屋根はあるものの、雨は勢いを増して屋根の内側にも激しく打ちつけてくる。真っ直ぐ伸ばした腕と愛用の拳銃も雨でびっしょり濡れてしまっていたが、リザは撃つのをやめなかった。
雨の日は、リザは不安でたまらなくなる。自分の上官であるロイが、もっとも危険に晒されるのはこんな雨の降る日だからだ。
「焔の錬金術師」という二つ名を持つ彼のことを知る者は多い。国家錬金術師であるのと同時に若くして国軍大佐という地位にまで昇りつめたロイは、それゆ えに周りに敵も多く、標的にされることも多かった。だからこそ、彼の弱みとなるものを握ろうとする輩は後を絶たないのだが、そこでロイにとって致命的とも いえるウイークポイント 彼が「焔の錬金術師」であるがゆえの「弱点」が必然的に狙われてしまうのである。
それも決まって雨の降る日に 。
それはロイが彼の得意とする錬金術で焔を出すことができないからだ。
大部屋に信用できる仲間が皆揃っているときには、ロイの護衛を彼らに任せ、リザはよくこうして射撃訓練場に赴いた。
ここでの訓練は、ロイの帰宅に備えてのことである。司令部外がロイにとって最も命を狙われやすい。彼女は司令部外での護衛をするまえに、少しでも銃を撃つ感覚を腕に残しておきたかったのだ。
リザは新たに弾を装填し、深呼吸をする。
的を敵だと思い睨みつける。そうすると身体の中で一直線に神経が収束してゆくような感じがする。
背後にロイがいるものと考える。そうすると絶対に的を外せないという想いがこみ上げてくる。
ロイを誰にも奪われたくはない、その想いがリザに人の命をも奪いかねない引鉄を引く強さを与えていた。
――雨の音を沈めるかのように空に響いたひとつの銃声。
的のど真ん中を銃弾が突き抜けているのを見て、リザは一度腕を下ろす。そこでリザは背後に人のいる気配を感じた。
「中尉、濡れるぞ」
「大佐 」
リザが振り返ると、そこにはロイが傘を持ったまま立っている。ロイの帰宅時間になったのかと思い時計を見たが、まだ定時にはなっていなかった。
ロイはすっとリザに傘を差し伸べる。射撃訓練場には一応屋根があるのだから傘は必要ないのだが、こんなに激しい雨の降る日にはそれが全く役に立っていないことをロイはよく知っているようだった。
リザは部下である自分の方が彼の傘の中に入れてもらっていることに申し訳なさを感じたが、一方でロイは全く気にした様子もなく、ただ遠くにある的を見つめている。
こんな雨の降る日だからこそ、的を外すことを自身に許さない彼女の強さがそこには刻まれているように見えたのかもしれない。
ロイは視線をリザに戻す。そして彼女の頬についた雫を指で拭ってやりながらこう言った。
「君は知らないと思うが 私は、君の撃つ銃の声にはひどく安心するのだよ。ホークアイ中尉」
「大佐 ?」
最初、リザはロイの言葉が意味することがよく分からなかった。胸を弾かれんばかりのあのけたたましい音が安心できるものだとはリザには到底思えなかったからだ。しかしロイはこうも言った。
「敵の銃があげた声ならば、もしかするとそれが自分にとって今生に聞く最後の音となるかもしれない、だからおそろしいものだと思う。だが、君のは違う。君の銃の声は、私を守るために君が引鉄を引いて生じるものだ」
ロイはもう一度、遠くにある的を見つめる。リザはロイの横顔を見つめる。
もう一度彼の視線が自分に降りてきたとき、リザは僅かに言葉をすりかえられたロイの告白を雨の降りしきる中で聞いた。
リザの想いが報われた瞬間だった。
「 君は、強くも優しい。だから私はもう君を手放すことができなくなってしまった」
――彼女の撃つ銃の声は、彼女がロイを守りたいと願う声、そのものだったのだ。
FIN
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