは体温高けーな」
「いつまでもガキ扱いすんなヨ。天パ」
 憎まれ口を叩きながらも、神楽は銀時の腕を振り解こうとはしない。神楽は小さく身を捩るが、その動きも、抵抗というよりはむしろ、落ち着かなさそうに自身の居所を探るようなものだった。
 しだいにこの体勢にも違和感を覚えなくなったのか、神楽は動かなくなった。健気な心臓の音が、自分のそれと重なり合うのを、銀時は静かに聞くことができた。
「…… 銀ちゃん」
「ン?」
「――何でもないアル」
「……そうか」
 ただ名前を呼びたかっただけなのだろう。理由もなく、用もなく、そうしたかったのだと感じた少女の胸の内に芽生えているものを、銀時は、触れずに見守りたいと思った。
 どれくらいそうしていただろうか。テレビに映る番組も、いつしか一日を振り返る夜のニュースに切り替わっており、腕の中にいる少女からは規則正しい寝息が聞こえ始めていた。
 つんつんと頬を突く。ほんの少し眉を顰めたが、起きる気配は全くといっていいほどなかった。ほのかな赤を織り交ぜた頬を、掌で包みこみ、親指でそっと撫でる。自分のその手つきは、彼女へ向けている感情を隠し通せていない。
「ガキ『扱い』ねェ……」
 少女に放たれた言葉を思い返し、銀時は苦笑した。甘えられることも、甘えることにも不慣れな少女にとっては、今、自分たちがこうして歩み始めている道も、その先も、知らないことばかりなのだろう。
「ま、いっか。そう思わせといても。――今は」
 急かすつもりは毛頭ない。走らずゆっくり歩んでいけばいい。
 それでも、彼女のほんの少し前に立って、両手を広げて導いてゆくくらいは、許されてもいい気がした。



FIN



[2010/3/3 Web拍手へUp]


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