銀時は、隣に座っている少女をチラリと覗き見た。
神楽は夜十時から放送のテレビドラマを見ている。普段ならば、すでに寝ているか寝る準備をしているかという時間ではあるのだが、巷で評判のドラマという噂を耳にしたらしく興味を持ったらしい。夜更かしは美容の大敵といつも口にする少女だが、好奇心には勝てなかったようだ。
ドラマが終わるのは午後十一時だ。明日は朝早くから仕事が入っているのだが、起きられるのだろうか。少し心配になりながらも、銀時は少女を見守ることにした。
特にすることもなかったので、銀時は神楽が熱心に視聴しているテレビドラマを見ることにした。内容はまだ全然見えてこないのだが、ドロドロした不倫モノらしい。あまり教育にはよろしくないなと思ったが、好きに見させておいた。ほんの少しだが、銀時もドラマの内容に興味をひかれ始めていたのだ。
ところが、ドラマも後半に差しかかろうとしたところで、銀時は盛大に後悔することになった。
画面に映し出される映像が暗くなる。電気もつけずに真っ暗な部屋で主人公の男と不倫相手の女が会話をし始めたのだ。
「(……オイオイ、コレ、なんかヤバイんじゃねーの?)」
銀時は心の中で呟く。ドラマの展開が、何やらイケナイ方向に進んでしまいそうな予感がした。
『ァ……ダメよ……』
『今日は、誰も帰ってこない。ふたりだけだよ……』
予感は即座に的中した。キスシーンが始まってしまう。顔に冷や汗をかきながら、それ以上進んでくれるなと銀時は心の底から願った。キスシーンくらいならまだ見させておいてあげてもいいのだ。最近の子供はテレビでも雑誌でもその手のシーンは見慣れている。騒ぎ立てるようなものでもない。そう、このままフレームアウトして、CMに入ればいい。そうすれば万事解決だ。
だが、夜十時開始の不倫ドラマはそれだけでは終わらなかった。
ドサッと男が女を押し倒す音がする。その直後、銀時は絶叫した。
「ダメだダメだァァァァァァァァ!」
なりふりかまっていられず、銀時は両手で神楽の両目を覆い隠した。
「何するネ!」
「早い! まだお前には早い!」
「銀ちゃん! 早くこの手を離すアル! 今、イイトコロだったアルヨ!」
「イイトコロって何がァァァァァ?!」
両者一歩も譲る気はなく、ジタバタと騒音が生じる。夜も更けているため、いつ苦情がきてもおかしくないレベルにまで達していた。
必死に目隠しを続ける銀時と、その手を必死に引き剥がそうとする神楽の攻防。それは、CMに入るまで続いた。
「あーやっと終わりやがったか」
問題のシーンが終わり、銀時は手を離した。わずかな間CMが流れた後、エンディング曲らしきモノも流れ始めたため心から安堵する。己の戦いは終わった。勇者の旅は終わったのだと、銀時は妙な達成感を味わう。
しかし安息の時間はほんのわずかしか訪れなかった。
「……」
「……あ」
ソファの上に隣り合って座っていたふたりが暴れればどうなるか。冷静になった銀時は、現実世界に広がる光景を目の当たりにする。――まるでこれは、自分が神楽を押し倒しているかのような体勢ではないか。
神楽の顔が茹でダコのように真っ赤になってゆくのがわかった。
「銀ちゃんの……銀ちゃんのバカァァァァァァ!」
「ぐふぁ!」
腹に容赦ない蹴りを食らい、銀時は、もう二度とこのドラマを少女に見せまいと心に誓った。
FIN
[2010/2/14 Web拍手へUp]
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